教えて!「文科省の概算要求から分かること」

 もうすぐ12月。毎年恒例の政府予算折衝も、これから大詰めを迎えます。ところで日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも対国内総生産(GDP)比で最も教育にお金を掛けていない国だと指摘される一方、日本の教員が「世界一忙しい」実態もOECDの調査で浮き彫りとなっています。教育再生が内閣の最重要課題だと言われているはずなのに、いったいどうなっているのでしょう…?

教えて!「文科省の概算要求から分かること」

 

 文部科学省の2017年度概算要求の目玉事業が、まさに教育予算の困難な現状を象徴している気がします。その名も「『次世代の学校』創生のための指導体制実現構想」、いわゆる「教職員定数改善計画」です。児童生徒数の減少に伴って公立義務教育諸学校の教職員定数にも今後10年間で4万5400人の自然減が見込まれることを受けて、そのうち2万9760人をアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)などの定数改善に充てたい考えです。

 しかし、定数改善計画は毎年度、手を替え品を替え要求し続けていますが、第7次計画(01~05年度)の完成以来、10年以上も策定されていません。公立高校は地方財政措置ですが、義務教育諸学校での困難さを反映して、計画案すら立てられない状態が続いています。

 「構想」のうち、通級と外国人児童生徒指導に関しては、前年の予算折衝を経て、17年度からの基礎定数化(現在は加配措置)が既定路線になっていたはずでした。しかし6月の消費増税再延期で、財務省は態度を一変。11月の財政制度等審議会建議でも改めて精査を求めており、年末まで予断を許しません。

 そもそも「次世代の学校」自体、文科省にとって苦肉の策であることを表わしています。2015年12月の「チーム学校」など中央教育審議会3答申を実現するために馳浩文部科学相(当時)が名付けた「『次世代の学校・地域』創生プラン」(通称「馳プラン」)に基づくものですが、その「チーム学校」の捉え方も、多様な専門職等との連携・協働で学校の教育力を更にアップさせたい文科省側と、教員以外の外部スタッフを導入すれば定数改善は必要なくなると主張する財務省側で“同床異夢”の解釈をしています。

 しかも馳プランによると「次世代の学校」の中心には、次期学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の実現が据えられています。次期指導要領の理念を実現するためにも「次世代の学校」定数改善計画が不可欠だ――というのが文科省の論理なのですが、少なくとも2017年度予算で実現の見通しは暗いと言わざるを得ません。

 高大接続改革も、次期指導要領と「車の両輪」(2014年11月当時の下村博文文科相)となるべき重要施策です。17年度概算要求では、「高大接続改革実行プラン」(15年1月)の工程表に沿って19年度から「高等学校基礎学力テスト」を、20年度からの「大学入学希望者学力評価テスト」(いずれも仮称)を創設すべく、研究開発やプレテスト実施などの必要経費が計上されています。予算折衝で多少の減額はされるとしても、政府予算案に残ることは確実です。ただ、一方の当事者である高校の定数改善が見通しがつかないばかりか、もう一方の当事者である大学も、国立は運営費交付金をめぐって今年も文科省対財務省の攻防が繰り広げられていますし、私立も16年度に国の私学助成が経常費の10%を割るなど、「明治以来の大改革」(当時の下村文科相)を担うには、財政基盤が弱体化しています。

 国の借金が1000兆円を超えるなど、財政状況が厳しいことも確かです。しかし教育予算が「未来への投資」であることは、財政審建議も認めるところです。20年後、50年後の経済再生のためにも、教育予算の在り方について真剣に考えなければ、教育現場は再生どころか、ますます「機能不全」(第1次安倍内閣下の「教育再生会議」第1次報告=07年1月)を来してしまうのではないでしょうか。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/