日本映画大学 学長 天願大介氏

真剣に映画作りを学ぶ中で、
社会人として必要な能力も身に付けていきます


映画界だけでなく、広い分野で活躍可能
 映画を一本作る力があれば、何でもできます。
 映画関連に限らずどんな仕事でも、どんな世界でも通用すると思います。映画作りには、コントロールできないことが山ほどあります。映画作りは苦難の連続であり、それを乗り越えた経験は、生きていくうえで必ずや力になります。そして映画を完成させた喜びは、何事にも代え難いものがあります。その喜びは、必ずや人生の糧になります。
 本学は、映画作りを学ぶ大学です。そのため、出口(卒業後)は、映画関連だけと思われがちですが、必ずしもそうではありません。映像に関していえば、映画関連にとどまらずTV局やCM制作、マスコミの他、一般企業や地方自治体の広報、結婚式場やホテルなどさまざまな分野で不可欠になっています。映像が撮れて編集ができて、音の編集もこなせる人材は、こうした分野で重宝されるでしょう。文章系で学んだスキルは、出版関係や広告制作、編集の他、企画書を作成するあらゆる業種で活かされます。
 映画を学べる学校は専門学校にもありますが、四年制大学で学ぶことは、就職時の選択肢が広がるという大きなメリットもあります。例えば、四年制大学卒であればTV局の社員、制作会社の幹部候補、映画配給会社などへの道も開けます。
 もちろん、映画の現場で働きたい人にとっては、本学は最高の選択であることは言うまでもありません。本学で教える先生たちは、映画界などの現場で活躍しているプロばかりです。先生にとって学生は、自分の仕事の後輩になるかもしれない人材です。一緒に映画作りに携わる可能性のある人たちです。実際に卒業した教え子と、現場で一緒に働くケースもあります。だからこそ先生たちは、本気で情熱をもって指導しているのです。

入学後まずグループでドキュメンタリーを制作
  出口のことを先に説明しましたが、「どんな学生が来ているか」「どんな人に来てほしい」「最初に何を学ぶ」といった入口について触れてみましょう。
 本学で学ぶ学生は、「映画が好き」という共通項はあります。でも好きの程度は、さまざまです。映画が大好きで高校時代も映画作りを趣味にしていたような学生から、観るのは大好きだけど作ったことのない人、映画が好きだけど家で楽しむ派…などなど。「映画を観るのが好きで、ちょっと作ってみたい」というレベルで本学を志望する人も多くいます。進路をはっきり決めている高校生は、そもそもそんなに多くいないでしょう。ボンヤリした将来像でかまいません。入学して学ぶうちに、具体的に見えてくるものがあるはずです。
 本学の学生は、やはり芸術系の大学なので、個性的な人は多いと思います。高校まで「変わり者」だと思われてきたけど、ここでは普通の人というケースもあります。「俺ってそんなに変わり者じゃないんだ」と逆に落ち込む人もいたり(笑)。映画作りはチームプレーなので、ワガママ過ぎるのは問題ですが、いわゆる同調圧力的な要求はされない雰囲気です。周囲の目を気にしたり、空気を読んでビクビクするような意識からは解放されるでしょう。
 入学後、全員が必ず受ける必修科目に「人間総合研究」があります。これは本学の学びの入口に設けた、最も特徴的な実践授業です。グループごとに分かれて、「人間」を題材にしたドキュメンタリーを制作します。魅力的な「人」を探し、その人について掘り下げていくのですが、動画は使いません。写真とナレーション、インタビュー音声、音楽などの音声素材だけで30分の作品を制作し、発表します。まず全員が企画を考え、プレゼンテーションを行います。投票により企画が決まり、自分の企画が採用されなくても、選ばれた企画に全力を注ぎ、調査、取材、編集すべてをグループで行っていきます。
 この授業は、自分の外側の世界に興味をもち、外側を取材したり考えたり調査したりして、自分の世界を広げるという目的があります。映画とは、この世の森羅万象、あらゆることが素材になります。嫌なこと、辛いことに直面することもありますが、それを含めてこの現実世界であることを知ってほしいのです。
 取材先を一軒一軒訪ね、菓子折りを持って頭を下げて、「ここで撮影をさせてください」とお願いをする。警察に行って、道路使用許可書を取る。すべて学生がやります。なかには声をかけた人から怒られて帰ってくる学生もいます。そういう経験を積み、外側の世界との接し方も身に付ける。映画を学ぶうえで、第一歩となる実践授業なのです。

アフターコロナの世界をリードできる人材を育成
 今、どんな分野でも国際化が進展しています。映画業界でも同じです。本学では、多くの留学生を受け入れており、学生の約1/3は留学生です。ですから必然的に外国人と一緒にチームを組み、協働して映画作りを行う機会が多くなります。人間の多様性に触れられる、非常にいい環境だと思います。
 留学生のみならず、各国の国立芸術大学とも提携を組み、合同制作なども行っています。例えば、韓国国立芸術綜合学校とは2013年から合同制作を行い、毎年交互に監督・脚本を交換しながら短編映画を制作しています。
 インターネットの普及も、映画の世界で見逃せない潮流になっています。特にネット配信などで、家で映画を楽しむ傾向が増えています。
 新型コロナウイルスの影響で、人々の足は映画館から遠のき、映画制作現場も三密は避けられないため、厳しい現状といえるでしょう。
 しかし、「STAY HOME」とネット配信の進展の影響で、人々が映画に触れる機会は確実に増えています。図らずも、今まで映画に興味がなかった人が映画の魅力に目覚める土壌が生まれたわけです。またYouTubeなどの動画配信サービスの普及により、個人が映像を撮影して編集し、それを発信することが身近になり、映像制作や編集の仕事に興味をもつ人も増えています。
 高校を卒業して本学に入り、卒業を迎える4年後を考えてみると、コロナは終息し映画界は活気を取り戻していることでしょう。映画や映像に関する需要が増えるアフターコロナの世界で、リーダーとして活躍できる人材育成が本学の使命であると感じています。
 冒頭で、「映画を一本作る力があれば、何でもできます」とお伝えしました。本学で学べば、それを実感できるでしょう。経済産業省では、「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」を社会人基礎能力として打ち出しています。これらはすべて、映画作りを通じて身に付けられる能力です。映画作りを学び、社会人として必要な力を養っていただきたいと思います。


北村公一氏

【Profile】

天願大介(てんがん・だいすけ)氏

映画監督・脚本家/1990年、『妹と油揚』で注目され、1991年『アジアンビート(日本編)アイ・ラブ・ニッポン』で長編監督デビュー。『十三人の刺客』(2010)の脚本で第13回菊島隆三賞受賞、第21回、22回、34回日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞。劇作家、舞台演出家としても活躍中。近年では『陰獣 INTO THE DARKNESS』(2019)、『名探偵ドイル君 幽鬼屋敷の惨劇』(2019)、『少女仮面』(2020)の演出を手がけた。2017年4月、日本映画大学の学長に就任。

【日本映画大学の情報(スタディサプリ進路)】

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