学校法人相愛学園 理事長・相愛大学 学長 金児曉嗣氏
就職率や資格合格率の向上に手応え
着実な教育とその中身の発信に努めていく
創立130周年を迎える大阪の伝統校
本学の設置母体である相愛学園は、1888年(明治21年)に西本願寺第21代宗主明如上人(大谷光尊)が創設した相愛女学校に始まります。明治維新という大改革の流れを受け、市民の間で学問意欲が高まっていたようで、私の前任校である大阪市立大学など、現在の4年制大学の前身校がいくつか設置された時期でもあります。相愛女学校は本願寺津村別院(北御堂)の境内に設置されました。船場商人たちの間で、新しい時代で活躍するための子女教育が強く求められていたのだと思います。
創設者の明如上人は先取の精神に溢れた方で、明治政府より9年も先駆けて日本初の議会(宗会)制度を取り入れ、西本願寺を議会によって運営する体制の構築などの功績を残されています。その後本学園は1906年(明治39年)に高等女学校、1950年(昭和25年)に女子短期大学を設置。1958年(昭和33年)には女子大学を増設した後、1982年(昭和57年)に男女共学を実施し、現在の校名である相愛大学となりました。
2018年から3学部・1研究科体制に
創設者からもわかるように、もともと宗教教育を根幹に据えた学校です。そのなかで仏教は音楽と密接な関係にあることから、本学ではずっと音楽教育に力を注いできました。相愛に音楽のイメージがあるのはそのためです。他方、長く女子教育を手掛けてきましたので教養教育も重視してきました。現在も引き継がれている音楽と教養という路線にはそのような背景があります。現在では「音楽学部」「人文学部」「人間発達学部(子ども発達学科・発達栄養学科)」を設置。さらに2018年(平成30年)には、私の念願であった「大学院音楽研究科(修士課程)」を開設します。それにより、学園創立130年にあたる今年から3学部・1研究科の体制となります。
「共生」と「自利利他」を旨とする建学の精神
相愛学園は相愛大学、相愛高等学校、相愛中学校の3校を設置しています。すべてに共通する建学の精神は「當相敬愛(とうそうきょうあい)」すなわち「まさに相(あい)敬愛すべし」であります。校名の由来となったこの言葉は、浄土真宗の浄土三部経のなかでとりわけ重要とされる『仏説無量壽経』に記されているもので、その精神を具体的な形で表すと「共生」と「自利利他」となります。
建学の精神に関連して、私が昨年の卒業式で話したことに触れますと、今AIの驚異的な進歩によって多くの職業が不要になると言われています。これは最近のオックスフォード大学と野村総研の共同研究において、日本国内601種類の職業を対象にした分析で、10年~20年後に日本の労働人口の約49%がAIに取って代わられるという結果によるものです。一方で代替されにくい職業も挙げられており、音楽教室講師、クラシック演奏家、声楽家、作曲家、保育士、教員、料理研究家などがそれで、これらは本学が養成している人材と多くが重なります。「當相敬愛」の精神のもと、最後に残る人間的な部分を大切にしていけば、AIの及ばない人間になってくれるのではないでしょうか。
演奏会や親子イベントなどで積極的な地域貢献を展開
本学は、建学の精神を具現化する取り組みとして、地域連携・社会貢献事業を積極的に展開しています。その一部を紹介しますと、音楽学部では小中学校、病院、福祉施設、公共施設などで頻繁にコンサートを行っています。大阪市立大学医学部附属病院との相互連携で定期開催している院内コンサートに足を運んだときは感動的でした。演奏が終わりに近づいた頃には、聴いておられた患者さんやそのご家族の方々が涙を流しておられる。演奏は他者に聴いてもらうことで技量が高まるのですが、演奏する学生たちにとって音楽の持つ力を改めて実感する機会になったはずです。
人間発達学部の地域連携には、管理栄養士を養成する発達栄養学科による食育推進事業などがあります。本学の南港キャンパスがある「南港ポートタウン」は高度経済成長期の人口急増期に開発され、現在は高齢化が進んでいます。そこで地域の皆様に対して糖尿病対策や高齢者食支援セミナーなど、食育推進活動を実施しています。幼稚園・小学校教員と保育士を養成する子ども発達学科では、本学キャンパス内に作られたビオトープや田、農園を活用し、地域の親子を招いて、植物栽培や生き物の観察などを体験していただいているほか、親子で楽しめる様々なイベントを学生主体で企画・運営しています。
人文学部は教養教育が特色ですので、文学・歴史や仏教など各教員の研究成果を発信する公開講座が中心です。特に人気なのが本学の釈徹宗教授と落語家の四代目桂春團治(桂春之輔改め)師匠のコンビによる公開授業で、毎回大勢の受講生で賑わっています。
就職率、資格試験合格率を大きく改善
近年取り組んできて成果をあげている改革に、就職率の向上があります。人間発達学部に関しては引く手あまたの状態で問題はないのですが、音楽学部の就職率がよくありませんでした。プロの演奏家を目指す学生が多いため、そもそも就職を意識していないことが原因です。しかし音楽学部の学生は実技授業における教員との師弟関係の構築や、オーケストラで仲間と切磋琢磨するなど、独特の授業形態を持っていて、在学時に実社会で通用する社会人力を身につけているのです。その素養を活かし、就職も選択肢に入れて活動するよう就職セミナーへの参加などへの働きかけを強めた結果、就職率はかなり改善しました。人文学部でも徹底して就職対策に取り組んだ結果、この2年間で就職率を飛躍的に上げることができました。また、管理栄養士の合格率も数年前まで低迷していました。そこで学生のモチベーションを伸ばす施策を実施した結果、平成29年3月実施の第31回国家試験では、93.5%の合格率となっています。これは新卒受験者の全国平均を上回る合格率です。これからもさらに就職支援、資格取得支援には力を入れていきます。
音楽学部に「アートプロデュース専攻」を新設
次の改革として、2018年(平成30年)に音楽学部を更に充実させます。「アートプロデュース専攻」を設け、音楽とともにアートプロデュースに必要な企画デザイン・コンテンツ制作・音響技術等に関する教育を行います。
主な進路としては、音楽プロデューサー、ディレクター、音楽ホール担当者、舞台機構やミキサーといった技術スタッフなど。キャリア関連科目の充実も特徴で、業界への幅広い就職の可能性を広げます。少子化に加えて若者のクラシック離れが進むなか、「アートプロデュース専攻」によって、演奏家や教育者だけではなく、音楽学部を目指す対象者の拡大につなげたいと考えています。
最後に、私が就任した直後に策定した「第1次将来構想」の実績を踏まえて、今後の相愛大学のあるべき姿をまとめた「第2次将来構想」の作成に取り掛かっており、既に骨子はできあがっています。本学が今後大切にしていくべきものは、地道かつ真摯な教育と、それを社会に発信する取り組みだと考えています。本学に入学してくる学生の姿を念頭に置きながら、初年次教育の徹底を含めた丁寧な教育を続けていくことで、学生募集の充実につなげていきたいと思います。
【Profile】
金児曉嗣(かねこ・さとる)氏
昭和19年大阪府生まれ。昭和48年京都大学大学院文学研究科博士課程(心理学専攻)単位取得退学、博士(文学)。
元大阪市立大学理事長・学長、大阪市立大学名誉教授、大阪国際平和センター(ピースおおさか)代表理事兼務。
主な著書に『宗教心理学概論』(ナカニシヤ出版)、『文化行動の社会心理学』(北大路書房)
『サイコロジー事始め 』(有斐閣)、『寅さんと日本人―映画「男はつらいよ」の社会心理』(知泉書館)
『日本人の宗教性―オカゲとタタリの社会心理学』(新曜社)、『真宗信仰と民俗信仰』(永田文昌堂)など多数