教えて!「それで大学入試はどうなる?」

 最後の大学入試センター試験が行われる直前の15日、文部科学省の「大学入試のあり方に関する検討会議」が初会合を開催しました。大学入学共通テストも含めた大学入試は今後どうなるのでしょうか。萩生田光一文部科学相が昨年に相次いで見送りを表明した英語民間試験の活用や記述式問題の出題が、共通テストで復活することはあるのでしょうか。

教えて!「それで大学入試はどうなる?」

 公開で行われた検討会議の初会合に関しては、報道の他、文部科学省のホームページ(HP)で配布資料はもとより議事録がさっそく公開されています。動向が気になる向きには、小まめにチェックするとよいでしょう(第2回会合は2月7日)。
 
 検討事項は、①英語4技能評価のあり方 ②記述式出題のあり方 ③経済的な状況や居住地域、障害の有無等にかかわらず、安心して試験を受けられる配慮 ④その他大学入試の望ましいあり方――となっています。 
 1年程度で議論の取りまとめを求めているのは、2025年度の新課程入試(24年度中の実施)に合わせるためです。各大学が22年度に「2年前ルール」で個別入試の教科・科目などを予告するには、その1年前である21年夏ごろに、国が制度改革に関する予告を各大学に通知する必要があるからです。

 高校にとっては、22年度入学生から新学習指導要領が全面実施となります。検討会議によって大学入試改革の方向性は決まっていることでしょうが、個別入試の動向が見えない中で、教育課程編成を行わなければなりません。21年度は、情報収集に追われる年になりそうです。

 しかも検討会議座長の三島良直・東京工業大学前学長は、「延期や見送りをせざるを得なくなった経緯の検証」(萩生田文科相)から議論を始める方針を表明しました。そう考えると「1年程度」の議論といっても、かなりタイトなスケジュールと言わざるを得ません。「原点からの再検討」(委員の末冨芳・日本大学教授)がどこまで行われるか、注目していく必要があるようです。

 ところで萩生田文科相は初会合の中で、会議の原則公開を求めながらも、経緯の検証に当たっては「どこかで1回、雰囲気の悪い会議を、クローズ(非公開)で」行うよう提案しました。この理由について萩生田文科相は17日の定例記者会見で、▽大学入試や関係団体に関わる機微な情報を話題とすることが必要となる ▽文科省や当時の委員への批判、他の委員への反論なども率直に行うことが有益だ――と説明しています。議論ではさっそくクローズの会合に期待する意見も出ましたが、委員の中には「フルオープンで行うと言っていたのに、矛盾している」と不満を持つ向きもあります。

 このように、タイトながらも現段階では入試改革がどうなるのか、依然として不透明だと言わざるを得ません。一方で萩生田文科相は初会合の冒頭あいさつで、大学入試で英語4技能評価を行うことや、論理的な思考力・表現力を評価する記述式問題の重要性を強調しています。

 ヒントとなるのは、「アドミッションポリシー(AP)に基づく個別試験との適切な役割分担」(オブザーバーの山本廣基・大学入試センター理事長)かもしれません。現行のセンター試験でも50万人規模の受験生がある共通試験での実施は難しくても、個別試験で積極的な対応を求める、という方向です。

 折しも中央教育審議会では、高校でも大学のように「三つのポリシー」を策定することが検討されています。まずは各高校のミッション(使命)はどのようなもので、そのために新指導要領の下でどのようなカリキュラムを組み、授業を展開するかを真剣に考えた上で、全面実施に臨むしかなさそうです。大学教育・高校教育・大学入学者選抜を一体で改革する「高大接続改革」のうち入試改革が揺らいでいる今こそ、高校教育改革に対する比重が高まったのだ、と積極的に受け止めることも必要ではないでしょうか。




<インタビュー・寄稿>の記事をもっとみる


【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/