教えて!「学校基本調査から見える高校進路指導の課題」

 毎年恒例の学校基本調査が、8月3日に発表されました。大学・短大の現役進学率は54.8%で前年度と同じだったものの、浪人を含めれば0.5ポイント増の57.3%で過去最高。大学(学部)に限れば0.6ポイント増の52.6%です。これら高卒後進路の推移の背景に、何が読み取れるでしょうか。

教えて!「学校基本調査から見える高校進路指導の課題」

 大学・短大の現役進学率は確かに横ばいですが、大学に限って見ると、0.3ポイント増の49.6%で過去最高となっています。決して4年制大学希望者が頭打ちになったわけではありません。近年の人材不足を反映して大卒就職が好調であることも、大学希望に拍車を掛けている要因でしょう。
 ただ、人材不足は高卒の方が深刻なはずですが、就職率は17.7%で、0.1ポイント減っています。正規雇用に限っても0.1ポイント減の17.6%ですから、高卒就職市場の動向は生徒の進路選択にあまり影響を与えていないようです。

 改めて大学・短大進学率の推移を振り返ってみると、その上昇には近年、二つの段階があったことが分かります。一つは、バブル経済の崩壊をきっかけとした1990年以降。高卒求人が急減し、進学せざるを得なくなった層が出現しました。折しも18歳人口の最後の急増期を当て込んで新設や短大からの転換が続いていた大学が、その受け皿となりました。ただ2000年代に入って、しばらく進学率が低迷したのは、長引く不況で進学費用をまかなえない家庭も少なくなかった影響も考えられます。実際、授業料が2年間で安く済む専門学校への進学率は、この間も上昇を続けています。
 
 05年以降は、景気回復基調を受けて、大学・短大の進学率は再び上昇を始める一方、専門学校は減少に転じます。また、それまでにも短大から4年制大学へのシフトも進んでいました。多少の無理をしてでも4年間の学費を払おうとする家庭の努力によるものとも言えます。それが08年9月のリーマンショック以降、大学・短大進学率は減少に転じます。それも13年3月卒を底に、再び上昇して今回は10年3月卒の水準も上回ったわけですが、高額な奨学金のブラック化が指摘されるように、景気回復で家計に余裕があるから大学進学が増えたとは、とても言えそうにありません。
 
 大卒の人材不足といっても、就職戦線を眺めてみれば、早々に内定を幾つも得る学生と、面接にさえこぎつけず長期の就職活動を余儀なくされる学生とに二極化されているという実態も近年、指摘されています。それだけ企業も、厳しい時代の生き残りを懸けて、少しでも優秀な人材を確保したいと慎重になっていることの表れでしょう。
 高卒就職に関しても、学科別に見れば、工業、看護、家庭、総合学科で就職率が上昇するなど(福祉は横ばい)、明暗を分けています。高卒就職を選ぶにしても、それだけの準備と能力が不可欠になっているとみるべきでしょう。
 
 今の時代には、「とりあえず」という形で安易な進路選択をするには、あまりにもリスクが大きすぎます。学費の問題は生徒の責任ではないにしても、進学を選んだ場合、高額の費用負担は避けられません。政府の政策に期待したいところですが、大学無償化の拡大を待っていても、目の前の生徒は救われません。
 
 折しも高大接続改革が進んでいますが、その究極の狙いは、社会に有意な人材となれる資質・能力を高校・大学を通じて身に付けさせることです。大卒就職はもとより、高卒就職も含めて近年、「高大社(・)接続改革」という呼び方も出てきています。
 本来あるべきキャリア教育を通して、生徒に学力をはじめとした資質・能力はもとより、ライフプランも含めて自ら進路を選び、社会との接続を図る力を付けさせる必要性が、ますます高まっています。進路指導はもとより、各教科等での指導も、目先の進路に目を奪われず、常に卒業生の将来の姿を意識して当たらなければならないでしょう。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/