愛知工業大学 学長 後藤泰之氏
(2017年7月10日更新)
ものづくりを中心とする実学教育で、 学生の「夢」を後押ししたい 今こそ、ものづくり教育が必要だ 本学の創立は1912年に遡ります。明治後期、全国に電力会社が相次いで誕生し、日本の産業が急速に発展する中、産業社会の発展に貢献できる電気技術者育成のために誕生した「名古屋電気学講習所」が本学の前身です。以降、本学は時代の要請に応え、深い学識と確かな技術、さらに豊かな人間性を併せ持つ技術者を輩出し、自動車を中心とする当地区の産業を支えてきました。いわば「ものづくり」の要請に応えることは、1世紀以上に亘る本学教育の最大の根幹でした。 今日も、本学ではものづくりを柱とする徹底した実学教育を展開しています。 昨今、パソコンもテレビもブラックボックス化し、動かし方は知っていても、仕組みまで知っている学生は極めて稀です。現代の学生にとって、本物の「ものづくり」に触れる機会は極めて少ないと言わざるを得ません。だからこそ、私たちはあらゆる産業の基盤である「ものづくり」教育のさらなる強化が必要だと考えています。 ものづくりの機会にあふれたキャンパス ものづくりの原点は、自ら興味をもち、考え、手を動かすことです。たとえば機械学科では、1年次のプレゼミで竹とんぼを作ります。竹とんぼが天高く飛び上がる原理を考えながら学生たちが竹を切って火であぶり、その理論を自ら証明してみせるのです。一方、電気学科でも自分たちでハンダごてを使って電気回路を作る実習を行います。このように、学生は自ら手を動かしながらものづくりの奥深さに触れていきます。 学年が上がっても、ものづくりの本質を体験するさまざまな機会が用意されています。 日本を代表するからくり人形師である九代目・玉屋庄兵衛氏を講師に招く「からくり人形」実習では、各種加工機を学生が自由に使用できる実習室「みらい工房」を利用し、木工の基礎と日本の伝統的なものづくりの知恵に触れます。 2015年4月には新2号館に「ロボットミュージアム」を設置しました。 ロボットとは、多くの技術の集積によって成立します。そこでロボットミュージアムでは、本学の機械・電気・建築の各学科の研究室を1フロアに集め、ガラス張りの研究室の中で学科を超えて交流し、刺激しあいながらそれぞれのアプローチでロボット研究を行います。現在は鉄人・モービルプロジェクト、サーチ&レスキュープロジェクト、ロボカッププロジェクトなど、さまざまなロボットへの挑戦が行われています。 一方、興味を持った研究テーマを徹底的に掘り下げたい学生のために、本学では「学生チャレンジプロジェクト」という取組を行っています。これは、学生自身が企画を考えて申請し採用されると、大学から資金が提供される制度。大学で学んだことを実践、検証しながら、さまざまな経験を得ることができます。 2016年にはレーシングカー開発に加えて、ロボットコンテストや建築作品コンクールへの参加など、34のテーマに対して総額1800万円が支給されました。 ものづくりの集大成、映画づくりへの挑戦 そして、ものづくり教育の集大成が、映画づくりへの挑戦でした。 たとえば、必要に応じて大道具や小道具を作り出す美術スタッフや、シーンごとに最適な音楽やCG、FSXを用意する音響・映像スタッフなど、映画にはものづくりに関連するあらゆる要素が含まれています。そもそも映画という大きな仕組みを動かすこと自体が、ものづくりに欠かせないプロジェクトマネジメントなのですから。 2008年には片岡愛之助さん主演の『築城せよ!』、2013年には本学客員教授でもある映画監督、堤幸彦氏の企画による『A.F.0.』を制作。どちらも学生がスタッフとして参加し、エキストラの手配や地域との交渉などを担当しました。これだけ大きなプロジェクトに参加できたことは、学生にとって本当に良い経験になったと思います。 今後も本学では、こうした大きなイベントを通して、学生が主体的にものづくりに参加する機会を用意します。そしてすべての学生に、就職面接で「大学でこんなすばらしい経験をしました」と胸を張れるような経験をしてほしいと思っています。 さすがに映画は何度も作れませんが、2016年には世界的なロボットコンテストである「第17回ロボカップ」の日本大会を本学に招致しました。学生スタッフは、世界中のエンジニアとの交流と同じくらい、この大会を成功させたことが自信になったことでしょう。 一歩を踏み出そうとする学生を応援する こうした活動を通して、私たちは学生の夢を応援してあげたいと思っています。 彼らは、心の中に多くの「夢」をもっています。しかし、一歩を踏み出す勇気が足りない学生が多いのです。だからこうしたさまざまな機会を通して、何事にも臆せずにチャレンジすることの大切さを伝えたいのです。 近年、ものづくりのグローバル化が加速するにつれ、日本のエンジニアも世界での活躍が大いに期待されています。本学では中国・東南大学と30年以上にわたって学術・学生の相互交流を行ってきた実績があります。またアメリカやニュージーランドなどへの語学研修など、海外の文化に触れる機会も数多く用意しています。 産学官連携の取組もあります。 たとえば、本学では2015年から再生可能なエネルギー技術の実現をめざす「グリーンエネルギープロジェクト」を推進しています。特に先進の直流給電システムを採用した独自のスマートグリッドをキャンパス内に導入し、キャンパス内の建物への効率的かつ安全な給電を実現しました。このシステムは、資源循環や環境負荷の低減を目的とした先駆的な事例として、2017年の「愛知環境賞」の銅賞を受賞し、全国的にも大いに注目されています。現在、東北の避難所の一部でも本学が開発中のシステムが導入されています。 他にも地元企業との共同研究・受託研究を行う研究支援本部の設置を進めると同時に、豊田市や地元商店街などとも連携協定を締結するなど、今後も産官学一体の研究・教育の強化をめざします。 また本年9月には「バイオ環境化学実験棟」が完成します。DNA組換え室や細胞培養室を備え、工学的アプローチで最新の創薬研究を推進していきます。 こうしたさまざまな取組に参加することで、学生たちが一歩を踏み出せるように、背中を押してあげるのが私たちの使命です。愛知工業大学は、挑戦し続ける学生を全力でサポートします。
【Profile】
後藤 泰之(ごとう・やすゆき)氏
昭和33年、名古屋市生まれ。工学博士。昭和60年3月、東海大学大学院工学研究科電気工学専攻 博士課程後期単位取得満期退学。平成5年4月、愛知工業大学工学部電気工学科助教授。平成12年10月、同教授。平成16年4月、愛知工業大学学長。平成28年5月、名古屋電気学園理事長就任。