教えて!「企業が大学生に求めるものは?」

 今春も大学などの入試日程に追われる中、あっと言う間に卒業シーズンを控える時期になりました。ところで現在の教育改革論議では、社会で通用する資質・能力の育成に照準を合わせているのが特徴です。高大接続改革も、元々は企業をはじめとした社会からの信頼に応えたい大学側の危機意識から発したものでした。その一方の当事者である企業は、大学生に求める力をどう考えているのでしょうか…?

教えて!「企業が大学生に求めるものは?」

 

 大学生の新卒採用をめぐっては昨年11~12月、日本経済団体連合会(経団連)や経済同友会が、会員企業を対象にしたアンケート調査の結果を相次いで発表しています。
  経団連のアンケートによると、選考に当たって特に重視した点は「コミュニケ―ション能力」が87.0%で13年連続の1位。次いで「主体性」が63.8%で7年連続の2位。3・4位では「協調性」(49.1%)が「チャレンジ精神」(46.0%)を上回りました。


 同友会は、企業が求める資質・能力を四つに整理していますが、アンケートによると、大学学部生に「十分備わっている」と回答した割合は、①課題設定力・解決力29.1%②耐力・胆力26.5%③異文化適応力26.5%④コミュニケーション能力40.7%――でした。

 いずれにしても企業側は、大学で学んだ専門的知識以外に、汎用的な資質・能力を求めていることは明らかです。それらは「学士力」(文部科学省)、「社会人基礎力」(経済産業省)、「人間力」(内閣府)などとして、具体的な提言も行われています。そんな社会・企業側の期待に応える大学教育の在り方を追求したのが、2012年8月の中教審「質的転換」答申であり、学生を送り出す高校側にも変わってもらわなければならないという問題意識から同日の中教審総会で諮問されたのが「高大接続改革」でした。

 高大接続改革の一環としての大学教育改革では、「三つの方針」(①卒業認定・学位授与の方針=ディプロマ・ポリシー、DP ②教育課程編成・実施の方針=カリキュラム・ポリシー、CP ③入学者受け入れの方針=アドミッション・ポリシー、AP)の策定が、国公私立を問わず義務付けられました。このうち高校関係者はどうしてもAPにばかり関心を向けがちですが、まずはその大学が社会に輩出する人材像としてのDPを明らかにし、そのためのCPを定めた上で、そうした4年間の教育にふさわしい学生を集めるためにAPがあることを、忘れてはなりません。4月以降、全大学に三つの方針の策定・公表が求められていることから、それに基づいて今後、入学者選抜のみならず、大学教育も大きく変わっていくことでしょう。

 さて、そんな大学側の涙ぐましい努力に対して、企業側は大学の教育を、どうみているのでしょうか。経団連のアンケートによると、面接時に成績証明書など履修履歴を今後「かなり重視する」と回答したのは10.2%だけ。「やや重視する」は63.4%で、現在(「かなり重視した」「やや重視した」)より各0.7ポイント、6.3ポイントしか上回っていません。

 もちろん、これから始まる「三つの方針」改革の様子を当面は見たいという意向もあるのでしょう。しかし大学側が、せっかく企業の期待に応える教育に改めようとしている時に、まだ企業側に大学時代の学修を積極的に評価しようという機運がみられないのは、残念な気もします。

 大卒の就職活動をめぐっては、選考活動開始時期が2カ月前倒しされました。経団連アンケートによると37.9%が「就職活動の長期化の是正」につながったというのですが、実質的には3年間に満たない大学教育の成果で学生を評価しているわけです。若者の社会へのトランジションを後押しするためには、高大接続はもとより「高大社接続」(昨年11月の名古屋大学シンポジウム)の必要性さえ指摘される中、企業の姿勢にも今後、変化が期待されます。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/