教えて!「教員は人気職種になれるか!?」

 先生方にSNSで教職の魅力を伝えてもらおうとしたのに、学校現場の悲惨な実態を訴える声で炎上してしまった、文部科学省の「#教師のバトン」プロジェクト。萩生田光一文部科学相も開始4日後の3月30日に、記者会見で「改めて先生方が置かれている厳しい勤務環境を社会一般に明らかにしていただいた。ますます学校における働き方改革を進めていかなければならない」と述べています。中央教育審議会では今後、養成・採用・研修改革の本格的な議論が始まります。近年の教員採用試験の倍率低下で質の低下が懸念される中、教職は本当に人気職種としての地位を取り戻せるのでしょうか。

教えて!「教員は人気職種になれるか!?」

 まず、「#教師のバトン」の経緯を振り返っておきましょう。文科省も決して、現場の厳しい状況を認識していなかったわけではありません。プロジェクトを始めた趣旨を説明した公式noteでも、教師の長時間勤務や教師不足の発生、採用倍率低下に危機感を示しています。

 一方で、教職を目指す現役や、断念した学生・卒業生と意見交換したところ、▽魅力ややりがいは分かっているが、報道されているような長時間勤務に耐えられるか不安 ▽実習先で見た教師たちが教える以外の業務対応で忙殺されていて、自信をなくした――といった「生の声」を聞き、「一部の報道や、実習先など一部の学校の印象で教職を諦めるのはあまりにももったいない」と考え、全国の学校で進みつつある働き方改革や、新しい教育実践例、外部人材の活用事例など、日常のエピソードを、ツイッターやnoteでシェアしてもらおうと考えた、と説明しています。

 改革は道半ばだけれども進行中なのだから、魅力アピールの方もしっかりやりたい……と考えたというのも、分からないではありません。これまで中教審などで、倍率低下を懸念する委員から再三、「魅力アピールをしっかりやらなければならない」との指摘を受けていたのも確かです。しかしながら、過酷な勤務実態を差し置いて、現場教師に魅力をアピールしてくださいというのは、いかにもお役所的な発想と対応だったと非難されてしまうところとなりました。

 今回の一件で、実効性のある養成・採用・研修改革を進めなければならなくなった文科省の責任は、ますます重くなったと言えるでしょう。しかし、事はそう簡単ではありません。

 前回も指摘した通り、これまで何かと教育問題が浮上すると、養成段階のカリキュラムを強化することを繰り返してきました。それでも教職課程の学生は、「教職実践演習」などでアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び、AL)やICT(情報通信技術)機器の活用も含め、教壇に立つ準備を一生懸命してきたのに、実際の学校現場が教壇以外の業務に追われているというのでは、自信を無くしても仕方がありません。おまけに、倍率が下がっているとはいえ、受験しても採用されずに数年間は教職浪人となる可能性も捨て切れません。臨時採用の口は幾らでもあるけれど、正規採用と同じように働かされるのに、身分は安定しない……。「ブラック職場と言うな」という人もあるかもしれませんが、ベテラン層が採用されたころに比べれば、明らかにブラック化していると言わざるを得ません。

 かつて中教審などでは、1年間の変形労働時間制の導入が進めば「夏休み」が取れて教職の魅力アピールになる、という意見もありました。これもベテランなら、夏休み期間中に勤務の大幅な裁量が認められ、自主研修に思う存分打ち込めた時代を、かろうじて覚えていることでしょう。

 肝心なのは、教職の創造的な魅力を取り戻すための制度改革と、それに必要な条件整備でしょう。特に、総会直属で新設される「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会」の委員に任命される人たちには、幅広い視野と、総合的な観点で、有効な方策を探っていってほしいものです。



<インタビュー・寄稿>の記事をもっとみる

【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/