教えて!「OECDが指摘する日本の教育とは?」

 次期学習指導要領の目玉であるアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)の取り組みが、高校でも急速に広がっています。次期指導要領は、国際的な教育課程改革の潮流も意識しているといいますが、日本の教育は今、何を目指すべきなのでしょうか。

教えて!「OECDが指摘する日本の教育とは?」


 文部科学省は、代表的な国際学力調査PISA(ピザ)(生徒の学習到達度調査)の実施でも知られる経済協力開発機構(OECD)と共催で毎年、「OECD/Japanセミナー」を開催しています。今年は7月1日に行われました。テーマは「PISA2015から見えるこれからの学び-科学的リテラシーと主体的・対話的で深い学び」。2015年に実施されたPISAの中心分野が科学的リテラシーだったことと、次期指導要領を掛けたものです。
 
 その中で鈴木寛・大臣補佐官(元副大臣)は、「OECDと同期して」次期指導要領を改訂したことを強調しました。OECDは現在、将来に向けた教育の在り方を世界に提言する「Education 2030」事業(15~18年)を進めていますが、日本政府=文科省も2015年から、OECDとの政策対話を進めています。未来のカリキュラム・デザインとして①知識②スキル③気質――が検討されているのも、次期指導要領の「資質・能力の三つの柱」(①知識・技能②思考力・判断力・表現力等③学びに向かう力・人間性等)と響き合っていると言うことができるでしょう。また、三つの柱は、学校教育法に規定されている「学力の3要素」(①知識・技能②思考力・判断力・表現力③学習意欲)を拡張させたものですから、日本では現在でも進行中の教育課程改革だと受け止めることができます。

 実際、「ミスターPISA」とも呼ばれるOECDのアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長は、2000年のPISA開始以来、日本が一貫して好成績を上げてきたことはもとより、「暗記戦略」に頼らずに、「コントロール戦略」を身に付けさせることに成功してきたと、高く評価しました。コントロール戦略というのは、学習したことを自ら管理・構造化することで、未知の課題を解くためにも、学ぶことを学ぶ学習戦略です。学ぶことを学ぶといえば、総合的な学習の時間が目指してきたものであり、総合的な学習の時間を熱心に行うほど全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のB問題(主に活用)の成績も高くなることが分かっています。国際的に見ても、これまでの日本の教育が奏功してきたと言えそうです。

 ただしシュライヒャー局長は、「エラボレーション戦略」を取っている生徒の割合は参加国の中でも低いことを指摘し、「教科を越えてALをすることに、日本は唯一うまくいっていない」と評しました。エラボレーション戦略とは、さまざまな知識を自ら積極的に結び付ける、能動的な学習戦略のことだといいます。教科の学びを深めるALについて関心は高まっていますが、それを教科を超えた資質・能力にまで高めることが次期指導要領のカリキュラム・マネジメント(CM)の考え方ですから、まだまだ研究・研修の余地がありそうです。
 
 またシュライヒャー局長は、日本の生徒が、科学的リテラシーのスコアは高いのに、科学に関連した職業に就きたい割合が低いことも課題として指摘しました。科学的リテラシーの育成のためには「科学者のように考える」ことが重要だと、OECDは考えるからです。PISAで軒並み1位となったシンガポールでも、科学者と一緒に教員研修を行うとともに、学習プロセスを重視するために学習内容を約20%削減したといいます。
 大学入学者選抜も含めた高大接続改革でも、学力の在り方が問われています。結果的に暗記による知識詰め込みこそが重要であるという「隠れたカリキュラム」を生徒に与えていないか、改めて反省しながら、幅広い資質・能力を育成するALの視点で授業改善に取り組むことが、国際的視点からも求められていると言えるのではないでしょうか。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/