教えて!「進む?共通テストと国立大学入試改革」
2020年度から始まる「大学入学共通テスト」の実施方針と、21年度大学入学者選抜実施要項の見直し予告が、7月に策定・公表されました。高校現場としては、それらの動向を一刻も早く知りたいところですが、その姿はなかなか見えてきません。新テストの進展は?個別入試の改革は?とりわけ、公私立大学を含めた全体に大きな影響を与える国立大学の入試は、本当に変わるのでしょうか。
確かに入学者選抜改革は、実施方針等が公表されて2カ月しかたっておらず、大学側としても共通テストの活用も含め、まだ先を見通せていないのが現状です。
24日に東京であった大学入試センター主催のシンポジウムで、山本廣基理事長は開会あいさつで、今年11月と来年11月に行う共通テストのプレテストを「試行調査」と言い換えることを明らかにしました。プレテストで出されたような問題が本番でも出題されるとの誤解を与えないためだと説明しています。裏を返せば、思考力・判断力・表現力を中心に問う共通テストの出題や採点が、まだ模索段階であることを示した格好です。
新テスト作問担当の大杉住子審議役(前文部科学省初等中等教育局教育課程企画室長)は現在、関係部署で「創造性と持続可能性を合言葉に」作問を検討していると紹介しましたが、各大学にとって共通テストが本当に「使える」ものになるかどうかは、実施1年前の19年1月に行われる「確認プレテスト」の結果を見ないと、何とも言えないことになります。テスト理論の専門家である木村拓也・九州大学大学院准教授も、各設問の得点分布を早く大学側に示すよう要望しました。
ただ、20年度に共通テストを開始し、21年度から「学力の3要素」をすべて評価する入学者選抜に変える、という文科省の方針は、よほどのことがない限り揺らぐことはないでしょう。そうなると、その先導役を果たすのは国立大学をおいて他にありません。
国立大学協会は2年前に、 推薦・AO・国際バカロレア入試等を入学定員の30%に拡大することや、個別入試で面接・調査書などを活用することを申し合わせています。佐賀大学では18年度入試から各選抜方法で、学力の3要素との対応関係を具体的に示しています。北海道大学も、21年度入試に向けて「北大版コンピテンシー」を策定し、それに合わせて評価基準の割合(配点)を学部等で変えたい考えです。こうした動きが、多くの国立大学に広がっていくことは必定です。
既に東京大学の推薦入試や京都大学の特色入試(いずれも16年度から)はもとより、大阪大学の「世界適塾入試」(17年度から)、お茶の水女子大学の「新フンボルト入試」(同)など、単なる知識・技能にとどまらない学力を評価する選抜方法の模索が行われています。これらを単に、限られた定員の特別な選抜形態だとみてはいけません。大学教育の効果を上げるためにも、一般選抜(現行の一般入試)を含め、多様で資質・能力の高い学生を入学させるための模索が始まっているのだ、とみた方がいいでしょう。
だから21年度の後も、入試改革は国立大学を中心に続いていくことになります。共通テストも出題の安定性をめぐって模索が続く中、「出題傾向が分かってから」「各大学の入試方法が決まってから」という待ちの姿勢では、現実的な「入試対策」は間に合いません。
入試改革の先行きが不透明な今こそ、本来のキャリア教育に立ち返り、新学習指導要領も見据えたアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)を通して生徒に幅広い資質・能力を育成し、志望する大学のアドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針、AP)に向かって意欲的に取り組ませることが求められるでしょう。少なくとも、どのような改革にせよ改革が進むことだけは確実なのですから。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/