教えて!「新テスト全貌現る?②“学びの基礎診断”とは?」

 文部科学省が先ごろ発表した「高大接続改革の進捗(しんちょく)状況について」では、これまでの「高等学校基礎学力テスト」が「高校生のための学びの基礎診断」に改められました。依然として仮称のままですが、何が変わり、何が変わらなかったのでしょうか。

教えて!「新テスト全貌現る?」

 まず、なぜ名称を「テスト」から「診断」に変えたのかというと、検討・準備グループの論点整理では、「『テスト』という名称は、受検者を『選抜』する性格を有するとの印象を与え、導入目的やその機能等が正確に伝わりにくい」からだと説明しています。

 そもそも基礎学力テストは、高大接続改革の論議が始まる以前、民主党政権下で高校授業料無償化が導入されたことを契機に、高校の在り方を検討していた中央教育審議会の高等学校教育部会(2011年11月~14年6月)が、高校教育の質を保証する方策として検討していた「高等学校学習到達度テスト(仮称)」(13年1月の審議経過報告段階)が基になっています。いわば全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の高校版です。

 それが一時期、教育再生実行会議の第4次提言(13年10月)に沿って「達成度テスト(基礎レベル)」とされて以降、当時「達成度テスト(発展レベル)」とされた大学入試センター試験の後継テストとの関係がよく分からなくなってしまいました。

 しかし、あくまで高校教育の改善のためのテストであるという位置付けにブレはありません。「名は体を表す」と言いますが、むしろ体を表すための名の変更だと言っていいでしょう。小・中学校の関係者の間で「全国学力テスト」という通称を避けて「全国学調」(「調査」の側面を強調)と呼ぶ傾向が強まっているのと同じ流れです。
 さて、「基礎学力テスト」の名称を提言した中教審答申(14年12月)では、生徒の主体的な学習意欲を喚起する観点から、希望参加方式とされました。それが高大接続システム改革会議の最終報告(16年3月)では多数の受検を促そうと、学校単位の受検が基本となったのですが、裏を返せば学校ぐるみで受検しないことも大いにあり得るわけです。
 高校の学習到達度を測るテストといっても、進学校にとっては簡単すぎてテストを受ける意味はあまりありません。一方、専門高校は、既に資格・検定試験など教育の質を保証する仕組みを独自に持っていますから、やはりテストにあまり意義を感じられません。どれだけの学校が参加するものか、導入前から危ぶむ声があったのも事実です。

 もともと高校関係者の間には、基礎学力テストの導入には反対しないものの、実施時期に関しては教育活動に支障が出ず、負担も掛からないようにしてほしい、という意見が根強くありました。そのためシステム会議最終報告では、大量にストックされた問題からランダムに出題する「IRT(項目反応理論)方式」と「CRT(コンピューター使用型テスト)方式」を組み合わせ、コンピューターを使って、いつでも、どこでも行事の合間など都合のいい時に学校で受検できる「インハウス方式」まで提言したのですが、当時から技術的に難しいと言われており、事実、今回の論点整理では、あっさり先送りとなりました。

 しかし今回、名称より大きな軌道修正が行われています。大学入試センターを抜本的に改組した新センターが実施するという方針を諦め、国の認定を受けた民間事業者等に委ねる形にしたのです。論点整理では、センターで直接実施するよりも効果的・効率的な実施体制を構築できる可能性がある、としています。既に5月30日には東京都内で、民間事業者等を集めた説明会が行われるなど、19年度からの実施に向けて動き始めています。
 いろいろな思惑に振り回されてきた感の拭えない「基礎診断」ですが、民間事業者が既に持っているノウハウを生かした多様な測定ツールが開発されれば、これまで振り返ってきた課題を一気に解消し、多様な学校の実態に応じた使いやすいものになる期待が高まります。受検料などコストの問題は依然残りますが、何より各学校にとってPDCAサイクルに基づく指導の改善に寄与し、生徒の学力を向上させるのに有効なものが多く出てきてほしいものです。

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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/