教えて!「具体的になってきた大学入学共通テスト」

 文部科学省が6月4日に2021年度入試の「大学入学共通テスト実施大綱」と「大学入試英語成績提供システム運営大綱」を策定し、大学入試センターも6月7日に共通テストの出題方法や問題作成方針を公表しました。同省の委託調査によると、まだ共通テストや英語資格・検定試験の扱いを決めかねている私立大学も多いようですが、入試時期は刻一刻と迫っています。高校側として、どう受け止めればいいのでしょうか。

教えて!「具体的になってきた大学入学共通テスト」

 まず喫緊の課題が、大学入試センターから認定を受けた英語資格・検定試験(認定試験)の扱いです。成績提供システムの整備は順調だとしても、肝心の認定試験実施団体がどのような受検体制を整えてくれるかは、いまだに明確ではありません。高校関係団体の間にも、不満が募っています。来年4月から受検が可能となり、そのための共通ID発行もあと半年後(11月)に発行申し込みが始まるのですから、文科省も含めた関係者の努力を求めたいものです。

 センターは、マーク式の英語のうち従来の「筆記」を「リーディング」と改称するとともに、配点も200点から100点に引き下げ、代わりに「リスニング」を50点から100点としました。もちろん具体的にどう傾斜配分するかは各大学の判断に任されますが、ここでは、ペーパーテストで測定するのは「読む」「聞く」の2技能であることを明確化した姿勢の表れであることを、問題作成方針と併せて、しっかり見ておかなければなりません。

 国語と数学(Ⅰ、Ⅰ・A)の記述式問題に対しては、他の教科等も含め、普段から言語活動を充実させながら思考力・判断力・表現力を育成しておくことが急務です。とりわけマーク式問題とは別に出題・成績表示される国語では、より正確に自己採点することも不可欠ですから、与えられた条件を正確に把握して、それに沿って表現し、自己評価する力の育成も求められます。

 今年はプレテストが行われず、後は21年1月の本番勝負となりますから、“演習”にも限界があります。2度の試行調査(プレテスト)を経て高校現場には現行の大学入試センター試験に近づいたという安心感が生まれているようですが、それでもセンターは「知識の理解の質を問う問題や、思考力、判断力、表現力を発揮して解くことが求められる問題を重視する」と、一歩踏み込んだ問題作成方針を示しています。まずは新学習指導要領も意識した「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング=AL)の視点による教科を超えた授業改善が王道です。

 こう書いてきても、現場の不安は拭えないことでしょう。12年8月から審議が始まった高大接続改革は、政権交代のすぐ後に「20年」という改革のターゲットとなる年度が示されたにもかかわらず、実際の制度設計は困難を極め、ようやく新テストの名称をはじめ実施方針が策定されたのが17年7月でした。今も「拙速だ」という批判がやみませんが、少なくとも今のところ改革にブレーキが掛かる兆しはありません。また、今回の改革は新指導要領対応の25年度入試との2段階で行われますし、その途中には、22年度入試で電子調査書の活用という課題も入ってきます。知識・技能や思考力・判断力・表現力ももちろんですが、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」(主体性・多様性・協働性)の育成も忘れてはなりません。

 総合学習や探究学習の動向に詳しい山梨県立吉田高校の廣瀬志保教頭は、5月に関西学院大学で開催された全国大学入学者選抜研究連絡協議会(入研協)大会のパネルディスカッションで、本誌『キャリアガイダンス』をはじめ「探究」の特集や研修会・コンクールなどが盛んになっている状況を「探究モード」と表現し、探究の深化と評価の一体化による総合型入試までをも展望してみせました。普通科の改編策さえ政策課題として浮上していますが、今こそ生徒が将来活躍できる資質・能力を身に付けさせる高校教育の在り方を、ぶれずに模索していきたいものです。


<インタビュー・寄稿>の記事をもっとみる


【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/