教えて!「高校の新教育課程をどうする」

 中央教育審議会は21日、松野博一・文部科学相に学習指導要領の改訂を答申しました。新しい高校指導要領の告示は小中学校の1年遅れで2018年3月となる見通しですが、今から何を考えておかなければならないのでしょうか。

教えて!「高校の新教育課程をどうする」

 

 「新たな入試制度の下で大学を受験する生徒(現在の中学校2年生)が入学してくるまで、あと1年4カ月しかない」――11月に札幌市で開催された全国普通科高等学校長会(全普高)の総会で、宮本久也理事長(全国高等学校長協会会長、東京都立西高校長)はこう指摘していました。

 今回の指導要領改訂(教育課程改革)は、高大接続改革との「車の両輪」で「明治以来の大改革」になると、2014年11月の諮問時に下村博文・文科相(当時)が述べていました。特に高校の新科目は、大学入試センター試験に替わって2020年度から創設される「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」とも密接な関わりを持って検討されました。

 くれぐれも注意したいのは、それが、高大接続改革の中教審答申(2014年12月)における「学力の3要素」(①知識・技能②思考力・判断力・表現力③主体性・多様性・協働性)、今回の教育課程答申では「資質・能力の三つの柱」(①知識・技能②思考力・判断力・表現力等③学びに向かう力・人間性等)という、「コンピテンシー(資質・能力)・ベース」の改革である、ということです。

 知識を教え込み、それを生徒がテストで再生して入試や就職試験をパスできれば、その後の人生も何とかなる――という時代では、もうありません。近い将来、人工知能(AI)などの技術革新で、今ある職業の半分が入れ替わると言われています。そんな時代にも対応できる資質・能力を身に付けさせることが求められます。

 だからこそ答申が求めるように、各学校で、学校種間の「縦のつながり」と教科・領域等間の「横のつながり」を意識したカリキュラム・マネジメント(カリマネ)を行った上で、「アクティブ・ラーニング」(AL)の視点で授業を改善し、「主体的・対話的で深い学び」を実現しなければならないのです。

 そう考えると、「指導要領が告示されてから」「新課程の教科書が出てから」「新課程対応の入試がどうなるかが見えてから」という待ちの姿勢ではいられません。AIが人間の能力を超える「シンギュラリティー」(技術的特異点)が到来するとされる2045年、今の高校生は40代後半の働き盛りです。

 そんな高校教育を実現するには、学校現場の努力だけでは限界があります。研修や授業研究の保障、ALのためのICT(情報通信技術)機器の充実、そして何より教職員定数の改善など、条件整備も欠かせません。答申のタイトルが「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」となっているのは、そのためです。

 先日、さいたま市立大宮北高校を取材してきました。理数科を持ち、今年度からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定された同高は、恵まれたICT環境を利用したALはもとより、普通科でも数学・理科・情報の3人によるチーム・ティーチング(TT)で「数理探究基礎」を課すなど、もう新課程を先取りする取り組みを行っています。全普高の大学入試研究委員会専門委員も務める細田眞由美校長は、「全国の高校長も、現行の教育活動のままでいいとは思っていません。21世紀中盤に職業人として必要とされる力を生徒たちに付けさせるのが高校教育の役割ですし、その点で大学とも一致するはずです」と話してくれました。

 キャリア教育や「総合的な学習の時間」をはじめ、これまでの高校教育で培ってきた蓄積を基に、「車の両輪」改革をてこにして、今こそ次代の高校教育へと踏み出す時ではないでしょうか。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/