学校法人園田学園 理事長 齊藤悦一氏

女性が上級管理職として活躍するための
社会科学系学部の設置を構想中


女性教育と地域振興が学園の原点
 園田学園は1938(昭和13)年、園田高等女学校として創設されました。
 かつてこの一帯(尼崎市北東部)は園田村という地区で、当時の中村龍太郎村長が地域に女子教育の学校がなかったことに加え、高等女学校の開設が地域振興にもなると考え土地を提供して園田高等女学校を設立したのが始まりです。ほどなく戦後を迎え、1947(昭和22)年に園田学園中学校、1948(昭和23)に園田学園高等学校を開校。続いて1963(昭和38)年に園田学園女子短期大学(現・短期大学部)、1966(昭和41)年に園田学園女子大学を開学し、高等教育を手掛けるようになります。創立から80 年経った現在も、女子教育と地域振興という原点は脈々と受け継がれています。

女性の努力が報われる社会を願っていた創設者
 建学の精神は「捨我精進(しゃがしょうじん)」という言葉です。「捨我」とは人を愛し自分の為すべきことに全力をつくす。「精進」とは幸福な世の中をつくるため勇気をもって挑戦することを意味します。他方、捨我精進には他の含意があり、我を捨てて献身することによって自身の思いが達成できるという個人を鼓舞する意図が込められていたのです。つまり我を捨てて献身することが自分のためにもなる。創設者はそうした努力が報われる女性を育てたかったのです。言葉は時代とともに、また扱う人によって意味も変わりますが、今の時代なら精進によって報われるという言葉は、女性にも普通に受け入れられます。

実学にシフトする以前から大切にしてきた「経験値教育」
 建学の精神とともに大切にしてきたのは「経験値教育」という切り口です。実社会に出て体験的に学ぶことに加え、講義や演習、課外活動での「体験」を「客観化」し、他者との「比較」によって相対化したうえで、次の行為を「選択」する独自のサイクルで経験値を高める学びです。一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生が提唱された、暗黙知と形式知の往還のイメージに近いのではないでしょうか。本学は現在、実学系の教育を展開しておりすべての学部・学科で実習が必須であり、地域に出て智恵を形成するという方法論は経験値教育そのものと映りますが、特徴的なのはこの経験値教育という考えが、文系の時代から存在していることです。文学は現実社会と乖離する部分がありますので、当時の教員が世の中の流れもよく観察しなければならないとの思いからこの言葉を考えだしました。20年来この教育に取り組んできた成果の一つとして、2013 年(平成25年)に文部科学省の「地(知)の拠点整備事業<大学COC事業>」(自治体と連携し、全学的に地域を志向した教育・研究・地域貢献を進める大学を支援する事業)に採択されています。採択校の大半が大規模大学という中、本学のような小規模の女子大学が選ばれたのは価値あることと考えています。

学園の10年先を見据えた改革に着手
 大学も組織である以上、健全な経営がなされなければなりません。ましてや私学にはそのことが不可欠です。私が法人本部の事務局長に就任した2006(平成18)年当時は、人間健康学部の改革がやや軌道に乗り始めた時期であったものの、非常に厳しい財務状態にありました。そこで「経営構造の適正化」を中期計画の命題に掲げ、経営のしくみを変革することに奔走しました。その後ほどなく大学、短期大学部とも定員をほぼ充足するようになり、経営構造の改善を通じて財務状況も好転しました。しかし今後の経営環境を考えたとき、学部によっては募集状況が厳しくなることを見通しています。財務状況が安定している今、これから5年先、10年先を見据えた改革を推進していかなくてはなりません。

社会科学系の新学部を設置構想中
 これまでスポーツ、看護、食物栄養、教育などの実学系の学部を立ち上げてきました。次に女子教育に求められ、かつ園田学園にできる分野は何か。結論は社会科学系です。女性が組織で上級管理職として活躍できる学部の新設を現在構想中で、2020(平成32)年の開設を目指しています。これは10年前から温めていた構想です。女性の社会進出が進むなか、組織をマネジメントする女性たちの存在が目立ち始めていますし、今後は一層求められるでしょう。政府の方針とも一致します。私は経営学部の出身で、最近母校の同窓会に出席する機会がありました。その際、現在経営学部の学生の女性比率が57%にも及んでいることを聞いて驚きました。私の学生時代、女子学生はゼロ。時代が変わっていることを実感しました。すぐに調査をすると阪神間に女子大学の経営学部はなく、全国的にも稀であることがわかりました。人間健康学部の開設では本学は先駆者でした。この分野でも阪神間の先駆けとなれるよう、すでに準備に着手しています。

実社会とのつながりを強めながら教育を推し進めることを拡大・強化
 「捨我精進」と「経験値教育」は本学の底流を為すもので、新学部でもそれを反映し、実社会とのつながりを強めながら教育を推し進めることが最大の課題となります。そのためには2軸があり、一つは国内、もう一つは海外ネットワークの構築です。国内のネットワークはさまざまな企業とのつながりをもつ教員によって拡大・強化していきます。海外はすでにネットワークのあるニュージーランド、オーストラリアの英語圏2カ国で留学のしくみを築き上げようとしています。本学は、ニュージーランド・クライストチャーチの国立カンタベリー大学内に「そのだクライストチャーチ キャンパス(SCC)」という施設をもっています。その利用と単位互換制度を整備するなど枠組みを一層拡大させ、全員留学を必須とする新学部を目指したいと考えています。

高校生の皆さんには常に未来の準備を意識してほしい
 私はマネジメントという仕事が好きで、無意識のうちに膨大な量の文献を読んできました。大学時代は将来を見据えるという意識はなく、与えられた目の前の学問にコツコツと取り組んでいました。私の場合それらが結果的に次のステップの準備になってきたのですが、振り返るとそれを意図的にできていればよかったと感じています。高校の先生方にメッセージをお送りするとすれば、生徒さんに常に未来のことを考え、準備させる関わりをしていただきたいと申し上げたいと思います。次代を担う高校生の皆さんに“Be always prepared for the future”の精神をもって学んでほしいと願っています。


齊藤悦一氏

【Profile】

齊藤悦一(さいとう・よしかず)氏

1944(昭和19)年兵庫県生まれ。1968(昭和43)年神戸商科大学(現・兵庫県立大学)経営学部(会計学)卒業。
同年日商株式会社(現・双日株式会社)に入社。デトロイト店ジェネラルマネージャー、大阪監査室長などを経て、
2004(平成16)年双日マシナリー株式会社取締役に就任。
定年退職後、2005(平成17)年学校法人園田学園法人本部・担当部長に就任。
その後法人本部事務局長、評議員・理事、常務理事を経て、2017年(平成29)年8月より現職(理事を重任)。

【園田学園女子大学の情報(スタディサプリ進路)】

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