教えて!「『学校の働き方改革』答申」

  中央教育審議会は今週末の1月25日に開かれる総会で、「学校の働き方改革」を柴山昌彦文部科学相に答申します。これで、世界一忙しいとされる日本の教員の多忙化が少しは解消されるでしょうか。

教えて!「『学校の働き方改革』答申」

 中教審では、答申案に合わせて「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」案もまとめ、昨年12月に広く国民から意見募集(いわゆるパブリックコメント)を行いました。とりわけ在校時間が1カ月45時間、1年間360時間を超えないようにするというガイドライン案(※)に対して、学校現場の評判は総じて良くないようです。パブコメでも、45時間・360時間とした根拠に疑問を持つ向きが少なくありませんでした。しかし実際には、昨年7月に成立した「働き方改革推進法」に規定された民間企業と横並びにしただけです。裏を返せば、教員独自の事情を勘案した規制を掛ける余裕は一切なかった、とも言えます。

 そうした経緯に現われている通り、「学校の働き方改革」は当初から限界を抱えていたと言えるかもしれません。これまで学校が担ってきた14業務に対する①基本的には学校以外が担うべき業務 ②学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務 ③教師の業務だが、負担軽減が可能な業務――という “仕分け”提言 も、17年12月の「中間まとめ」を踏襲したものです。これには、社会や家庭の要請に応じて学校が業務を肥大化させてきたことに対する反省という側面があるのも確かです。しかし他方では、条件整備を求める前に業務の適正化・効率化を図ることが先決だという財政当局への配慮が働いた側面も否定できないでしょう。

 パブコメでは教員増を求める意見も多数寄せられ、答申案でも、文部科学省に対して教職員定数の改善に努力するよう求めてはいます。しかしその実現は、学校現場で業務仕分けや勤務時間管理の取り組みを進めた上で「3年後を目途に」行う勤務実態調査の結果に基づかなければ、本格的な概算要求さえできないことになります。

 しかも業務仕分けの①や②に関しては、地域住民や家庭の協力がなければ削減は進みません。「文部科学省を連携の起点・つなぎ役として活用」したり、文科省に「学校と家庭、地方公共団体等との役割分担及び責任の所在、保護者や地域から学校への過剰要求への注意喚起について、関係機関や社会全体に対して何が学校や教師の役割か明確にメッセージを発出」したりすることも提言しています。

 答申の一つの目玉は、公立学校教員への1年単位の変形労働時間制の導入です。現行では地方公務員全体に3カ月単位の変形労働時間制しか認められておらず、これを1年単位にすれば、夏休みなどにまとまった長期休暇が取れるとしています。ただ若手教員にはピンと来ないでしょうが、ベテランなら学校週5日制の導入までの「まとめ取り方式」以前から、長期休業中には自由に自主研修などに打ち込めた牧歌的な時代を覚えていることでしょう。今さら「夏休みが取れることで、採用試験の倍率が低下している教職への人気も回復が期待できる」(中教審の部会等で出された意見)との見方もありますが、昔に比べて格段に増大した長休中の業務を精選しない限り、絵に描いた餅になりかねないのではないでしょうか。

 答申案の端々からは、さまざまな制約の中で提言をまとめざるを得なかった文科省の苦労もしのばれます。そんな中で注目されるのは、「引き続き中央教育審議会において時代を見据えた検討」が明記されたことかもしれません。2月からの次期中教審(任期2年間)で審議される見通しの「初等中等教育のグランドデザイン」(中教審副会長で初等中等教育分科会長の小川正人・放送大学教授、1月11日の働き方改革特別部会での発言)に基づいた、教員の働き方にとどまらない学校教育の抜本的な見直しを期待したいものです。

※① 1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間が,45時間を超えないようにすること。
 ② 1年間の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間が,360時間を超えないようにすること。




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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/