阪南大学 学長 田上博司氏

次世代型実学教育の
新しいモデルを準備中
その鍵を握るのは教養教育


看板である実学教育をさらに発展・深化させる
 阪南大学は「すすんで世界に雄飛していくに足る有能有為な人材、真の国際商業人の育成」を建学の理念に、1965年商学部の単科大学として開学し、現在では5学部1研究科を擁する大学に発展しています。本学の教育機関としての存在意義は、教養豊かで国際性に富んだビジネスパーソンを育てる実学教育にあります。これは建学当初からの本学の理念であり、今後も変わることのないミッションであると考えています。
 一方、少子化の影響による志願者減少、さらに専門職大学の新設など既存の大学にとってかつてない逆境が見込まれるなかで、大学の差別化、個性化は今後の大学経営を考えるうえでの重要かつ重大な課題であると認識しています。そのための施策として、本学においてはこれまで培ってきた、本学の看板ともいえる実学教育をさらに発展・深化させ、次世代型実学教育を新しい看板に掲げることによって個性化を図っていきたいと考えています。これが、私が学長就任後の一番のポイントとなる教育改革です。
 昨今では、関西圏に限っても実学教育を掲げる大学は少なくありません。実学教育の意味するところは、実社会ですぐに役立つ人材育成という見方が一般的だと思います。しかし私は、実学イコール即戦力ではないという捉え方をしています。それは、すぐに役立つことのみを主眼に据えた即戦力は、10年後には陳腐化する危うさをもっているからです。大学本来の使命は10年後も20年後も社会に貢献し続ける人間をつくることにあるはずです。そこで着目しているのが、最近見直しが進んでいる教養教育です。本学の特色である実学教育は、教養教育と相反するように思われがちですが、実際にビジネスの世界へ入ると、結局は人間の器というものが問われ、その土台を為すのが教養です。したがって、現在準備を進めている次世代型実学教育は、教養教育を取り込んだものになります。このことを通じて、即戦力に加えて、教養豊かで国際性に富んだビジネスパーソンを育てたいと考えています。

3・4年次生を対象とした後期型の教養教育
 この次世代型実学教育では、大学における教養科目のうち語学などスタディスキルに関する学習のみを導入教育で行い、一般に早期に実施されてきたリベラルアーツ教育を後期にまわします。その一つのこころみが3・4年次生を対象とした学部横断型の「社会人としての教養教育講座(仮称)」で、1年後、2年後に社会へ出る学生を対象に、社会人に求められるコンピテンシーやリテラシーの育成を目指します。本学は「キャリアゼミ(産官学連携型ゼミ)」をはじめ、実社会とつながる数多くの仕掛けをもっています。外部から知的な刺激を受けた学生が、自らに必要な教養科目を能動的に履修できることが後期に教養教育を実施する意義です。加えて、既に導入されている学部を超えた副専攻制も広い教養を培ううえで有効な制度です。いずれも学部の垣根を取り払うことによって本学の有する教育資源を全学に開放し、ミッションステートメントに謳う「幅広い教養をもつ国際的な」ビジネスパーソンの育成をさらに一歩進めようとするものです。
 学生は学部の専門教育で実社会に密着した専門領域の学びを深めるとともに、学部を超えた他領域の教員から、社会人として身に付けるべき教養を広く学ぶ。これが本学の目指す次世代型実学教育の一つの形です。社会人としての教養教育はもちろんこれにとどまらず、第2、第3の矢を射かけていきます。そしてこれらを実質化すべく、教育資源の地理的・物理的な集中も検討中です。

実社会の問題解決に挑む「キャリアゼミ」
 「キャリアゼミ」は本学における実学教育の柱です。2007年度「文部科学省現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に採択された事業で、現在も継続しています。官学もしくは産学の連携を要件とし、企業や行政が抱える実社会の課題について、学生たちが解決に向けて主体的に取り組みます。活動の成果を企業や地域社会に還元することを目指しており、実際に数多くの実績を残してきました。活動内容は、まちづくり、インバウンド観光、マーケティング、システム制作、スポーツビジネス、アパレルから海外でのマングローブ植樹に至るまで多種多彩で、ゼミ単位の単独型と複数ゼミによる連携型を合わせて、2018年度現在44もの「キャリアゼミ」が動いています。学生たちは盛んに現場に足を運びます。例えばアパレルのブランド・マーケティングの取り組みでは、店舗だけではなく製造現場も含めて、それぞれのつくり手の思いを知る。地域スポーツなら指導現場にとどまらず、さまざまな裏方の業務を体験する。そのように表も裏もみるなかで、自身の立ち位置を探ったり、自ら役立てることを明確にしたり、キャリアに関する可能性を思案します。そこで実感した課題を携えて、先述した「社会人としての教養教育講座(仮称)」を履修することで次世代型実学教育が完成するという仕組みです。

リカレント教育にも、教養教育の流れを
 さらに、昨今その必要性が叫ばれているリカレント教育にも、本学が構想する教養教育の流れを取り入れたいと思っています。現在は本学で開講されている既存科目に対し科目等履修生・聴講生制度によって社会人を受け入れていますが、その延長線上に、例えば在学生・社会人がともに学べる「社会人のための教養講座(仮称)」や、知っておくべき現代社会のさまざまな事象を本学の専門教員の目で解説する講座などを、交通至便なあべのハルカスキャンパスで開講することも考えています。
 人生100年時代とよく言われていますが、これによって本学同窓生をはじめとする社会人学生の門戸を広くし、生涯学習という社会的ニーズにも応えていきたいと思います。そしてこのような次世代型実学教育が次に求めるものは、それにふさわしい学部学科体制でしょう。付け焼刃的な大学改革は却って大学の存続をあやうくする危険性も孕んでいますので、本学は単に志願者受けを狙った短絡的な新学部設置や学部改編を行うつもりはありません。しかしながら、本学の教育理念に照らして時代がそれを要請するのであれば、十分に検討し、準備を進めなければならないと考えています。



田上博司氏

【Profile】

田上博司(たがみ・ひろし)氏

1954年大阪府生まれ。神戸大学経営学部経営学科卒。帝塚山学院大学メディアセンター副センター長、帝塚山学院総合情報センター長などを務め、2009年阪南大学経営情報学部教授、経営情報学部長を経て、2018年4月より現職。専門分野はマルチメディア情報論。ゲーム学会評議員。情報文化学会・日本VR学会・教育システム情報学会・日本ケベック学会会員。特定非営利活動法人環境教育技術振興協会理事。

【阪南大学の情報(スタディサプリ進路)】

大学・短大トップインタビューに戻る