教えて!「国立大が英語4技能と個別記述式を義務付け!?」
大学入試センター試験に代わって2021年1月から実施される「大学入学共通テスト」の英語では、民間の資格・検定試験の活用を取り入れる一方、これまでと同様、マークシート式の筆記・リスニングの出題も続けられることになりました。また、国語と数学では、記述式問題も出題されます。ところが国立大学協会(国大協)は、一般選抜(現行の「一般入試」)の受験生全員に英語のマークシートと資格・検定試験の両方を課すばかりでなく、個別試験でも記述式試験を課すといいます。なぜなのでしょうか。
国大協が10日に広島で開催した総会で了承した「基本方針」によると、全国立大学で第1次選抜に共通テストで原則5教科7科目を課すとした上で、一般選抜(現在の一般入試)では、全受験生に▽英語で、センターが認定した資格・検定試験と新テスト英語試験の両方▽共通テストの国語・数学は記述式問題▽個別試験で「論理的思考力・判断力・表現力を評価する高度な記述式試験」――を課します。さらに、分離分割方式を継続する一方、21年度までに総合型選抜(現在のAO入試)や学校推薦型選抜(同推薦入試)を定員の30%にする取り組み(15年9月の「アクションプラン」)を加速・拡大するとともに、調査書や志願者本人の記載する資料、面接などの活用を実施可能なものから順次導入するとしています。
このうち「高度な記述式」をめぐっては、共通テストの検討過程で、記述式問題が採点の日程やコストの関係から文字数に制限を加えなければならないことが分かった際、長文を課す代わりに出願大学の方で採点するという案が浮上したこともあります。また、本来は個別試験で記述式を課すべきだという意見も、大学側から提起されていました。今回の国大協方針は、いわば現在考えられる大学入学者選抜改革のうち、最もハードルが高いメニューを全国立大学で実施しようというわけです。なぜでしょう。
そこには、国内外で生き残りを懸けた国立大学自身の課題があるようです。
「基本方針」では、社会の変化の速度と複雑さが増す21世紀には、国民一人一人が高等教育を通じて基礎知識の拡充と応用力を伴う多様なスキルの獲得や、高度知識基盤を支え、継承し、牽引する人材の育成が重要だと強調。国内の教育力を高めて高い能力を持つ人材を育成するだけでなく、優れた留学生も引き付ける必要があるとしています。そのためには国立大学が、高校教育、大学教育、大学入学者選抜の三位一体改革(高大接続改革)を主導して、日本の教育システム全体を、「知識・技能を受動的に習得する能力を重視する教育」から「能動的な学びや一人一人の個性及び学びのプロセスを重視する教育」へと抜本的に転換していく決意を示しています。
少なくとも21年度以降の国立大学対策として、英語4技能や、本格的な論述試験への対応が迫られることになります。国立大学と肩を並べる公私立大学でも早晩、国大協方針を追従するところが続出することでしょう。
初めて大学入学者選抜改革の対象となる生徒は、早くも来年4月に入学してきます。高校側でも早急に体制を整える必要があるでしょう。国大協方針が出た以上、もう様子見ではいられません。
英語4技能や記述式への対応が必要なのは、国立大学志望者、さらに言えば大学進学希望者に限らないことでしょう。国内で働くにもグローバル化への対応は避けられませんし、多くの仕事が人工知能(AI)に置き換えられる可能性も指摘されています。社会に出てからも困らない、人間ならではの資質・能力を目の前の生徒に付けさせる必要があります。国大協からの提起を受けて、高校教育全体を見直すきっかけとしたいものです。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/