流通科学大学 学長 中内 潤氏

初年次教育『気づきの教育』の
改革などを通じて学生一人ひとりが
夢をもって学べる大学に


ビジネスパーソンを育成する大学
 流通科学大学は「流通を科学的に研究教育することを通じて、世界の平和に貢献し、真に豊かな社会の実現に貢献できる人材を育成する」ことを建学の理念に1988年に商学部の単科大学として開学しました。現在では3学部7学科・1研究科の大学に発展しておりますが、開学から一貫してビジネスパーソンを育ててきた大学です。
 現在改革を推し進めているのが初年次教育です。きっかけになったのは、学生の就職活動を観察していたときに抱いた問題意識です。一人の学生が金融、小売、物流などといった一貫性のない業種の企業をいくつも受けていた。その学生に何がしたいのか尋ねても答えられませんでした。社会科学系の大学である本学には多様な進路選択があると同時に、目標が希薄な学生も少なくなかったのです。どうすれば学生が夢をもてるようになるのか。そう考えて2015年度から導入しているのが、学生自身の気づきを促す初年次教育プログラム「夢の種プロジェクト“探す”“育てる”“咲かせる”」です。例えば、日本の大学生は中学生から英語を学んでいるのにまるで話せないと言われます。これはその必要性を実感していないからではないでしょうか。海外を体験してみて、どうしても英語力を身に付けたいと思えば自ら勉強するはずです。大学における一般的な初年次教育のカリキュラム編成を見ても、学生の興味に関係なくまず英語や専門基礎を教えます。「夢の種プロジェクト」ではその常識を変えていこうと考えました。

自分の興味関心を見いだすための初年次教育プログラム
 まず入学から半年間は専門の授業を行わず、自分の好きなことや得意分野を見いだすためのさまざまな体験を行わせます。プログラムの中身は「フィールド演習」「先輩・卒業生との交流」「企業人との交流」「異文化交流」などです。「フィールド演習」では大学近郊の若者や観光客が集まる商業施設などビジネスの現場を見学させます。そこでは課題は与えません。従業員の動き、商品構成、お客さん、安全性、福祉など自分なりの視点で見学して興味あることを探ります。フィールドワークの所感は、後日クラスでの討論を通じて共有し、その成果をポスター発表でプレゼンテーションさせています。「先輩卒業生との交流」は4年間のキャリアビジョンを考えるために上級生と懇談を行うとともに、自分のロールモデルとなる先輩と出会う機会としています。「企業人との交流」は製造業、観光、ホテル、金融、小売、食品、出版、広告など多種多様な業界から企業人をお招きするほか、各業界で活躍する卒業生にも来学していただき、それぞれの現場での仕事についてお話しいただいています。企業人の講演は初年次教育のプログラムの中で最も学生の満足度が高く、近隣の高校の先生方からも1年の段階で企業の話をじかに聞けるのは流科大らしいと評価いただいています。
 「夢の種プロジェクト」の成果は明確に表れています。「異文化交流」に多くの学生が参加し海外に関心をもった結果、留学者数が大幅に増えました。さらに初年次教育で目標を見いだした学生たちの2年次転学部・転学科も急増しています。本学では従来学部・学科の変更が可能だったのですが、初年次教育の改革を踏まえ、選択したコース科目の履修を2年次からに配当にしていますので、転学部・転学科がよりやりやすくなっています。

最長1年間、在学しながら起業などに取り組む制度も
 学生の夢を後押しする制度もつくりました。在学中に半年間から最長1年間、休学することなく起業や留学、ボランティア、芸能活動など、やりたいことにチャレンジできる「トライやるイヤー制度」という仕組みです。4年間で卒業することが条件で、期間中の授業料は不要です。この制度を利用して語学留学に出向いたり、カフェを起業するための準備を始めたりする学生がいます。なかにはユニークな学生がいて、プロ釣り師を目指す活動をしたいという申請がありました。さすがに現実的ではないと思っていましたが、その学生が大会の出場や釣り具メーカーとのタイアップなど、驚くほど綿密にプロに向けて計画しているのを聞いて認めることにしました。「トライやるイヤー制度」の面接では、皆熱っぽく夢を語ってくれます。自発的に夢をもち、行動する学生が増えてきたことを嬉しく思っています。

ICTを活用した双方向授業を数多く導入
 本学はまだまだ改革のさなかにあります。授業は旧来の講義スタイルからICTを活用した双方向授業への変革を進めています。授業中に学生が文字入力すると即座にテキストがモニターに反映される機器を導入し、教員の話に賛意を示したり、意見を述べたりすることでき、教員が「この意見を述べた人は?」と発言を促すといった授業展開が可能になります。多くの授業で取り入れていますので、今後一層導入を進めていきます。
 2018年度の前期から定期試験のルールも変え、すべての試験でどのような資料でも持ち込みを可にしました。試験のハードルを低くするためではありません。成績評価の指標を見直したことで、考えないと答えがでないタイプの試験に移行したからです。だから普段の授業で何を考えてきたかが問われることになります。社会人になると、わからないことは人に尋ねます。この疑問に対してはこの人、という人脈は大きな強みです。では、試験で人に聞くことはだめなのでしょうか。現時点ではそこまでの変革はできませんが、私は本学を社会人に向けて思考の切り替えを行う場にしなければならないと思っています。今後も、どうすれば学生が社会人の状態に切り替わるかという考えに立って、正課(通常授業)、課外活動(その他学生生活)の両面にわたって改革を推進していきます。
 申し上げたように、本学はビジネスパーソンを育てる大学です。私の理想は、企業の方々から「流科大の卒業生はきちんとしている」という評価が定着することです。依頼されたことをしっかりとやり遂げることや礼儀もわきまえた人材。そのための教育を整えていきたいと考えています。



中内 潤氏

【Profile】

中内 潤(なかうち・じゅん)氏

1955年生まれ。慶應義塾大学法学部卒、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了、同大学院商学研究科博士課程修了(商学博士)。
1980年株式会社ダイエー入社、1984年取締役、1986年代表取締役専務、1989年代表取締役副社長。
2003年学校法人中内学園 理事長に就任。
2016年4月より流通科学大学 学長を兼務。

【流通科学大学の情報(スタディサプリ進路)】

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