教えて!「見えてきた? 新しい時代の高校教育」

 昨年4月の諮問を受けた中央教育審議会の「新しい時代の初等中等教育の在り方」審議が、一つのヤマを迎えました。17日の初等中等教育特別部会では、高等学校教育ワーキンググループ(WG)など関係部会等からの報告を受けました。今後、9月末の中間まとめを経て、年度内の答申を目指します。高校に関しては、一部で報道のあった普通科の「学科再編」も気になるところです。新しい時代の高校教育は、どうなるのでしょうか。

教えて!「見えてきた?新しい時代の高校教育」

 普通科改革に関しては、あたかも新設の「学際融合学科」と「地域課題学科」を含めた3学科に再編されるかのように捉えられている向きもあるようです。しかし、専門学科や総合学科を含めた、高校全体の改革方針を見失ってはいけません。設置者による「スクール・ミッション」の再定義と、それに基づく三つの「スクール・ポリシー」(①グラデュエーション・ポリシー=卒業の認定に関する方針 ②カリキュラム・ポリシー=教育課程の編成および実施に関する方針 ③入学者の受け入れに関する方針=アドミッション・ポリシー)の策定・公表です。

 これまでの高校、とりわけ普通科は、偏差値などの学力輪切りで入学してくる生徒と、卒業後の進路などの実態や、保護者や地域の「期待」を基に、教育活動や学校運営が行われてきた面が否めません。多様な生徒の学習意欲を喚起し、一人一人の能力を最大限に伸ばして、20年後・30年後の社会をけん引する人材となってもらうには、「生徒が主語になるような学校」(特別部会長で高校WG主査の荒瀬克己・関西国際大学学長補佐)にしなければならないという問題意識が、中教審や文部科学省にあります。

 どの学校でも、校訓や学校教育目標を定めていますが、それが本当に一つ一つの教育活動、とりわけ授業に反映されているのか――。問われているのは、まさにカリキュラム・マネジメント(カリマネ)です。そのための手法が、スクール・ミッションの再定義であり、三つのポリシーの策定です。「3ポリ改革」は、大学教育改革の手法でもあることをご存じの先生が少なくないことでしょう。同じことが、高校にも求められるのです。

 そこでは「校訓も、どう教育課程に落とし込まれるかが大事」(荒瀬主査)です。そうなれば、単一だった普通科も、例えば▽サイエンスやテクノロジーの分野等において飛躍知を発見するイノベーターとしての素養の育成 ▽スポーツや文化芸術の分野で活躍するために必要となる素養の育成 ▽多様なニーズに対応した教育機会の提供による一人一人の能力・可能性の伸長――など、自然と多様化するはずだ、という発想があることを見逃してはいけません。

  その上で「普通教育を主とする学科」として、普通科以外に、例えば①持続可能な開発目標(SDGs)やSociety5.0における現代的な諸課題への対応を図るために、学際科学的な学びに重点的に取り組む学科 ②地域や社会の将来を担う人材の育成を図るために、地域社会が抱える課題の解決に向けた学びに重点的に取り組む学科――を設置できるようにしたらどうか、という提案なのです。特に①は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)やスーパーグローバルハイスクール(SGH)の成果を踏まえ、文系・理系の類型にとらわれないことを求めています。また②は、通学可能な範囲に1校しかないような地域にも高校を残し、地方創生の核になってもらうことも期待しています。さらに、一つの学校内で教育を完結させる「自前主義」から脱却し、地域や高等教育機関、あるいは他の高校と協働することも提案しています。コロナ禍で導入が迫られた遠隔・オンライン教育が、新しい時代にも効力を発揮することでしょう。

 とはいえ新学科の例示は、国が普通科に「類型の枠組み」を示すよう求めた教育再生実行会議第11次提言(2019年5月)に配慮した側面もあるようです。初中教育改革全体に言えることですが、あくまで児童生徒主体、学校教育主体の改革論議となるよう、注視していく必要があります。




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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/