学校法人プール学院(プール学院短期大学※)理事長・学院長 杉山修一 氏
(※2018年4月 プール学院大学短期大学部より名称変更予定)
(2017年4月24日更新)
今、高等教育に求められるものに 早期から取り組んできたのが短期大学
女子だけの教育機関だからできることがある
学校経営において不利な条件として「地方・私立・小規模・女子・短期」の5項目をあげた方がおられます。これは私も常々感じていたことです。本学は大阪府にありますが、大阪のなかでは地方にありますので5つすべてを満たします。ですが、これら5項目は本学の強みにもできるものです。
女子教育の時代は終わったという見方もあるのかもしれませんが、思春期から成人にかけて一定期間女子だけで過ごすことには大きな意義があります。男性と女性には、それぞれ社会的な役割が存在します。女性は一般に男性の役割とされることは男性に譲る傾向がありますが、女子だけの環境では組織のリーダーになったり、重い荷物運びといった瑣末なことも含めて女性がすべてを担うことになります。女性であるが故にそのことをやらないという心理的な抑制が外れるのです。この経験は男性とも対等な関係を築く素地になり、女性のキャリア育成という観点からも、短期大学や女子大学といった女子だけの教育機関はあってよいと考えます。また、今一番大きな社会問題は子供の貧困だと言われています。経済的な余裕がないご家庭は少なくありませんが、短期大学は4年制大学の半分の学費で学べます。私は人間にとっての幸せの一つは、学びたい人が学べることだと思います。また、短期大学ならそういった役割を果していけるのだと思うのです。
産学共同や地域貢献プログラムを早期から展開してきた
地方に根付く学校の強みは、地域連携ができることです。秘書科の取り組みの事例をあげますと、本学の地元堺市は様々な地場産業や伝統工芸で有名ですが、その一つがお香です。堺線香のメーカーである株式会社奥野清明堂の奥野浩史社長に客員教授に就任していただき、「やまとなでし香」という製品を同社と本学学生が共同開発するプロジェクトを進めてきました。「やまとなでし香Co.LTD」という仮想企業を立ち上げ、奥野社長にご指導いただきながら学生たちが商品企画から販売まで手がけています。自分たちで開発した商品とあって、学生たちは売り込みも熱心です。わずか2年間の限られた時間で密度の濃いアクティブラーニングを体験して即戦力を目指す。秘書科ではそういう学びを深めています。
幼児教育保育学科では「生活園芸」という専門科目を設定して、園芸に取り組ませています。キャンパス内に菜園があり、芋や野菜、花などを栽培し、そこで収穫した農産物を地域の方々と分かち合うという地域貢献プログラムを行っています。「ぽてっこクラブ」という活動では、地域の子供たちやお母さんを招き、焼き芋パーティーをして交流を深めています。私は幼児教育保育学科の学生には、子供たちに農作業を教えられる保育士・幼稚園教諭になってほしいと願っています。女性にしかできないこと。それは出産です。産むべきだという意味ではありません。事実において出産は女性にしかできません。だから、女性にこそ命の大切さを実感してほしい。農作業はその絶好の機会で、我々は農作物の命をいただいて命を育んでいるという至極当然のことを意識化できます。植物にも微生物に食べられるという関係があり、それぞれの命を差し出して、命がつながっています。子供たちにそうした命のつながりを体験的に伝えられる保育士・幼稚園教諭を育てたい。それが園芸に取り組ませている意味です。
アクティブラーニングは従来、短期大学の得意分野
近年、高等教育機関において、とくに職業教育の文脈でアクティブラーニングの重要性が指摘されています。本学では事例をあげたように、ずっと以前から取り組んできました。本学に限らず実務教育を中心としたアクティブラーニングは従来、短期大学の得意分野だったのです。
文科省が高等教育機関に対して「十分な知識・技術をもち、それを活用できる思考力、判断力、表現力を臨機応変に発揮し、主体性をもって多様な人と協力して学び、働く力を身につける教育」が大切だと呼びかけています。また、実践的な職業教育を行うことの重要性の声をあげています。このことは、まさに本学が今まで行ってきたことです。高等教育に求められるものが変化してきた今、短期大学の教育内容はそれに合致しています。本学だけでなく、そのような短期大学の良さにも、ぜひ目を向けていただきたいと思います。
約140年前に英国の女性宣教師が立ち上げた女学校が原点
学校法人プール学院の歴史は1879(明治12)年、英国聖公会(英国国教会)から派遣された女性宣教師ミス・メアリー・J・オスクラドが創設した女学校「永生(えいせい)学校」に始まります。当時日本は富国強兵、殖産興業の政策を進めており男子の教育環境は整いつつありましたが、女子教育はほぼ手つかずの状態でした。当時の日本で女学校を設立したミス・オスクラドには、キリスト教の価値観は神の前では男女は同等であり、女子にも男子と同じ教育機会が与えられるべきという認識があったのだと思います。しかし資金が乏しいために設備も十分ではなく、志だけはあったという状態でした。この女学校を発展させる礎を築いたのが1883(明治16)年に来日した英国聖公会のアーサー・W・プール主教でした。校舎も設備も不十分な様子をみて、何とか援助したいと本国に問い合わせたところ、募金活動が実施されることになりました。決して豊かでない人が1ポンド単位で寄付をしてくださったこともあったそうです。その資金をもとに校舎ができ、環境が整いました。プール主教はその後帰国してほどなく亡くなりますが、主教の恩に報いるために「普溜(プール)女学校」と改称した。これがプール学院の成り立ちです。
プール学院短期大学は、1950(昭和25)年の短大制度発足と同時に開学しました。英文科の単科からのスタートで、当時のプール学院出身者は英語がよくできる人たちでした。60歳代から70歳代になった卒業生の方々と、プール主教の墓参に英国へご一緒したことがあるのですが、皆さん通訳の必要はありませんでした。
短期大学は高度経済成長のなか、教養と基礎知識をもったよい働き手として歓迎され、1990年代まで就職に有利な時代が続きました。本学の卒業生も企業からの信望が非常に厚く、良好な就職状況を保ってきました。しかし男女雇用機会均等法の施行以来女子の4年制大学志向が高まり、本学院も1996(平成8)年に短期大学の英文科を改組し、プール学院大学を設置して今日に至ります。2018(平成30)年、学院は新しいスタートを切ります。プール学院大学は設置者を学校法人桃山学院に変更し、桃山学院教育大学という名称に変わります(構想中=収録時)。短期大学部はプール学院短期大学となり(名称変更予定=収録時)、学校法人プール学院は中学・高等学校および短期大学の体制で、女子教育に特化する形で運営していきます。
キリスト教の精神にもとづいた人間形成
最後になりますが、本学の最大の特徴は学生一人ひとりを大切にしている点です。学校の規模が大きくないということもありますが、学生も教職員もお互いに顔や名前がわかります。そしてよく挨拶をします。学生10人から15人を1クラスとし、担任制度にもしています。学生と教職員の距離が近く本当にアットホームな雰囲気です。気軽に相談できる体制が整っているのです。こういった環境は今に始まったものではなく何十年も続いています。本学がキリスト教の精神にもとづいた人間形成を第一義にしているからです。毎日行われている礼拝活動に多くの学生が参加していますが、その姿を見ていただくことで本学の本質をご理解いただけるものと思っています。
【Profile】
杉山 修一(すぎやま・しゅういち)氏
1948年東京都生まれ。1973年青山学院大学経営学部卒業、1976年聖公会神学院卒業。1990年学校法人立教女学院中学・高等学校校長。2004年学校法人プール学院学院長。2012年より現職。
【プール学院短期大学(現校名 プール学院大学短期大学部 2018年4月名称変更予定 構想中)の情報(スタディサプリ進路)】