教えて!「センター試験から共通テストへ」

 初めての実施となる「大学入学共通テスト」の第1日程(1月16・17日)が、3週間余りに迫っています。今回はコロナ禍に配慮して第2日程(同30・31日)が設けられたものの、全志願者の99.9%が第1日程に集中していることから、ほとんどの高校では、大学入試センター試験の時と同じような指導体制で臨んでいることでしょう。共通テストは、センター試験と何が変わらず、何が進化するのでしょうか。

教えて!「センター試験から共通テストへ」

 まず、センター試験や共通テストのような「大規模共通試験」は、どういう機能を持っているのでしょうか。そのことを浮き彫りにするシンポジウムを、大学入試センターが11月に実施しました。題して「センター試験をふり返る」。改めてセンター試験の意義を総括し、共通テストに引き継ごうというわけです。

 前大学入試センター試験・研究統括官の大塚雄作・国際医療福祉大学大学院特任教授がまとめた通り、センター試験は①高校段階の基礎的な学習の達成の程度を判定する ②大学教育を受けるにふさわしい能力・意欲・適性等を多面的に評価・判定することに資する ③大学と高校の教育の振興に資する――を目的にしてきました。ただし、事はそう簡単ではありません。元試験・研究統括官の荒井克弘・センター客員教授によると、高校教育と大学教育の接続は「積み上げ方式」ではないからです。

 明治に近代学校制度が導入された際、まず大学と小学校から、整備が始まりました。戦後に新制高校ができても、初等中等教育と高等教育のベクトルが異なるという基本構造は変わりません。

 そのため、共通試験の作問には、高校教育を大学教育向けに「変換」する作業が必要だったといいます。実際、センター試験では400人を超える大学教員(1年で半数が交代)が2年間にわたり、高校の学習指導要領や教科書を徹底的に読み込んで問題を作成し、作問経験者からチェックを受けます。そうした丁寧な作業により、出題後の外部評価でも、高校関係者から「良問」だと評価されてきました。

 センター試験の受験者約53万人のうち、センター試験の結果を使って大学に出願しなかった者が約10万人と、5人に1人近くを占めています。そこには、志望大学の水準に達しなかっただけでなく、最初からセンター試験を活用するつもりがなかった「目的外利用」も含まれているといいます。

 その事情を、指定討論でコメントした静岡県の高校教諭が打ち明けました。同県では、学年でどれだけの生徒がセンター試験を5教科7科目で受けたかを示す「5-7形成率」が、指導力の高さの指標になっているといいます。同県でなくても、すでに推薦などで合格し進学が内定している生徒も含めて全員にセンター試験を受験するよう指導している進学校は、少なくないことでしょう。

 ここで、立ち止まって考えてみましょう。荒井客員教授は同県のようなセンター試験の「教育利用」に理解を示しましたが、センター試験を「神聖視」(同教諭)するあまり、3年生の授業で「演習」に名を借りたセンター試験対策が横行しすぎてはいなかったでしょうか。

 高大接続改革では、高校教育と大学教育を接続するものは、主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)も含めた「学力の3要素」だ、という考えを取っています。共通テストは、そのために構想されました。共通テストでは、高校での「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し、授業で生徒が学習する場面や、社会生活・日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面、資料やデータ等を基に考察する場面など、学習の過程を意識した問題の場面設定を重視して、問題を作成するとしています。個別大学では、3要素すべてを評価して、自分の大学のアドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針、AP)にふさわしい入学者を選抜する、というのが、大学入試改革の肝です。

 共通テストをめぐっては、2018年度までのプレテスト問題から「センター試験とあまり変わらない」という見方も根強いようです。しかし共通テストは、上記のような問題作成方針のもと、学力の3要素のうち思考力・判断力・表現力等を重視して評価する、というのが制度設計の考え方です。難化が予想されるため、センター試験の6割に比して目標平均点も5割に下げています。

 高大接続改革は、あくまでイコール大学入試改革ではなく、高校教育、大学教育を含めた「三位一体改革」です。高校教育改革の到達点である新学習指導要領の全面実施が2022年度に迫る中、高校現場の受験指導にも、従来のセンター対策とは異なる改革が求められているのではないでしょうか。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/