教えて!「新テスト全貌現る?④進路指導をどうする」

 「年度初頭」「6月末」と遅れに遅れていた高大接続改革の方針決定も、ようやく7月10日の会合で「大学入学共通テスト」の実施方針が了承されたことで、改革の全貌が現れたと言っていいでしょう。
 これを受けて個別大学がどう動くかにもよりますが、今後の進路指導をどう考えればいいのでしょうか。

教えて!「新テスト全貌現る?④」


 5月に示された「進捗状況」では、共通テストの英語4技能評価に関して、認定を受けた民間の資格・検定試験(認定試験)に全て委ねるA案と、現行指導要領下はマークシート式の問題も残すB案が併記されていたものの、大学・高校関係者などの意見を踏まえ、最終的にはB案で決着しました。これにより各大学が、共通テストと認定試験のいずれか、または双方を利用する方式を選択することになりました。
 認定試験を利用する場合、どの大学も複数の試験を対象にすることが確実で、英語運用能力の国際標準であるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)に換算して比較しなければなりませんが、それでは6段階という大くくりとなり、細かい合否判定には使えません。マークシート問題が残ることで、当面は点数の目安が残ることになります。

 一方、国語と数学の記述式問題の採点に関しては、原案通り、結果を段階別で表わすことを検討するとしています。両科目を課す大学では、マークシートと記述式の両方を活用することが求められますから、記述式への対応も無視できません。
 後は各大学が、共通テストをどう活用し、どのような個別選抜を課してくるかです。一般入試・AO入試・推薦入試という区分が「一般選抜」「総合型選抜」「学校推薦型選抜」に変わり、提出書類が増えるだけでなく、旧AO・推薦で共通テストや個別の教科・科目テストが課される可能性も高くなります。何より高校は、今までよりも詳細な調査書を作成しなければなりません。作業量が増える上に、多様化がますます進む大学の個別試験に対応した進路指導は、飛躍的に困難を増すことでしょう。ただ、だからこそ発想の転換が求められるように思えます。
 
 ますます多様化する個別大学の入学者選抜は、その大学のアドミッション・ポリシー(AP)をより具体的に表現したものになります。今までは抽象的に過ぎていたAPが、いよいよ実質化されるということでもあります。もっと言えば、APは単独で存在するものではなく、入学後のカリキュラム・ポリシー(CP)や、社会に送り出すべき卒業生像を示すディプロマ・ポリシー(DP)と一体で策定する「3ポリ改革」が、高大接続改革における大学教育改革の主眼です。
 
 その大学がどんな人材育成を目指し、それに応じてどのような特色ある教育を行おうとしているのか。そのために、どんな学生を採りたいのか――。まずは生徒がその点をきちんと理解した上で、行きたい大学を絞り、その大学のAPにふさわしい受験生になれるよう、受験勉強だけでなく高校生活を努力して過ごすことが、今後ますます求められるでしょう。もう「国立大学」「難関大学」などといった大ざっぱな受験対策や、1点刻みで志望大学を選ぶといった進路選択はできなくなります。
 
 高校側も、依然として共通・個別テスト向けの対策・演習が実質的な中心となっているような進路指導の在り方から、いよいよ脱却を余儀なくされることでしょう。高校教育改革の本道に沿って「学力の3要素」ないし次期指導要領の「資質・能力の三つの柱」を幅広く育てながら、生徒が自己実現を図るための進路選択と進路実現を支援する――。そうした本来の進路指導に立ち戻るべき時に来ているのではないでしょうか。生徒が自ら主体性を発揮して進路を選択し努力していくことを求めるのも、実は高大接続改革の大きな狙いなのです。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/