教えて!「世界大学ランキング日本版って?」

 英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)が、初の世界大学ランキング日本版を発表しました。世界版でも国内大学の順位が付いているのに、なぜ改めて日本版を出す必要があるのでしょうか。

教えて! 世界大学ランキング日本版って?

 
 注目したいのは、今回の日本版が、大学の「教育力」を測ろうとしていることです。
 世界版でも「教育力」を評価分野としているのですが、配点割合は全体の30%にすぎません。後は「研究力」「研究の影響力」が各30%、「国際性」7.5%、「産業界からの収入」2.5%となっています。


 THEでは全世界で約1万8000あるとされる大学のうち、980大学をランキングしています。そのうち日本は69大学と、米国(148大学)、英国(91大学)に次ぐ3位。4位の中国(52大学)に追い上げられているとはいえ、まだまだ健闘していると評価することもできます。

 しかし、いわゆる研究大学でなければ、ランキングの対象にもなりません。実際、国内では有名でも、ランクインしていない教育中心の大学や、文系単科大学などが数多くあります。

 世界版にランクインしていなければ、留学を検討している海外の学生が、比較の対象にすることさえできません。一方、日本版には、エントリーした435大学のうち150大学の総合ランキングが付けられ、しかも分野別(教育リソース38%、教育満足度26%、教育成果20%、国際性16%)でも各150大学がランキングされており、結果的に300近い大学の名前がどこかに挙がっているといいますから、それだけの国内大学の情報がTHEの英文サイトから検索できるようになるのです。

 世界では今、経済発展の著しい中国やインドなどが高等教育人材の養成を急いでいますが、とても国内で大学の整備が追いつかないといいます。一方で、トランプ大統領が移民受け入れ制限に走ったり、英国がEU離脱の準備を進めたりするなど、両国への留学も不安定要素が増しそうです。そうした中、日本の大学は、留学生を呼び込むチャンスになるかもしれません。

 そして、もっと大きい意義は、「教育力」による大学の勝負です。
 世界中の国々が高等教育人材を増やそうとしているのは、これからの時代にはグローバル人材やイノベーション人材がますます必要になる、と踏んでいるからです。しかし、そもそも国際標準で行われる学術研究が国境を越えて評価しやすいのに対して、教育力は各国の歴史や文化にも左右されるため、なかなか評価しにくいといいます。


 そのためTHEでは、まず、州立コミュニティー・カレッジや宗教系大学など教育中心の大学が多い米国でのランキングを昨年9月に発表しました。その第2号として、やはり教育重視の大学が多く、国内データも豊富な日本に白羽の矢を立てた、というわけです。

 ただ、日本版でも「教育リソース」が評価の3分の1以上を占めるなど、財政基盤の潤沢な研究大学が有利になっている面も否めません。教育に力を入れるにも財政基盤は重要だ、という考えに基づくものですが、評価分野や指標は今後、改良を加えたいとしています。

 何より重要なのは、国内において、偏差値以外に大学を評価する新たな指標が得られることです。指標では「大学合格者の学力」(教育リソース分野)だけでなく、高校教員の評判調査として「グローバル人材の育成の重視」とともに「入学後の能力伸長」も尋ねていますし、企業人事の評判調査もあります。入学時に低い学力で受け入れて、高い水準の資質・能力を身に付けさせて社会に送り出す「お得大学」も分かるようになるかもしれません。

 各大学には、アドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針)だけでなく、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)、ディプロマ・ポリシー(卒業認定・学位授与の方針)を一体とする「三つの方針」の策定と公表が、今年度から義務付けられています。今後、各大学の改革に弾みが付くと予想される中、その改革度合いを測るものになる可能性も秘めているのです。

 これを機会に、「昔の名前」にこだわらず、改革を続ける大学の「今」を見る、新たな視点を探ってみてはいかがでしょうか。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/