教えて!「GIGAスクールで学びはどう変わる?」

 文部科学省が、2019年度補正予算に合わせて「GIGA(ギガ)スクール構想」を打ち出しました。国家プロジェクトとして高速大容量のネットワーク環境整備や学習者用端末の整備を一気に推進することで、Society5.0時代に子どもたちが先端技術等を活用できるよう「令和時代のスタンダードな学校像」を確立しようとするものです。高校の学びは、どう変わるのでしょうか。

教えて!「GIGAスクールで学びはどう変わる?」

 以前、さいたま市立大宮北高校を取材したことがあります。市教委のてこ入れでICT(情報通信技術)環境を整備し、理数科の生徒にはハイブリッド型タブレットを無償貸与してデジタル教科書や実験映像資料などを活用して授業を行っていました。もちろん、普通科も含めてICTを活用した授業が充実しています。リクルートの「スタディサプリ」も、全生徒が活用できます。 

 中でも田村守行教諭(化学)は、教科書すら持たず片手でスマートフォン(スマホ)を操作しながら大型電子黒板にプレゼンテーション資料を示し、テンポよく生徒とやりとりしながら授業を進めていました。プレゼン資料は音声を入れてYouTubeにアップしていますから、生徒の復習に役立つことはもとより、予習して授業ですぐアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)に入る「反転学習」も可能です。動画の再生回数は、生徒の学習履歴としても貴重だといいます。

 GIGAスクール構想は、こうした先進的な高校の授業を全国に広げようというものだと言っていいでしょう。内閣官房と総務・文部科学・経済産業3省の資料によると、目指すべき次世代の学校・教育現場として ①学びにおける時間・距離などの制約を取り払う~遠隔・オンライン教育の実施 ②個別に最適で効果的な学びや支援~個々の子どもの状況を客観的・継続的に把握・共有 ③プロジェクト型学習を通じて創造性を育む~文理分断の脱却とPBL(課題解決学習)によるSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育の実現 ④校務の効率化~学校における事務を迅速かつ便利、効率的に ⑤学びの知見の共有や生成~教師の経験値知と科学的視点のベストミックス(EBPM=証拠に基づく政策立案=の促進)――を掲げています。公立全高校における国費による無線LAN整備は2020年度中を目指しています。

 大学や研究機関が活用している情報通信ネットワークSINET(サイネット)も、高校以下の学校に開放。校内LANと併せて、1クラス全員が端末を使っても、離れた学校同士でもスムーズに授業が行えるようにします。さらに学習記録など教育関係のビッグデータを集積・分析し、新たな知見や教材開発などにも生かしたい考えです。
 
 ところでGIGAスクール構想をめぐっては「1人1台端末」が強調されますが、実は基本的に「義務教育段階」を想定したもので(国公私立問わず1台上限4万5000円の補助)、高校は対象外です。

 教育用コンピューターの整備状況には、都道府県別に見ても1台当たり1.8人から7.9人まで(全学校種平均、高校は0.8~11.0人)といった大きな地域間格差がついてしまった現実があります。3クラスに1クラス分の整備費などとして年間1805億円の地方交付税が措置されているにもかかわらず、各県が予算化しなければ何にもなりません。GIGAスクール構想をめぐっても、自治体側からは国のさらなる支援を求める声が挙がっています。

 何より新学習指導要領では、情報活用能力の育成を目指して授業での「普段使い」が求められています。ぜひ「エデュケーション・ファースト、テクノロジー・セカンド」(米ミネルバ大学のケン・ロス氏、2月3日の国立教育政策研究所シンポジウムでの発言)で構想を推進してほしいものです。

さいたま市立大宮北高校 スタディサプリ活用事例はこちら



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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/