教えて!「高校生も加わった大学入試改革論議」

 文部科学省の「大学入試のあり方に関する検討会議」第7回で、現役の高校生が参加して意見を述べました。入試改革初年度の当事者である3年生の声を聴くことは重要です。どのような意見があったのでしょうか。

教えて!「高校生も加わった大学入試改革論議」

 先月もお伝えした通り、検討会議は現在、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、ウェブ会議方式で会合を重ねています(YouTubeでライブ中継)。14日の第7回会合から外部有識者・団体からのヒアリングが始まり、大学教授や学長などの専門家に交じって、東京都立西高校の米本さくらさん(提出資料)と、山口県立岩国高校の幸田飛美花さん(提出資料)も意見を述べました。2人は、一般社団法人日本若者協議会から推薦された会員です。同協議会は2015年、若者の政治参画が進む欧州の例をモデルに設立され、与野党や政府に政策提言を行っています。

 米国に留学した経験もある米本さんは、大学入試に向けて筆記試験を重視していた学校の英語の授業が、4技能のバランスを重視するようになったと指摘。しかし「そもそも大学入試のために授業を構成することがあって良いのか」と疑問を投げ掛けました。

 米本さんの通う都立西高の校長である萩原聡委員(全国高等学校長協会会長)も、かねてから英語民間試験活用をきっかけに、高校の授業が4技能重視に変わっていった意義を強調していました。米本さんの発言は、高校側の授業改革メッセージを、生徒の側でもきちんと受け止めてくれていることを裏付けた格好です。

 さらに米本さんは、実際のスピーキングが発音やアクセント位置の把握だけでなく、コンテクスト(文脈)を読み取ることや、ある程度の文法知識を活用しながら話さなければならず、4技能を複合的に活用する練習の繰り返しから経験を積むことが何より大切だと強調しました。これも、英語教育改革のメッセージを正しく受け止めている証左と言えるでしょう。

 留学によって「母語でない言語をツールとしてコミュニケーションする際に何より重要なのは、発言をためらわず自分の意見を主張しようとする意志と積極性だと学んだ」という米本さんは「4技能すべてを共通テストで測ることには無理があるのではないか」との考えを示す一方、「入試はゴールではないのだから、試験内容のいかんにかかわらず学校では4技能すべてを教える必要がある」と指摘。「大学入試からトップダウンで教育を漸次的変えていくのではなく、そこまでの教育の内容の見直しと並行しながら入試改革をおこなうべきなのではないか」と訴えました。これも大人よりずっと、高大接続改革の意義をよく理解した発言でしょう。

 また米本さんは、米国の大学でよく課されるエッセーが、書く過程で、学問への意欲向上やキャリア意識形成がなされるとともに、大学のアドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針、AP)と生徒とのマッチングも高い精度で可能になることから、記述式問題は共通テストで採用すべきでないとの意見も述べました。

 一方、幸田さんも、民間試験の活用について「詳細なアナウンスが遅く、受験生は振り回された」と指摘。リスニングとスピーキングは共通テストの枠組みではなく各大学の個別試験で重視すべきだとした上で、「大学入試改革より前に、授業改革、教育そのものを改革する必要があるのではないか」と訴えました。

 共通テストをめぐっては、大きな入試改革の前には余裕をもって予告する「2年前ルール」があるにもかかわらず、実施が約1年前に迫った段階(英語民間試験は受検開始5カ月前)でひっくり返す、異例の事態となりました。

 入試改革の迷走のみならず、新型コロナウイルスをめぐる休校措置の度重なる延長など、場当たり的にも見えるような対応ばかりで、当事者である高校生には、不安のみならず不信感も高めてしまったのも事実でしょう。国でさえ信用ならない今、しっかりと物事を見つめようとする2人のような姿勢を大事にしたいものです。せめて今、これから将来のツケを負わせる子どもたちに、大人も解決できなかった課題を整理し、自分たちなりの解決策を見いだそうとするような能力を身に付けさせてあげることこそが、大人世代の責任ではないでしょうか。



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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/