学校法人三浦学園 有明教育芸術短期大学 学長 若林 彰氏
50年後のよりよい日本を創っていく
子どもたちを育てる保育者・教育者に
教育は未来を創る営み
小学校の教員であった私が言い続けてきた持論は、「教育は未来を創る営み」であるということです。今から50年後を考えたとき、その時代の日本を支えているであろうトップリーダーたちは、現在の保育園・幼稚園の園児や小学校の児童です。
ついつい保育者・教育者は、目の前のことについてどう指導するかに走ってしまいがちですが、実は、50年先のよりよい日本や社会を創っていくのはこの子どもたちであることを常に意識し、子どもたち一人ひとりがよい人生観をもって、よい社会を創っていこうという気持ちをもてるような人間に育てなければなりません。それを育てていくのが保育者・教育者なのです。
保育者・教育者は、未来を創るとても重要な役割を担っているというのが私の思いであり持論です。
保育・教育の指導者を養成する3年制
本学は0歳から12歳を対象とした保育・教育の指導者を養成する、保幼小一貫教育に対応した日本でも数少ない3年制の短期大学です。
この時期は知的な学びや人との関わりなど、さまざまな経験を通して大きく成長していく時期であり、人間としてこれから生きていくための基礎を培う、いわば子どもたちの人生の土台を創るとても大切な時期でもあります。いずれこの時期に指導者として関わっていく学生には、その重みを認識してもらうために教職実践演習などの多彩な授業を通してしっかりと伝えていきます。
本学の建学の精神は「教育と芸術の融合」です。前身をたどれば1903年にわが国初の私立音楽学校として創設された「音楽遊戯協会」であり、すでに117年の歴史を誇ります。もともとは音楽の専門学校ということもあり、本学ではその流れを汲み豊かな感性や表現力・想像力を磨き、大切にしていく教育者の育成を使命としています。
また3年制という特性も大きな魅力の一つです。通常の2年間での学びに加えて、さらに1年間で表現力や感性をじっくり磨くことができるように、例えばダンスやアートなどの素地を身に付けた保育者・教育者を養成するための授業を開講することが可能です。
建学の精神にもあるように、教育と芸術の結びつきは、これからの教育の礎になるものと考えています。ピアノやダンスが不得意だから、保育士や幼稚園教諭を諦めるしかない。そんな人こそ、本学のようなプラス1年間(3年制)の教育で目標を実現してほしいと考えます。
知識は知性を高めるグラウンド
学力向上とは何でしょうか。算数のテストの点が良くなったから、学力が向上したといえるのでしょうか。私は知性と教養を高めていくことが学力向上であり、算数の点数はいわゆる知識であると考えます。しかしこの知識がなければ、知性や教養を高めていくことはできません。つまり知識を得ることは絶対的に必要ですが、それは目的ではなく、知性や教養を高めるためのグラウンドをつくるということではないでしょうか。テストの点数が良ければそれでいいと、そこで終わるのでは意味がありません。学力以外の能力こそ、学力向上には重要なのです。
教員時代に保護者との面談で、ある児童について「人に優しいとてもよい子ども」であると評価すると、「いい子だけれども成績が伸びない」と保護者の方。しかし成績が伸びないのも合わせてその子どもの人間性であり、知性でもあります。成績の良し悪しだけで評価しない、そんな考え方のできる視野の広い指導者になってほしいと願います。
「あなたのためになりますか?」と叱ること
資格や免許状は授業を真面目に受けていれば取得できます。しかし、子どもに対する指導は簡単ではありません。「ちゃんと叱ることができるようになれば一人前」といわれるほど難しく、そこには積み上げてきた長い時間と多くの経験が必要です。
例えば、授業中に騒いでいる子どもがいます。その子どもに対して「みんなの迷惑になります」と注意をする。社会の秩序を乱しているという意味ではこの叱り方もわからなくはないのですが、教育の現場においては“排除する”行為となり最もやってはいけないことなのです。本学の学生にもよく話をしますが、一言でいえば「それはあなたのためになりますか?」と叱ること。これが、叱ることの基本となるのです。
私は特別授業で教員採用試験に受かった学生を対象に、子どもたちの叱り方・褒め方をテーマに授業を行います。学生になぜ先生になりたいのかを尋ねると、「子どもが好きだから」「憧れていた先生のようになりたいから」と、とてもピュアな気持ちをもっています。学生たちのその思いを大切にして多くのことを教え、本学で立派な保育者・教育者になるための基礎をしっかり身に付けてほしいと思います。
【Profile】
若林 彰(わかばやし・あきら)氏
東京都公立小学校教諭(1977年)、東京都教育庁指導部主任指導主事(2002年)、東京都青少年治安対策本部健全育成担当課長(2005年)、東京都多摩教育事務所指導課長(2008年)、公立小学校統括校長(2010年)、帝京大学教授(2013年)、帝京大学教職センター長(2018年)を経て現在に至る。
専門分野:特別活動、生徒指導・進路指導、学校経営、食育