教えて!「これから中教審は何を話し合う?」

 12日、第11期中央教育審議会(任期2年)が発足し、萩生田光一文部科学相から①「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について ②第3次学校安全の推進に関する計画の策定について―の、二つの諮問を受けました。中教審は今後、何を議論するのでしょうか。

教えて!「これから中教審は何を話し合う?」

 まず①ですが、諮問のタイトルにもあるように、1月の第10期最後の総会で答申された「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」で残された課題を引き継ぐことが、諮問の大きな動機です。

 知・徳・体を一体で育む日本型教育は、「教師の献身的な努力」(答申)に支えられてきましたが、個別最適で協働的な学びという「令和」版の実現のためには、高い資質・能力を身に付けた教師を確保し、生き生きと活躍できる環境を整備するかどうかにかかっている――と、諮問理由では説明しています。

 実際、「教師を取り巻く環境は厳しい状況」であることは、学校現場にとって、指摘されるまでもないでしょう。諮問理由でも、▽いまだ残る教師の長時間勤務の実態 ▽学校へ配置する教師の数に一時的な欠員が生じるいわゆる教師不足の一部の学校における発生 ▽採用倍率の低下――を挙げています。

 ただ、なぜ今ごろか……という気がしないでもありません。これまで、何かと教育課題が浮上すると「教員養成段階から教えなければならない」と言われ続け、大学の教職課程は既に、学生がアルバイトをするにも大変なほど、授業が過密化しています。

 そもそも第10期中教審は、第9期の「学校の働き方改革」答申(2017年12月)を受け、事実上その延長戦として、初等中等教育の全般にわたりメスを入れようとしたはずです。もっとも、教職員定数の改善は、中学校で持ち時間数に余裕がある地区の教員を、小学校高学年の教科担任に充てようと提言するにとどめました。

 答申前、公立小学校の全学年で35人学級が実現することになりましたが、GIGAスクール構想と同様、中教審の論議とは全然関係なく、コロナ禍という状況があったからこそ実現したものです。しかも、小学校より勤務実態が厳しいはずの中学校は、置いてきぼりです。ましてや地方交付税措置である高校の定数改善は、話題にもなっていません。

 文科省事務局は、この日の総会で、次の教員勤務実態調査を22年度に実施することを明らかにしました。その間に、さらなる負荷が掛かるような議論を積み重ねて大丈夫か……と心配するのは、杞憂でしょうか。

 そんな中で期待できるのは、教員免許更新制の「抜本的な見直し」です。これについて諮問理由では、先行して結論を出すよう求めています。多忙化の中で負担感が増しているだけでなく、定年前の教員が更新しないと再任用ができないなど、臨時的任用教員などの人材確保に、実際上の支障が出ているからです。

 一方、諮問事項の②に関しては、5年を期間とする第2次学校安全推進計画が、21年度までの期限を迎えているからです。東日本大震災の教訓を踏まえて12年度に初めて策定された同計画が、震災10年の今年に見直し時期を迎えたのは、極めて意義深いことです。この10年間、各地で自然災害が頻発し、さらに新型コロナが加わって、まさに「喫緊の課題」(諮問理由)です。

 ただ、最近の安全教育も、目先の対策に追われ、「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通じて,児童生徒等がいかなる状況下でも自らの命を守り抜き,安全で安心な生活や社会を実現するために主体的に行動する態度を育成することが求められます」と諮問理由にあるとおり、現場に任されてきただけじゃないか……と評したら、厳しすぎでしょうか。

 両諮問事項とも、今度こそ実効性ある議論が進むよう、今後の中教審に期待したいものです。



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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/