教えて!「高大接続改革にどう臨む? ~京都のフォーラムから」

 早いもので2018年も、もうすぐ終わり。高校教育界にとって今年のトピックは、何といっても新しい学習指導要領が3月に告示され、4月には「大学入学共通テスト」をはじめ大幅に変わる大学入学者選抜を受ける学年の生徒が入学してきたことでしょう。来年は4月から新指導要領の移行措置が始まりますし、入試改革への足固めもしなければなりません。2019年を控え、いよいよ具現化が迫られる高大接続改革に、どう臨めばいいのでしょうか。

教えて!「高大接続改革にどう臨む? ~京都のフォーラムから」

 高大接続改革の在り方を考える上でタイムリーな企画が、今月初めにありました。公益財団法人大学コンソーシアム京都や京都府教育委員会などでつくる「京都高大連携研究協議会」が京都駅前のキャンパスプラザ京都で開催した、第16回高大連携教育フォーラム「いま育成すべき力は何かをともに考えるⅡ―高等学校・大学の役割~次期高等学校学習指導要領と高大接続の本質」です。昨年に続くもので、府市内はもとより北海道から沖縄まで約100人多い約300人の高校・大学関係者などが集まり、急きょ定員を増やして映像配信会場を設けたほどです。ここからも、高大接続改革への具体的な関心が全国的に高まってきた様子がうかがえます。

 大学コンソーシアム京都高大連携推進室長としてフォーラムを企画したのは、京都市立堀川高校長時代の“堀川の奇跡”で知られる荒瀬克己・大谷大学教授。中央教育審議会初等中等教育分科会や高大接続システム改革会議などの委員として改革論議に携わり、「高校生のための学びの基礎診断」検討ワーキング・グループ(WG)座長も務めています。そんな荒瀬教授は冒頭の趣旨説明で、高大接続改革は大学入試ばかりでなく、高校生や大学生に必要となる資質・能力を身に付けさせるための教育改革そのものであることを強調。そこで育成すべき力とは何かを高校と大学で一緒に考えていくよう訴えました。

 荒瀬教授は機会あるごとに、入試改革にばかり注目が集まる状況に苦言を呈してきました。大事なのは、高校教育・大学教育・大学入学者選抜の「三位一体改革」を通して、生徒・学生が今後の先行き不確実な社会で活躍していけるような資質・能力を、どう育成するかです。それには同フォーラムのように、高校・大学の関係者が顔を合わせて熟議をすることが各地で求められるでしょう。来年から本格的な授業改善に着手するためにも、そうした取り組みが急務です。

 授業改善といえば、アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)をどう取り入れるかが喫緊の課題です。ただし、荒瀬教授と一緒に指導要領の改訂に携わった市川伸一・東京大学大学院教授は基調講演で、新指導要領も基本的には現行指導要領の延長線上にあり、「生きる力」や習得・活用・探究、教授と活動のバランスなどを強調・拡張するためのキーワードとして「社会に開かれた教育活動」や「教科横断的な資質・能力の育成」が掲げられたと説明しました。

 市川教授が提唱してきた「教えて考えさせる授業」の考え方は、現行指導要領にも反映されています。基調講演では、詰め込みや教え込みを「旧タイプの分からない授業」と位置付ける一方、教えずに考えさせる授業を「新タイプの分からない授業」だと批判し、基礎知識はしっかり教え、思考・表現を通して深い習得を促すことが重要だと指摘。習得の授業にも、教えて考えさせるALの場面を設けるよう促しました。

 教科別などに分かれた分科会のうち、「表現技法」の分科会では「PBL(課題解決学習)から将来の学びを見通す入試とは?」をテーマに、自分たちが新しい大学を創ると想定して、アドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針、AP)に基づいた入試方法をグループで考えました。こうした具体的な作業を通して高大接続改革への理解を深めるワークショップを校内研修などで行うのも、遠回りのようで実は授業改善のためにも有効な手段かもしれません。




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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/