四国大学 学長 松重和美氏
「人が集まる「人」をつくる」大学改革。
地域とともに歩み、学生にとって魅力ある大学の在り方とは
新たな大学像とブランディングで、魅力ある先進的地域貢献大学に
四国大学は1961年の開学以来58年の歴史を積み重ね、4学部8学科1課程4研究科、短期大学部4学科2専攻を擁する総合大学へと発展を遂げました。「全人的自立」を建学の精神として掲げ、“多彩な夢が実現できる、面倒見の良い大学”として、学生諸君の学びと人間的成長、そして社会に貢献できる実践力の確立を、全学を挙げて支援しています。さらに、今後も予想される18歳人口の減少を見据え、「選ばれる大学」となるための魅力づくりとして、2011年より大幅な大学改革とブランド構築に取り組みました。
「学生にとって魅力ある大学とは何か」を追求し、基盤教育の強化とともに留学をはじめとしたグローバル環境の整備を実施。さらに文部科学省における採択事業(COC事業:地(知)の拠点大学による地方創生推進事業)による地域教育の充実、私立大学研究ブランディング事業等にも力を入れています。これにより、入学者数は2012年度の2366名から徐々に増加し、2019年度には2794名と、大きく回復・上昇しました。
しかし、こうした結果は途上のもの。さらなる志願者数・入学者数の拡大を図るとともに、地方大学の役割の一つである“地域を知り、地域に貢献できる人材輩出”のため、本学においても、常に時流を意識したカリキュラムを積極的に採り入れていきたいと考えています。
AI(人工知能)応用人材の育成
マスメディア等においても盛んに報じられるように、これからはAI(人工知能)をはじめ、より時代に即した知識、技能を備えた人材が求められることになるでしょう。特にAIについては『AIの進歩によって、10年後には現在の半数程度の仕事が無くなる』とも言われています。こうしたセンセーショナルな報道もあり、AIに対しては大きな関心を寄せながらも、不安に感じている方が多いのではないでしょうか。まず理解するべきは「AIがこれからの社会に、どのように関係するのか」。そのための基礎知識をもつことが重要です。
四国大学では、2020年度よりAI応用人材育成プログラムの導入を計画しています。こうした意思決定を事前に行うことで大学内の意思統一を図り、教壇に立つ先生方の意識の変化も狙っています。
AI応用人材育成については、三段階のカリキュラムを考えています。一つは、入学生全員を対象として行う基礎教育です。二つ目は、2020年4月より経営情報学部(経営情報学科、メディア情報学科)に専門教育を導入。専門教育には、実際に学生自身がプログラミングを行えるようなカリキュラムを用意しています。「AI」は、人文科学にも関連する幅広い分野においても活用できる技術です。例えば、看護学や心理学。まだ計画段階ではありますが、三つ目のカリキュラムとして、各専門分野におけるAI教育を盛り込めるようにしたいと考えています。
芸術・スポーツ分野の興隆によるブランド力向上
「選ばれる大学」となるためには、他大学との差別化が重要であると私は考えます。
教育改革や学修環境の整備、就職実績の向上などは当然行うべき施策ではありますが、当然であるが故に差別化にはつながりません。“四国大学ならでは”のプラスアルファをつくりたい。そこで、我々は「スポーツ」と「芸術」に四国大学らしさを見出したのです。四国大学は、総面積約18万平方メートルの広大なスペースに、全天候型人工芝グランド(しらさぎ球技場)や日ノ上陸上競技練習場をはじめ、各種スポーツ関連施設を完備。2019年4月には、全学的なスポーツ活動や健康分野の拠点として「スポーツ健康館」を開館しました。阿波踊りや吹奏楽の練習場を兼ねた大小2つのアリーナ(防音)や、各種トレーニングマシンを設置したトレーニングセンターを整備しています。
スポーツは人間を育て、地域の活性化にも大いに貢献するものです。本学は、スポーツの側面からの学生の全人的自立を促し、また地域に貢献できる人材育成の一助として、STAR(Shikoku University Top Athletes Rearing:四国大学トップアスリート育成)プロジェクトを立ち上げ、強化指定6競技部を選定。徳島から日本のトップに、さらには世界大会への出場を目指すアスリートの育成と、卒業後の地元雇用促進策に取り組んでいます。近年、特に活躍がめざましい女子7人制ラグビー部においては、国内最高峰の大会である「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」参入を果たしました。陸上競技部では、天皇賜盃第87回日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ・2018年)男子砲丸投げでは優勝選手の輩出をはじめ、輝かしい実績を築いています。現在は、地の利を生かして“サーフィン部”の立ち上げを検討しています。
芸術分野においては、本年の全日本高校・大学生書道展で、本学は最優秀大学に選ばれました。また、吹奏楽部が「第66回全日本吹奏楽コンクール(全国大会・2018年)」にて3年連続で銅賞を受賞。「第103回二科展(2018年)」デザイン部門で生活科学部人間生活科学科の学生10名が入選するなど、活躍の場を広げています。スポーツ、芸術の両分野では、在学中(大学4年間、短大2年間)の学費を支援する奨学金制度(年間20万円~80万円)を用意。国内有数のスポーツ・芸術強化校を目指し、素晴らしい素質をもつ学生の大学生活をバックアップしています。
積極的な情報発信活動により、地域活性や大学ブランド構築に貢献
先進的地域貢献大学を目指し、新たな視点での徳島、阿波の文化の創造について調査・研究活動に取り組んでいます。なかでも、徳島県の伝統産業である阿波藍の新たな価値創造を目指した研究および魅力発信・人材育成は、文部科学省のCOC(地(知)の拠点整備)事業や「私立大学研究ブランディング事業」(平成29年度)にも採択、科学的分析等を含めた研究活動をはじめとした積極的な情報発信活動を通して、地域の活性化に貢献するとともに本学のブランド構築にもつながっています。また近年は、徳島の歴史や文化、地域について体系的に学ぶ「新あわ学」の構築にも力を入れています。こうした多角的な取り組みや積極的な情報発信活動から、地域の大学としての存在感を示していきたいと考えています。
【Profile】
松重 和美(まつしげ・かずみ)氏
ケース・ウエスタン・リザーブ大学大学院(アメリカ)でPh.D.取得後、九州大学工学部助手、助教授、教授を経て1993年より京都大学工学研究科教授。京都大学では副学長(産学連携・知的財産担当)、国際融合創造センター長、VBL(ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー)施設長などを歴任した。2013年より四国大学・同短期大学部学長。分子エレクトロニクス研究、京都風電気自動車の開発やベンチャー育成、産学官連携プロジェクトなどが専門。近年は、地域教育やスポーツを通した地方活性化や阿波藍を含む「新あわ学」の構築など活躍の場をさらに広げている。