教えて!「主体性評価に向けて調査書はどうなる」
大学入学者選抜改革の始まる2020年度まで、あと7カ月に迫っています。「大学入学共通テスト」の動向が注目を集めていますが、各大学の個別選抜も大きな変更が迫られるはずです。とりわけ学力の3要素のうち「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性等)」が具体的にどう評価されるのか、なかなか見えません。現状はどうなっているのでしょうか。
文部科学省が今年1月に行った2021年度入学者選抜に向けた各大学の検討状況についての委託調査の結果によると、一般入試の評価方法が「まだ決まっていない」と回答した大学・短大が依然として46.8%と半数近くを占めていました。一方、決まっている大学(52.7%に当たる508大学・短大)では、主体性等の評価を実施するとの回答(「教科・科目に係るテスト」「大学入学共通テストの活用」「英語4技能に係る資格・検定試験の結果の利用」以外の方法も選んだ大学・短大)は89.4%を占めています。具体的には「調査書」45.9%、「面接」29.6%、「小論文」(21.8%)、「活動報告書」9.9%などとなり、「調査書」が一位となっています(複数回答)。
入試改革を含む「高大接続改革」は、高校教育で身に付けた学力の3要素について、共通テストでは思考力・判断力・表現力等を中心に、個別選抜では主体性等も含め3要素すべてを評価して、その大学の教育を受けるにふさわしい入学者を選抜し、社会で活躍できる卒業生を育てる大学教育を行ってもらおう――というのが狙いです。1月段階で評価方法が決まっていない大学でも今後、何らかの形で主体性等の評価を行うものとみられます。ただ、英語資格・検定の活用方法も決まっていない大学・短大が50.1%を占める中で、検討が遅れている状況は否めません。
文部科学省も手をこまねいているわけではありません。16~18年度に実施した「大学入学者選抜改革推進委託事業」を受託した五つの大学等のコンソーシアム(共同事業体)のうち、関西学院大学を代表とする「主体性等分野」での研究成果として「JAPAN e-Portfolio」(JeP)を構築。4月からは同コンソーシアムを母体とした一般社団法人教育情報管理機構が立ち上がり、今後、本格稼働していくことになります。委託事業は19~20年度も引き続き関学大のコンソーシアムが受託しています(他の4分野は終了)。
文科省では、22年度を目途に高校の調査書を全面電子化したい考えです。高校が作成する電子調査書に加えて、生徒が活動などを書き込んで振り返りもできるJeP、さらには、これらとスタディサプリなどの民間のポータルサイトを連動させることにより、個別大学が主体性等の評価を行いやすくする条件が整いつつある、と言えます。
5月に兵庫県西宮市の関学大で行われた全国大学入学者選抜研究連絡協議会(入研協)の大会では「大学入試における主体性評価手法」に関する全体会も行われ、文科省の加藤善一・大学入試室専門官が、一般入試でも主体性等を評価するため調査書や「志願者本人が記載する資料等」を積極的に活用する必要性を強調。関学大の巳波(みわ)弘佳教授は委託調査の中で、高校の電子調査書と高校生のeポートフォリオを関連付けて大学側が利用できる「ハイパー電子調査書」もオプションとして構想していることを明らかにしました。
大学側でも、先進的な動きがあります。北海道大学は22年度に予定する入試改革を契機に、「北大版コンピテンシー(資質・能力)」を設定しようとしています。当面は総合型選抜(AO入試)で活用しますが、入試に限らず大学教育全体を通して独自にコンピテンシーを育成することを目指しており、そのために高校側とも対話しながら、個別大学版の調査書ともいうべき「コンピテンシー評価」表を提出してもらいたい考えです。
高大接続改革では、18歳人口減で生き残りを懸けた大学の教育改革が先行しています。入学者選抜改革も今後、急速に進んでいくことでしょう。高校側も、キャリア教育の視点を生かして、主体性等も含めた生徒の資質・能力の育成と、生徒の成長を丁寧に見取る評価力の向上に取り組まねばならないでしょう。
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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/