教えて!「2018年度予算にみる教育行政」

 森友・加計両学園の「モリカケ」問題に前川前次官授業照会問題、果ては防衛相の日報問題や財務事務次官の記者セクハラ問題などが加わって、中央省庁を巻き込んだ政局はますます混迷の度を深めています。しかし2018年度予算は3月中に成立し、ある意味で行政は淡々と進んでいきます。高校の新学習指導要領も告示され、いよいよ新課程への対応が求められる中、今後の教育行政はどうなるのでしょうか。

教えて!「2018年度予算にみる教育行政」

 文部科学省の説明によると、18年度の文教関係予算のポイントは「人づくり」「1億総活躍社会」の実現に向けた教育再生の取り組みを強力に推し進めるため、①社会を生き抜く力の養成(新指導要領の円滑な実施と学校の働き方改革のための指導・運営体制の構築など) ②未来への飛躍を実現する人材の養成(国立大学の基盤的経費や私学助成の確保、Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成の強化など) ③学びのセーフティーネットの構築(給付型奨学金を含む大学等奨学金事業の着実な実施など)――をはじめとした施策を推進することなのだそうです。

 「教育課程の充実」に関しては、▽学習指導要領等の改訂及び主体的・対話的で深い学びの推進 ▽次代を見据えた教育課程・指導方法等に関する先導的研究開発 ▽カリキュラム・マネジメントの在り方に関する研究 ▽高校における総合的な学習の時間の抜本的改善・充実 ▽「キャリア・パスポート(仮称)」普及・定着事業――が挙がっていますが、いずれも前年度に比べ減額か同額にとどまっています。一足早く告示された小・中学校が移行措置に入っているとはいえ、これから新教育課程への具体的対応を考えようという高校関係者にとっては少々心もとないところです。ただし、環境教育や放射線教育、社会参画等に関する教育の充実といった「現代的課題に対応した教育の充実等」は7400万円から1億8500万円に、「小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業等」は8億2100円から8億3700万円に増額されるなどの拡充もありますから、期待したいところです。

 「少子化に対応した活力ある学校教育の推進」に関しては、新規の「高等学校における次世代の学習ニーズを踏まえた指導の充実事業」(7400万円)が注目されます。遠隔教育の導入をはじめとした優良事例の普及を図るとともに、定時制・通信制課程の特性を活かした効果的な学習プログラムのモデルを構築し、普及を図るとしています。

 「初等中等教育段階におけるグローバルな視点に立って活躍する人材の育成」が213億円から202億円に減額されているのは、スーパーグローバルハイスクール(SGH)も含め、継続事業の性かもしれません。そうした中でも「高校生の国際交流の促進」では、新規にアジア諸国で日本語を学ぶ優秀な高校生を全国の高校に招く「アジア高校生架け橋プロジェクト」に期待が持てます。

 高校生等就学給付金は、非課税世帯の第1子単価が年5000円引き上げられ、国公立が8万800円、私立が8万9000円になります。一方、大学等奨学金事業では、給付型奨学金の本格実施に伴って対象者が2800人から2万2800人へと一気に拡大。無利子奨学金も4万4000人増の53万5000人として、希望者全員への貸与を目指します。授業料減免も国立大学で4000人増の6万5000人、私立大学等で1万3000人増の7万1000人とします。「真に必要な子どもたち」などと言わず、今後も幅広い経済的負担の軽減策を期待したいものです。

 「高大接続改革の推進」は4000億円増の58億円を計上。▽高校生の基礎学力の定着に向けた学習改善のための研究開発事業(前年度同額の7000万円) ▽「大学入学共通テスト」準備事業(5億円増の13億円) ▽大学入学者選抜改革推進委託事業(1億円減の2億円)――などを引き続き実施します。共通テストの円滑な実施はもとより、高校現場の取り組みに役立つ研究成果を望みたいものです。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/