神奈川工科大学 学長 小宮一三氏
「技術に強く、人に優しく」をテーマに、
モノづくりに貢献するだけでなく
心の優しい豊かな感性をもつ技術者を養成したい
「学生本位主義」に基づいた、学生を主眼に置いた教育
神奈川工科大学は、1963年に当時大洋漁業社長であった中部謙吉氏が開学した、幾徳工業高等専門学校が前身です。その建学の理念は、「科学立国の発展」、「人材の育成」、「地域との連携強化」で、これが現在まで受け継がれる本学の特徴であり、教育のベースになっています。
開学以来本学は、時代変化に対応し新たな学部・学科を開設してまいりました。現在では、工学部、創造工学部、応用バイオ科学部、情報学部、健康医療科学部(2020年4月より看護学部から名称変更)の5学部13学科、大学院6専攻を設置する大学へと成長しました。さらにこれからのビジョンとしては、「県下工科系トップランナー」を目指すために、教育・研究・社会貢献の3つの柱を中心に戦略を立てており、教育分野では「学生本位主義」に基づき、考え行動する人材の育成、社会で活躍する人づくり、研究分野では「地域社会のニーズに対応する先進的研究の推進」、社会貢献分野では「地域との連携強化・貢献の重視」を目指しています。
このなかで特筆に値するのが“学生本位主義”という考え方です。これは私が学長に就任した際に宣言したもので、「学生を中心に考えて、学生の力を伸ばすこと。そのためのきめ細かな学習支援を行う」というもので、私はもちろん教職員すべての基本姿勢として実践しています。これにより「この大学で学べて良かった」と学生が思ってくれる、いわば「学生から感謝される大学」を目指してきました。そのために、教育開発センターという部署を開設しており、どんなカリキュラムを新たに取り入れていけば良いのかを検討する組織として機能させています。
2014年には、新教育体系というものを作成。学生主体の視点から「何を学生に教えたか」ではなく「何を学生が学べたか」を見つめ、「すべては学生のために」を実践した教育改革も実行しました。さらに、2017年には、ディプロマポリシー・カリキュラムポリシー・アドミッションポリシーの3つのポリシーを策定し公表しました。これにより今までの新教育体系は温存しつつ、3つのポリシーで骨組みを固めた“教育の質”の保証を行うことで、さらに充実した教育が実現しました。
基礎力・実践力・先進力を備えた人材の育成のために
私たちは現在、人生100年時代、少子高齢化、グローバル化など、大きな時代変化のなかにいます。そんな時代に大学はどんな役割を果たさなければならないかと考えたとき、それらの変化を牽引することが必要だと思います。特に近年は科学技術が進歩しているため、これをリードする人材が求められ、技術者や研究者の活躍が非常に大きなものとなっていると同時に、それを育成する大学の必要性が問われているからです。
そんな時代に対応する人材を育成するためのポイントは3つあると考えています。1つは、技術者・職業人として「基礎力」をしっかりもたせること。2つめは「実践力」のある人材です。基礎を学んだうえでいろんな課題を解決できる能力のことです。この分野では多くの学生が興味をもって門をたたきますが、それだけではなく“興味を真の実力へ”変えることが重要なのです。そして最後が、「先進力」です。あまり聞きなれない言葉ですが、先進的な技術を積極的に学ぶことです。時代とともに新しい技術がどんどん導入されています。これに果敢に挑戦していく力を身に付けてもらいたいのです。この3つを学んでもらうために本学では、充分な教育課程・教員の体制・設備環境を整えて養成しています。
そのために2019年には、教育専従講師の制度を新設しました。これは「基礎力」をしっかり学生に身につけるために設けたものです。従来教員は研究と教育を行うのが標準的でしたが、これに一石を投じ、研究はしないで教育のみに特化した専任の教員を確保することを実施したのです。内容としては、基礎の教育講師と専門の教育講師2種類に分かれています。基礎は数学・物理・化学・語学など、勉学の土台となる分野を教えています。一方専門は、全学科に配置されており、しっかりと学生が専門性に特化した分野を理解できるよう教育にあたっています。
また、「実践力」の面では、企業出身の先生が多いことが特徴です。本学の教員は、約30%が企業出身者なので、より実践的な講義が行われています。また、これにともない実施しているのが、産学連携教育です。各種企業とともに教育をやっていくことを主題にしています。例えば、企業から招聘した方に授業を行っていただくとか、学生に現場を体験させるためインターンシップにも力を入れています。さらに、特別客員教授として企業トップの著名な研究者にも、授業や卒業研究の指導をしてもらっています。企業と大学が近づいていくというか、「社会の風を大学に送り込む」というような役割を果たしていただいています。
さらに「先進力」の面ですが、本学では環境エネルギー・情報・健康生命などを中心に、15の研究所を設置し先進的な研究をしているのですが、それに学生が参加しているのです。これが研究所連携教育というものです。なかでも本学が強いのが、自動運転車、ロボット、IoTなどの方面で、世界的に素晴らしい先生方が揃っています。またそんな高い本学の研究力を結集して行われているのが、神奈川県と連携した先進高齢者支援システムです。文部科学省研究ブランディング事業に対して175校が申請したなかで、20大学が選択されたのですが、本学もそれに選ばれ、これに学生も参加し、先進的かつ実践的な勉強をしています。さらに、現在注目されているAIにも本学としては積極的に推進しており、今後は本学の得意分野として、新たな特徴になっていくと思います。
変革はチャンスの時、果敢にチャレンジすること
現在は時代が大きく変化している時期です。つまりチェンジの時ですね。この先どう変わるのか心配される方もいるでしょうが、しかしチェンジは恐れる話ではないのです。例えばAIが進むと仕事がなくなるのではという意見もあります。でも私は、それは違うと思うのです。
かつての産業革命で自動車が登場することで馬車や馬が無くなりましたが、現在は車を中心にした社会が形成されて、大きなイノベーションが起こっています。これと同じようにAIもチェンジはチャンスだと考え、その知識を正しく学び身に付けて研究しチャレンジすることが大事なのです。それにより新たなイノベーションが生まれるからです。この担い手になるべく、新たな要望に応えられる人材として本学の学生の活躍に期待しています。
【Profile】
小宮一三(こみや・かずみ)氏
1971年早稲田大学大学院修士課程修了(電気工学専攻)。同年4月電電公社(現 NTT)通信研究所入所。ファクシミリ、画像処理の研究実用化に携わる。1993年10月神奈川工科大学電気工学科(現 電気電子情報工学科)教授。2005年4月同大学副学長・情報学部長・情報ネットワーク工学科(現 情報ネットワーク・コミュニケーション学科)教授。2009年4月から現職。工学博士。