教えて!「記述式まで見送りで高大接続改革はどうなる!?」

 いよいよ来年度に実施が迫った大学入学共通テストで、英語民間資格・検定試験の活用延期に続いて、国語と数学の記述式問題の導入までもが見送られる事態となりました。いったい高大接続改革は、どうなってしまうのでしょうか。

教えて!「記述式まで見送りで高大接続改革はどうなる!?」

 確かに英語と記述式は、共通テストにとって二つの柱だったことは確かです。2014年12月の中央教育審議会答申では他にも、一発勝負・1点刻みの入試から脱却するため、大学入学希望者学力評価テスト(当時の仮称)の年複数回実施も提言していました。しかし、答申を受けて具体化を検討した高大接続システム改革会議の最終報告(16年3月)は、記述式や英語多能評価を導入すれば「教科の知識に偏重した1点刻みの評価の改革という点については大きく改善される」という理屈で、年複数回実施を先送りしました。その二つの柱が崩れてしまっては、共通テストの制度設計が揺らいでしまいます。

 ただ、学力評価テスト=共通テストが、知識偏重に陥りがちだった大学入試センター試験を改めようとした理念そのものが揺らいだわけではありません。大学入試センターの山本廣基理事長も記述式問題の見送り判断を受けて、各教科・科目の問題を通じて受験生の知識や思考力・判断力・表現力等をバランス良く評価し、高校教育の授業改善にも良い影響を与えることができるようなメッセージ性のある良問を作成したい考えを、改めて強調しています。

 さらに、個別選抜に関してまで方針が覆ったわけではありません。各大学では引き続き、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」も含めた学力の3要素すべてを評価して、入学者を選抜することが求められます。

 もっと忘れてはならないのは、入試改革はあくまで「高大接続改革」の一部である、ということです。高校教育と大学教育、そして、その間にある入学者選抜を三位一体で改革することを目指したのが、高大接続改革の眼目でした。共通テストの創設にしても、それを受ける前に高校段階で、知識・技能も含めた学力の3要素をしっかり身に付けさせるよう努力してもらうことが前提でした。「高校生のための学びの基礎診断」(中教審答申での仮称は「高等学校基礎学力テスト」)が導入されたのも、高校教育の質の確保・向上が目的です。

 共通テストで英語民間試験や記述式の導入が見送られたからといって、高校の授業で、英語4技能や思考力・判断力・表現力の育成をおろそかにしていい、ということにはらないのは明らかでしょう。英語に関して言えば現行学習指導要領でも、授業を英語で行うことを基本としてコミュニケーション能力の育成を目指しているはずです。新指導要領では、4技能のうち「話すこと」を「話すこと[やり取り]」「話すこと[発表]」に分けた5領域を統合的に学ばせることにより、社会的な話題に関しても討論できるようにすることを目指しています。
 
 先ごろ発表された経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査」(PISA)でも、読解力の低下が指摘されたところです。国語をはじめとした各教科・科目で言語活動を充実させることはもとより、移行措置に入った「総合的な探究の時間」や、全面実施後の「理数探究」などによって、言語能力を確実に育成しなければなりません。PISAは主に小中学校段階までに身に付けたリテラシー(活用能力)を測るものですが、高校入試を経て入学してきた高校では、生徒の学力課題も絞れるだけに、効果的な手立てが打てるはずです。

  入学者選抜改革がつまずいたからこそ、逆に高校教育改革の重要性が高まっている、と捉えるべきなのかもしれません。そうでなくても進学後の大学教育改革は、既に先行しています。今こそ三位一体改革としての高大接続改革の意義を再確認して、新指導要領との両輪で「明治以来の大改革」が到来するはずの2020年に臨みたいものです。
 


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/