教えて!「『個別最適』で『協働的』な学びって?」

 中央教育審議会の初等中等教育分科会が10月7日、中間まとめを公表しました。注目されるのが、そのタイトルです。「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」。新学習指導要領の全面実施を控えて「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング=AL)に頑張っていこうという時に、またも新しい「学び」を学校現場に求めようというのでしょうか…?

教えて!「『個別最適』で『協働的』な学びって?」

 「個別最適」という言葉は、「もちろん知ってるよ」という先生と、「そんなの聞いたことがない」という先生に分かれるのが現状かもしれません。実際、中間まとめ案を検討した9月28日の初中分科会では複数の委員から、このタイトルでは現場が不安に思うのではないかなどの懸念が出されました。

 実は、2018年から教育界で急浮上してきた言葉です。Society5.0(超スマート社会)への対応に政府全体で取り組む中、どのような人材を育てていけばいいかを文部科学相の下、省内で検討しました。その結果、同年6月の「Society 5.0 に向けた人材育成~ 社会が変わる、学びが変わる ~」で出てきたのが「公正に個別最適化された学び」でした。急速に発展する人工知能(AI)に仕事を奪われるのではなく、AIを使いこなせるような人材を育てなければいけない――という問題意識からです。その上で学校は、すべての子どもたちに基盤的な学力の確実な定着と、他者と協働しつつ自ら考え抜く自立した学びを実現できるよう、スタディー・ログ(学習履歴)を学びのポートフォリオとして蓄積・活用し、指導と評価の一体化を図る「公正に個別最適化された学び」を実現する多様な学習機会と場の提供を図ることが必要だ、としていました。

 ただ、この時から今に至るまで「分かりにくい」という指摘が絶えないのも事実です。そこで中教審では有識者や委員のヒアリングを重ねながら、言葉を練ってきました。折しも新型コロナウイルス感染症の拡大防止で最長3カ月間の休校が続き、オンライン授業の必要性が高まる一方、対面授業の重要性も再認識されていたところです。曲折を経て落ち着いたのが「すべての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学び」だったのです。

 中間まとめでは、「個に応じた指導」(指導の個別化、学習の個性化)を学習者(児童生徒)の視点で整理したものが「個別最適な学び」だ、と説明しています。一方、高校にとって「協働」は、高大接続改革で学力の3要素の「主体的に学習に取り組む態度」を言い換えた「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」として、なじみがあることでしょう。「個別最適な学び」と「協働的な学び」を往還させる中で、必要な資質・能力を育てていこう、というわけです。

 「個別最適化」をめぐっては「AIドリルを使えば、理解の早い子はどんどん進み、そうでない子も繰り返し学べることで『最適化』できる。そうなれば授業時数も、教科の枠も、学年すらも柔軟化できる。浮いた時数はSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育に回せばよい」といった、通常の教育現場からすると極端な議論が先行していました。

 高校ワーキンググループの10月6日の「審議まとめ素案」では、個別最適な学びについて、「高等学校においては、個々の授業における生徒の特性や学習進度、学習到達度等を踏まえた『指導の個別化』という側面のみならず、生徒の興味・関心に応じた科目選択や探究学習の際の課題設定等を通じた『学習の個性化』」の面があると指摘し、さらに「学校ならではの協働的な学び合いや、地域の方々をはじめ多様な他者と協働して主体的に実社会に関わる課題を解決しようとする探究的な学び、様々な体験活動などを通じ、持続可能な社会の創り手として必要な資質・能力を育成する『協働的な学び』に取り組むことも重要である」としています。現場の先生方が取り組まれ、今後も進めようとしている「主体的・対話的で深い学び」にまさに通ずるものととらえていただくのがよいのではないでしょうか。高校現場が新しい「学び」がさらに下りてきたと浮足立つ必要はまったくないのです。



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