教えて!「英語4技能の“評価”をどう考える?」

 大学入学共通テストの「大学入試英語成績提供システム」に参加が認定された民間の英語資格・検定試験(認定試験)をめぐって、受検の開始があと5カ月に迫り、11月から共通IDの発行申し込みが始まるこの時期になって、認定試験の活用に対する不安や批判がますます高まっています。英語4技能の評価を、どう考えればいいのでしょうか。

教えて!「英語4技能の“評価”をどう考える?」

 認定試験に対しては、高大接続システム改革会議の委員だった南風原朝和・東京大学名誉教授(広尾学園中学校・高校校長)をはじめ、制度が確定しても批判が根強くありました。今年に入っても、6月に南風原名誉教授のグループに荒井克弘・大学入試センター名誉教授も加わって民間試験の利用中止を求める国会請願が行われたほどです。何といっても関心が高まったきっかけは、全国高等学校長協会(全高長)が7月に「不安解消」を求める要望書を文部科学省に提出し、それでも解消しないことに業を煮やして9月にはついに「延期及び制度の見直し」を求める要望書を提出するに至ったという、異例の展開を見せたことでした。国会でも追及され、野党は中止法案を提出する構えも見せています。

 全高長は制度化を議論していた時から、生徒の希望する検定を希望する時期や場所で受検できるようにすることや、経済的負担に配慮することなどを強く要望し続けてきました。しかし、ここに来ても各検定の実施日程や場所の全容が明らかにならないばかりか、肝心の大学側も活用方法が未確定のところが少なくありません。

 結果的にツケが回されているのが、受験生となる生徒や、生徒を指導する高校の教員です。13日に東大本郷キャンパスで行われた「新共通テストの2020年度からの実施をとめよう!10・13緊急シンポジウム」(実行委員会主催)に登壇した愛知県の英語教員は、学年団の状況として▽1年生担当は様子見 ▽3年生担当は新入試どころではなく、生徒を浪人させないよう必死 ▽2年生担当は正確な情報を生徒や保護者に話せず歯がゆい――とバラバラな高校現場の雰囲気を紹介。全高長が21日に文科省・入試センターや実施団体の担当者を一堂に集めて開催した緊急シンポジウム「英語4技能の民間資格試験は、混乱なく実施できるのか」でも萩原聡会長(東京都立西高校統括校長)が「高校現場では収束するどころか、ますます混乱が激しくなっている」と述べていました。

 とはいえ、9月に日本私立中学高等学校連合会(中高連)が文科省に要望したように、ここで中断・延期すれば逆に大きな混乱を招くことも確かでしょう。萩生田光一文部科学相は「初年度は精度向上期間」(1日の会見)と位置付けて予定通り実施する考えを強調していますし、役所の論理からいっても一度決めた方針を撤回するとは考えにくいのが実情です。

 ただ、大学入試はあくまで大学が実施主体であることを考えると、まだ各大学が救済措置を設けたり、合否判定の際に配慮したりする余地はあるはずです。ふたを開けてみたら思うように検定を受検できなかった生徒が不利にならないようにしてもらいたいものです。

 もっと重要なのは、「高大接続改革」の本義に帰ることです。高大接続改革は決して入試改革にとどまらない、高校教育、大学教育との三位一体改革だったはずです。高校の授業で4技能を統合した言語活動で生徒のコミュケーション能力を精いっぱい伸ばし、その熟達度を「入学者選抜」で測定した上で大学が引き取り、国内外で進むグローバル化に対応できる人材を育てる――。英語4技能の「評価」は、決して「公正・公平な入試」のためだけではないはずです。



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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/