教えて!「センター試験も新テストへ舵を切った?」
今年の大学入試センター試験も追・再試験が終わり、いよいよ個別大学の受験が本格化します。ところで13日の本試験初日では、地理Bで「ムーミン」が出題されたことが大きな話題になりました。他の科目でも、思考力が求められる出題が目立ったという指摘もあります。センター試験に代わる「大学入学共通テスト」では思考力・判断力・表現力を中心に問うといいますが、既にセンター試験でも出題方針の舵を切り始めたのでしょうか――。
話題になった地理Bの問題は、東京在住の高校生がノルウェー、スウェーデン、フィンランドを旅行して、夏休みの宿題に3カ国を比較したレポートを作成するという設定の下、五つの小問で構成されています。このうち問4が、3カ国を舞台にしたアニメと言語から、共通性と違いを考察させる問題です。例示された「ニルスのふしぎな旅」とスウェーデン語の結び付きを参考に、ボスニア湾を囲むフィンランドとスウェーデンの言語が似ていること、「小さなバイキング ビッケ」のバイキングがノルウェーのあるスカンディナビア半島を活動地域としていたことなどから論理的に判断すれば、ムーミンがフィンランドのアニメだと知らなくても、22の組み合わせを正しく結び付けて正答することは可能でしょう。
ただ、両作品とも舞台の国名が原作では明示されていないこと、さらには、フィンランド人トーベ・ヤンソンが母語のスウェーデン語でムーミンの原作小説を書いたこと、ビッケの作家ルーネル・ヨンソンはスウェーデン人だったことで、ネット上の話題になったばかりでなく、北欧の研究者からも疑義が出される事態になりました。
問題が完璧だったかどうかはおいておくとして、少なくともアニメの知識を問うたものではないこと、地理の知識を活用して思考力を働かせれば正答できたことも確かでしょう。予備校関係者などには「良問だ」という評価もあるようです。
改めて思い起こさなければいけないのは、現行の学習指導要領でも、学校教育法に定められた「学力の3要素」を身に付けさせることが求められていること、センター試験でも、知識だけでなく思考力などを問おうと努力してきたことです。そうした努力を四半世紀にわたって続けてきたが故に、大学入試センター自身が「難問奇問を排除した良質な問題が確保されるようになり、現在、高等学校等の関係者からも高い評価を受けています」(ホームページ)と胸を張るほどになっています。
とはいえ、いまだに知識丸覚えを中心に実際の「センター試験対策」を行っている生徒も少なくないことでしょう。高校教員が授業で一生懸命、思考力などを育成しようとしても、肝心の生徒が「点数さえ取れればいい」と思っていては、効果が上がるはずはありません。それでは大学入学後に苦労するだけでなく、文章の意味も理解できないのにセンター模試で偏差値60近くをたたき出した「東ロボくん」のような人工知能(AI)にも将来、仕事を奪われかねない――と言っては言いすぎでしょうか。
昨年11月に行われた共通テストの試行調査(プレテスト)でも地理Bのマーク式問題が出されましたが、試行調査はまさに「試行」です。センター自体、問題構成や内容が必ずしもそのまま共通テストに受け継がれるものではないことを、重ねて強調しています。出題について、これから研究が進むことでしょう。事によると共通テスト開始後も、模索が続くかもしれません。
今回のムーミン問題は、アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)には、とても面白い教材になりそうです。与えられた情報から自分で判断し、思考力を働かせて自分なりの最適解を導き出せる力を育成する授業こそが、今後のセンター試験・共通テスト対策となるべきでしょう。
【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/