教えて!「大学入試で『主体性』をどう評価する?」

 大学入学共通テストの試行調査(プレテスト)問題を通して、2022年度からの新教育課程で生徒にどんな学力を付けさせたらいいかが、徐々に明らかになってきました。しかし共通テストは、「知識・技能」を基にした「思考力・判断力・表現力」を中心に問うものです。残る「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」の評価は、どうなっているのでしょうか、とりわけ主体性の評価など、とても難しいように思えますが…。

教えて!「大学入試で『主体性』をどう評価する?」


 高大接続改革の下での大学入学者選抜改革は、共通テストと各大学の個別選抜を通して、学力の3要素すべてを多面的・総合的に評価する入試に転換することを目指しています。しかし実際には、共通テストでさえ今年度も「試行」を重ね、まさに走りながら考えているような状況です。ましてや個別大学の入学者選抜は、文科省が「思考力等」や「主体性等」をどう評価すればいいのかを大学のコンソーシアム(共同事業体)5機関に委託し、その研究成果を待っている段階です。

 主体性をどう評価すればいいのか、あるいは、それが本当に可能なのか――。そんな疑問に向き合おうというフォーラムが21日、東北大学で開催されました。

 基調講演した佐賀大学の西郡(にしごおり)大(だい)教授は、評価する人や分野、背景によって「主体性」の捉え方は異なり、その程度を比較することはもっと難しいと指摘しました。一方で個人的な解釈と断りながらも、佐賀大のような地方国立大学としては、「自ら学びを深めようとする姿勢や行動」に関するものを、大学入試という場面で評価すべき「主体性」と捉えるべきではないかとの考えを示しました。

 主体性が目に見える形で発揮された「行動」を評価するのが一番やりやすいのですが、例えば生徒会組織でリーダーを務めたとしてもジャンケンで選ばれたかもしれず、必ずしも主体性を正しく評価できるとは限りません。書類や面接・パフォーマンステストなどを課したり、学びの課程をポートフォリオ化したりして評価する「プロセス重視」も、一般選抜のような多くの受験生に実施することは困難です。西郡教授は、数点差で合否ラインにひしめくボーダー層に限って「特色加点」する方法を提案していました。

 ところでフォーラムでは、4人の高校教員も登壇しました。そのうち「本州北端の進学校」である青森県立田名部高校の千葉栄美教諭は、多様な生徒を抱える中でもグランドデザインの策定やアクティブ・ラーニング(AL)の実施といった取り組みを通して、生徒に主体性を身に付けさせるとともに進学実績も上げてきた事例を報告しました。千葉教諭は約10年間、キャリア教育を通して主体性の育成に取り組んできた経験を踏まえて、▽自分のための主体性では底が浅くなり、他人や社会のための主体性こそ必要だ ▽主体性の涵(かん)養には時間が掛かる ▽主体的であることを求められ続ける生徒たちにも苦悩がある  ▽学校生活での積極性は主体性とイコールではない――などと指摘していました。

 フォーラムの最後に東北大の滝澤博胤理事が、主体性を測定する難しさが浮き彫りになったことを振り返りながらも、「国(の方針)に流されることなく、高校と大学で信頼性のある入学者選抜がなされることが大切だ」と語っていたのが印象的でした。どうやったら主体性が評価できるかという「入試接続」より、高校教育のあるべき姿として生徒に芽吹かせた主体性の種を大事に受け継ぎ、どうしたら大学教育で花開かせられるかという「教育接続」こそ、高大接続改革で一番に考えるべきことなのかもしれません。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/