教えて!「『教育再生実行会議』はどうなっている?」
菅義偉内閣が発足して、2カ月が過ぎました。安倍晋三内閣を継承した菅内閣では「教育再生実行会議」も継続しているということですが、現在はどうなっているのでしょう。位置付けも変わらないのでしょうか。
まず教育再生実行会議について、おさらいしておきましょう。2012年12月に発足した第2次安倍内閣は、第1次内閣(2006年9月~07年9月)で「教育再生会議」をてこに教育改革を進めようとして十分に果たせなかった反省を踏まえ、教育再生を「実行」するための手立てとして13年1月、閣議決定により、実行会議を設置しました。教育再生会議との違いとして、①文部科学相が教育再生担当相を兼ねていること ②内閣官房教育再生実行会議担当室が文部科学省庁舎内に設けられたこと(教育再生会議の担当室は賃貸オフィスを使用)――が挙げられます。
政権交代前から、自民党には「教育再生実行本部」が設けられていました。当初は、▽党「本部」が大胆な改革(高めのボール)を提言する ▽それも踏まえ、「会議」が政府として大方針を示す ▽政府の大方針を受けて、中央教育審議会が具体化を検討し、文部科学相に答申する――という役割分担がありました。
実際、いじめ対策や教育委員会制度改革など、次々と提言し法改正につなげる教育再生「実行」のスタートダッシュは目覚ましいものでした。ただし、高大接続改革を検討した第4次提言(10月31日)のあたりから、明らかにペースダウン。その後も提言がすぐには実行されなかったり、既に中教審で固まっていた方針を追認したりするなど、明らかに機能が低下しました。それでも19年5月までに第11次を数える提言をまとめたものの(第11次提言は現在中教審で審議まとめが進む「技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について」、それから1年以上は休眠状態が続きました。
息を吹き返したのは、今年に入って新型コロナウイルス感染症が拡大し、最長3カ月に及んだ臨時休校による学習の遅れを取り戻す策として「秋入学」が急浮上してからでした。20年度からの導入が見送られる一方、7月に再開した実行会議で「ポストコロナ期における新たな学びの在り方」の一環として検討することになったのです。
8月には「初等中等教育」「高等教育」の二つのワーキンググループ(WG)が設けられています。さらに、デジタル化の推進を掲げる菅内閣に代わってからは、10月に学習履歴(スタディ・ログ)等の利活用などを検討する「デジタル化タスクフォース(特別作業班、TF)」が新設され、両WGの議論に役立てることにしています。現在初等中等教育WGでは「ICTの本格的導入を含めニューノーマルにおける新たな学びはどうあるべきか」などの検討が進められています。
ただ、ポストコロナの教育については、中教審でも年明けの答申化に向けた検討が着々と進んでいます。実行会議は21年5月をめどに提言をまとめるとしていましたから、中教審に大方針を示すという形にはなりそうもありません。
もう一つの大きな変化は、自民党政務調査会長の下村博文・元文科相兼教育再生担当相が、自身の在任中は党「本部」を廃止し、政調や文部科学部会で引き取ることにした点です。
このように、党「本部」―政府「実行会議」―文科省「中教審」の力関係にも、変化が見られます。今後の教育政策がどう議論され決定していくのか、ウォッチしていく必要があるでしょう。いずれにしても、学校現場の実態を踏まえ、かつ予算の裏付けなども伴う、「実行」可能な改革提言を期待したいものです。
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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/