教えて!「日本の子どもたちの学力は今?」

 昨年12月の中央教育審議会答申を受けて文部科学省は現在、次期学習指導要領の改訂作業を急ピッチで進めています。高校の告示は来年3月ですが、入学する生徒が学ぶ小中学校指導要領の告示は今年3月です。ベテランの先生なら、過去の改訂で新課程入学生に戸惑いを感じた方も少なくなかったことでしょう。そもそも今の小中学生の何が課題で、次期指導要領ではどう改善しようとしているのでしょうか。

教えて!「日本の子どもたちの学力は今?」

 

 中教審で答申に向けた議論が大詰めを迎える中、二つの代表的な国際学力調査の結果が相次いで公表されたのは、記憶に新しいところです。小中学校で学んだことの到達度を測るTIMSS(ティムズ)(国際教育到達度評価学会=IEA=の「国際数学・理科教育動向調査」)と、15歳時点でどのぐらい実社会に活用できる力になっているかを測るPISA(ピザ)(経済協力開発機構=OECD=の「生徒の学習到達度調査」)です。

 PISAの読解力に課題があった一方、算数・数学と理科はTIMSS、PISAとも好調だったことは、文科省担当者の胸をほっとなで下ろさせました。何しろ前回のTIMSS・PISA同時発表年だった12年前、その結果を「学力低下」の証拠だと認めざるを得なかったからです。

 2008~09年に改訂された現行指導要領では、これら理数系を前倒しまでして授業時数・内容ともに充実させたのですから、とりわけTIMSSの結果が上向いたのは当然です。さらに、国際平均と比較すればまだ低いものの、算数・数学や理科が「楽しい」と思う割合や、中学校で「日常生活に役立つ」「将来、自分が進む仕事につくために、良い成績をとる必要がある」という割合が増加したことは、担当者にとって大きな喜びだったようです。

 ただ筆者は、PISAに関するアンドレアス・シュライヒャーOECD教育・スキル局長のブリーフィング中継(パリ―東京)を聴きながら、むしろそこが日本の子どもの「学力」の大きな問題なのではないか、と考えるようになりました。いくら勉強しても、多くの子どもたちには依然としてテストや入試のためという他律的な動機にとどまり、それ自体を自分の人生や社会につなげようという自律的な意識が、なかなか育っていないのではないか――と。

 現行の学習指導要領、もっと言えば学校教育法の下で、各学校では①知識・技能②思考力・判断力・表現力③学習意欲(主体的に学習する態度)、という「学力の3要素」が、バランス良く育成されているはずです。とりわけ③について、高大接続改革では「主体性・多様性・協働性」に、次期指導要領の「資質・能力の三つの柱」では「学びに向かう力・人間性等」に置き換えて、高等教育はもとより国際的にも通用する「学力」「資質・能力」としてバージョンアップさせることを狙っています。それなのに、現行でも意欲にまだまだ課題が残っているのだとしたら、今後が心配です。

 学校教育の究極の目的は、社会的自立のはずです。だからこそ次期指導要領では「社会に開かれた教育課程」を公式キャッチフレーズとして打ち出し、豊かな学びのためにキャリア教育の視点も引き続き重要性を強調しています。教科・科目の学習を学校内にとどめず、自分の人生や社会全体にとって有意義なものなのだと生徒一人一人に日々の授業で実感させるためにも、アクティブ・ラーニング(課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び、AL)による授業実践がますます求められている、と言えるのではないでしょうか。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/