教えて!「グローバル・コンピテンスをどう育てる?」

  国内外でますますグローバル化が進む中、生徒にも社会の変化に対応した資質・能力を育成することが求められています。経済協力開発機構(OECD)は2018年に実施する「生徒の学習到達度調査」(PISA)で「グローバル・コンピテンス」を調査することにしているのですが、日本は不参加の方針を決めたといいます。グローバル・コンピテンスをどう考えればいいのでしょうか。

教えて!「グローバル・コンピテンスをどう育てる?」


 3年ごとに行われるPISAでは、主要3分野(読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー)の他、金融リテラシー(日本不参加)など国際オプション調査も行われています。15年のPISAでは革新分野として「協同問題解決能力」の調査が行われましたが、グローバル・コンピテンス調査はそれに次ぐものです。

PISAではグローバル・コンピテンスを、①地域、グローバルそして異文化の問題を考察すること ②他者の視点と世界観を理解し、その価値を認めること ③異文化の人々とオープンに適切かつ実効性のある意思の疎通を行うこと ④生徒の“well-being”(健やかさ・幸福度)と持続可能な発展のために行動を起こすこと――と定義しています。これからの時代、こうした資質・能力が世界中の人たちの成功や幸福にとって必要だと考えているからです。

しかも、それは世界を股に掛ける一部エリートの話だけではありません。アンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長は昨年12月に行った日本向けインターネット記者会見で、グローバル・コンピテンスが国際課題のみならず地域課題の解決にも不可欠だと強調していました。まさに「グローカル」です。

ただ、国際紛争や移民問題など課題の絶えない世界にあって、グローバル・コンピテンス調査も困難を極めているようです。テストと質問紙調査で「知識」「認知スキル」「社会スキルと態度」の3側面を測定しようとしているのですが(「価値観」の側面は見送り)、主要3分野や協同問題解決能力のような国際順位は出さないことになりました。関係者によると、調査をめぐっては北欧を除く欧米からも異論が噴出したそうです。日本が参加しないのも、無理からぬところかもしれません。

 しかし、だからといってグローバル・コンピテンスを無視していいというわけではないでしょう。近く告示される新高校指導要領の基になった中央教育審議会答申(16年12月)は「グローバル化する中で世界と向き合うことが求められている我が国においては、自国や他国の言語や文化を理解し、日本人としての美徳やよさを生かしグローバルな視野で活躍するために必要な資質・能力の育成が求められている」としています。

 OECDとともにグローバル・コンピテンスの報告書をまとめた米国のNPOアジア・ソサエティーのディレクター、アンソニー・ジャクソン氏も先ごろ、東京・渋谷で行われた東京大学公共政策大学院主催の国際シンポジウムで、グローバル・コンピテンスは特別なカリキュラムを要するものではなく、日本の指導要領はグローバル・コンピテンスをサポートするものだと指摘していました。三つの柱で教科横断的な資質・能力の育成を目指す新指導要領の下、カリキュラム・マネジメントによって、その高校の生徒なりに、グローバル化に対応した資質・能力を育てることを考える必要があるでしょう。

考えてみれば、今や工場がアジアを含めた海外に進出することや、農産品をブランド化して輸出するのも当たり前。それに対応して、商業科のeコマースはもちろん、農業科で「グローバルギャップ」(国際標準の適正農業規範)を取得する高校も増えてきました。工業科の生徒が進学する大学の工学部は、国際展開が進んでいる代表的分野です。普通科も含め、既に高校は大なり小なりグローバル化対応の実績やノウハウがあるはずです。恐れることはありません。

 後はどうやってカリキュラム・マネジメントで具体的な教育課程や授業に落とし込み、生徒に確実な資質・能力を身に付けさせるかです。その際、グローバル・コンピテンスの考え方が大いに参考になるのではないでしょうか。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/