教えて!「『学校の働き方改革』は大丈夫か」
中央教育審議会が22日の総会で、「学校における働き方改革」の中間まとめを、林文部科学相に手渡しました。これを受けて文部科学省も緊急対策を打ち出します。勤務時間の上限や教職給与特別法(給特法)の見直しなど「本丸」の議論は年明けに持ち越されますが、今のままで学校の働き方改革は大丈夫なのでしょうか。
学校の働き方改革は、政府が進める労働者全体の働き方改革の一環という側面もありますが、最大の契機は2016年度の教員勤務実態調査で、小学校教員の6割、中学校教員の3割が「過労死ライン」に置かれているなど深刻な状況が明らかになったことです。
6月に当時の松野博一文科相から諮問を受けると、中教審は7月に初等中等教育分科会の下に特別部会を設け、月2回ペースで精力的な議論を行ってきました。「今できることは直ちにやる」との意気込みの下、順次まとまったものから提言をしていくということで、18年度概算要求提出前日の8月29日には、特別部会の第3回会合で緊急提言をまとめていました。今回の中間まとめは、それに次ぐものです。
最大の特徴は、明らかに学校の業務である学習指導、生徒指導・進路指導、学級運営・学校運営業務の他に、「範囲が曖昧なまま教師が行っている業務」を14項目に整理し、それぞれ①基本的には学校以外が担うべき業務 ②学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務 ③教師の業務だが、負担軽減が可能な業務――に「仕分け」(文科省事務局)したことです。これで、何もかも学校が引き受けざるを得なかった状況に、少しでも歯止めがかかることを期待したいものです。
その裏付けとなる18年度予算案は、中教審総会の直前に閣議決定されていました。公立小中学校などの教職員定数に1595人の改善が認められましたが、概算要求の3415人に比べれば、かなり圧縮されています。それも、小学校の中学年以上で英語が1コマ分増えることへの対応が1000人を占めるなど、必ずしも働き方の「改革」に対応した予算とは言い切れません。もちろん、制度化された部活動指導員に4500人の配置が盛り込まれたことは、少しでも中学校の部活顧問の負担を軽減するものとして期待されます。
ただ、こうした措置はいずれも義務制の話であって、高校は勤務実態調査すらされていません。給与費が地方交付税で全額措置される公立高校は、定数改善の対象外です。部活動指導員にしても、中学校で国が負担してくれるのは3分の1ですし、高校は都道府県が別途予算化しなければ、配置すらされません。国私立高校は、もちろん設置者任せです。
しかし東京都教委や神奈川県教委の独自調査では、高校でも3割が過労死ラインにあることが明らかになっています。一刻も早い対策が求められます。
8月の緊急提言では、教委や学校の管理職に、教職員の勤務時間管理を行うよう求めていました。これまで「超勤4項目」に該当しない時間外勤務は教員の自発性・創造性によるものだという建前の下、勤務時間の把握すらされていなかったのは、確かに問題です。しかし今回の中間まとめにしても、業務が仕分けられたからといって、すぐに外部スタッフなどに業務を負ってもらえるとは限りません。地域や学校の実態によって大きな格差が出ることも予想されますし、何より「改革」全体が遅々として進まない結果をもたらしかねません。
現下の厳しい経済・政治状況の下では、文科省頼みにも限界があります。アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)をはじめとした新学習指導要領や高大接続改革に対応するためにも、各学校で「改善」に取り組みつつ、なお現場の自助努力では無理な部分には具体的な声を上げ、社会全体の理解を得ながら進めていかなければ、とても「改革」には至らないでしょう。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/