愛知医療学院短期大学 学長 舟橋啓臣氏
人間性の育成に重きを置いた教育と 小規模校の利点を活かしたきめ細かい指導で リハビリのプロを育てています。 リハビリの専門家を育成するために 本学は、中部地区の私立としては初のリハビリテーション専門学校として1982年に創立され、その後2008年に3年制の短期大学に改組しました。創立当時は、今ほど障がい者に対する社会の理解が進んでおらず、バリアフリーという概念もまだ一般的とはいえないような状況でした。そんななか、障がいをもった方々の生活や社会復帰をリハビリテーションというアプローチで手助けする人材を育てたいという思いで創立されたことから、「仏のような慈愛の精神で、障がいをもった人に尽くす」という意味の「佛心尽障(ぶっしんじんしょう)」を建学の精神としています。 そして、この建学の精神にのっとって定められたのが「社会的知識、基礎的・専門的医療知識を提供し、障がいを有する人々の心と身体の支えとなれる人材の養成を目指す」という教育理念です。実はこの教育理念は、私が学長に就任してから新しくしました。最初に「社会的知識」を掲げたのは、医療人として患者さんと心を通わせるには、社会的知識を身に付けることが欠かせないと考えているからです。 ところが、今の若い人たちは人とのコミュニケーションが苦手で、患者さんとのちょっとした世間話もうまくできないんですね。リハビリの患者さんは高齢者が多いですから、たとえ専門知識は豊富でも世間話や気配りができないようでは、心を通わせて信頼関係を築くことはできません。 私はそのことにとても危機感をもっていて、まずは社会的知識を身に付けてもらうため、1年次に全学生必修となっている「医療安全学・救急医学」の講義の中で、毎回冒頭の30分間を利用して時事問題や現代用語の解説、医療人に求められる人間性を育むような寓話を紹介したりしています。幸い、学生のアンケートでも毎年、「最初の話が印象に残っている」「感銘を受けた」と高評価を頂いています。 学長就任以降、取り組んだ改革 実は、教育理念の改定以外にも、2011年の学長就任以降、いくつかの大きな改革を手がけてきました。一つはハード面の充実で、空き時間を快適に過ごせる学生ホールや1万3000冊の専門書を揃えアクティブラーニングにも対応したラーニング・コモンズなどがある「学生プラザ」を建設。また、2014年には「ゆうあいリハビリクリニック・デイケアセンター」をキャンパスに併設し、臨地実習に入る前に学内で本格的な実習ができるように整備しました。 もう一つ全学挙げて取り組んでいるのが、中退者対策です。残念ながら、毎年何人かは中退者が出ているのですが、それが私は嫌で仕方がないのです。学校は、入学時に学生と「きちんとした教育をする」という契約を結んでいるわけで、中退という結果は、学生に対する契約不履行にあたると思うのです。それで、学長に就任して2~3年目から中退防止対策としてさまざまな試みや研究を行ってきました。最近の中退者の傾向としては、アルバイトをせざるを得ない学生が、単位を取得できずに奨学金を打ち切られて中退に追い込まれるケースが多いことがわかっています。保護者の経済力が子どもの学力に影響することはよく指摘されることですが、現実問題として短大を選択する学生は経済的な余裕は少なく、学力の低い学生も少なくありません。だからこそ、その子たちを3年間で国家試験に合格させ、社会貢献できる人材にまで育てあげることが本学の役割であると自負しており、これからも中退者ゼロを目指していくつもりです。 学習アドバイザー制度できめ細かいフォローを 逆に、自慢できることとして、国家試験の合格率が挙げられます。直近の5回の国家試験を振り返っても、理学療法学専攻では2012年度、2013年度、2016年度の3回で合格率100%を達成し、特に2013年度は作業療法学専攻も100%という好成績でした。また、就職率も開校以来34年間、一貫して100%を記録しつづけています。 こうした実績の背景には、小規模校の利点を活かした「学習アドバイザー制度」の効果があると思います。この制度は、創立当時から導入されているもので、一人の教員が3年間、学習方法から臨床実習、学生生活、友人関係、進路など、あらゆる悩みに「学習アドバイザー」として相談に乗るという制度です。一人の教員が受け持つ学生は各学年7~8人なので、担任制よりももっときめ細かいフォローができるのが特長です。特に学習の仕方に関しては、高校までに勉強の習慣が付いていない学生もいるため、教員の方からアプローチをして短大での学習法を早期に身に付けてもらうように指導をしています。なかには保護者や友達にも言えない相談を受けることも多く、学生の情報はほとんどの教員が共有して重層的なフォローが行き届くように心がけています。 また、4年制大学のゼミのように各学年から数人ずつが集まる「学習アドバイザーミーティング(SAM)」という講義があり、そこでは上級生が下級生に勉強を教えたりすることもあるようで、お互いにいい刺激となっているようです。 いずれも、本学のような少人数のアットホームな学校ならではの良さが活かされている制度だと言えるでしょう。その分、教員の労力は大変なものがあると思いますが、全教員が熱意をもって指導に当たってくれています。 リハビリ業界の展望と本学の将来 先ほど、開校以来就職率100%を記録していると申しあげましたが、近年、理学療法士は充足してきているのではということを論ずる向きもあります。しかし、これは医者の立場から言わせていただければ、現実はまったくそうではありません。これからも高齢化は進んでいきますし、政府の方針から考えても、今後は訪問リハビリテーションが増えていくことが予測されます。訪問リハは、従来の病院や施設でのリハビリよりもマンパワーが必要ですから、これからも就職口を心配する必要はないでしょう。これは、作業療法士も同じで、本学へも理学療法士を上回る件数の求人が来ていますので、どちらも需要が増えることはあっても減ることはないと考えています。 そんななかで、本学の将来展望を考えたとき、目指すとすれば4年制大学への移行でしょう。ただし、今は短大としての価値や役割を究めていくべきだと考えています。そうすれば、かならずリハビリ専門の短期大学として生き残っていけるでしょうから、その先に、いずれ四大化が視野に入ってくることもあるかもしれません。 前職の岐阜県立多治見病院の院長を退職するとき、再就職先として老人保健施設の院長の話もありましたが、それよりも、これからの若い医療人を育てる仕事に魅力を感じ、学長の仕事を引き受けました。ですから、これからも医療人としての哲学を大切にした教育に力を入れ、国家試験合格がゴールではなく、リハビリテーションのプロとしてきちんと社会貢献ができる人材を育てることに情熱を傾けたいと思っています。
【Profile】
舟橋啓臣(ふなはし・ひろおみ)氏
医学博士。1969 年名古屋大学医学部卒業。同年、厚生連瑞浪昭和病院で医師としての第一歩をスタート。
1979年、名古屋大学第二外科の助教、1985年、同講師。翌年中津川市民病院の外科部長に就任。
1987年より名古屋大学第二外科で教鞭を執る。2003年に同大准教授。2005年、岐阜県立多治見病院院長就任。
2010年、愛知医療学院短期大学リハビリテーション学科理学療法学専攻教授。
翌年、愛知医療学院短期大学学長に就任。研究分野は教育学、乳腺・内分泌外科。内分泌・甲状腺外科名誉専門医、
がん治療学会認定機構暫定教育医、日本外科学会特別会員ほか資格多数。