“広がる対話”“深まる対話”高校実践事例 Case1 浦和高校(埼玉・県立)

CASE 1 【授業】

問いを促す仕掛けが
生徒の思考を駆動させる
教え合い・学び合いの授業

浦和高校 (埼玉・県立)

知・徳・体を備えた
真のリーダーを育成する
文武両道を意味する「尚文昌武」をはじめ、勉強・行事・部活動の「少なくとも三兎を追え」、「無理難題に挑戦」など、硬派な理念を掲げる浦和高校。グローバルな社会における真のリーダーの育成を〝本気〞で目指している。

真のリーダーたるには、単に成績が良いだけではいけない。リーダーシップやコミュニケーション力、物事の真理を追究する深い洞察力も必要だ。そこで同校では、文部科学省が新しい学習指導要領に明記するかなり前から、「主体的・対話的で深い学び」を追求してきた。総合的な探究の時間のほか、すべての教科で、生徒の主体的な学びに取り組み、積極的に対話を取り入れている。

同校で行う対話の取組について、大山貞雄教頭ならびに、数学、英語、公民の先生がたにお話を聞いた。

予習した課題について
グループで対話し深く理解する
齋藤教雄先生が行う数学の授業では、生徒に数題の問題を予習させ、授業では各グループに分かれ、グループの代表が、黒板に解法を書いて解説を行う。予習の課題を出す際には、生徒が考えを深めるための仕掛けとして「予習の着眼点」プリントを配付する。そこには、問題の図やグラフをどう見るか、過去のどの定理を使えるかなど、さまざまな角度から解き方の手がかりが書かれている。生徒はそのプリントを見て自問自答し、考えを深めながら解法を求めていく。

「答えは一つでも解き方は複数ある。知っている公式をあてはめて解けばいい、ではなく、答えから逆算して、多面的に解き方を考えられるようになってほしい」というのが狙い。

授業中は、代表生徒の解説に対し、ほかの生徒は「なぜそう解くのか」「自分は別の方法で解いた」「ほかの方法でも解けるのでは?」など質問や発言をし、対話をしながら思考を深めていく。先生は、「どこでつまずいた?」「この考えがなぜだめか、説明できる?」「同じ疑問をもった人は?」など要所要所で問いを投げかけていく。

なぜこのような授業をスタートしたのか。「本校にくる生徒は、公式を覚え、大量のドリル演習をこなし、試験で同じパターンの問題が出れば解けるという成功体験を繰り返してきました。しかし、公式を知っているだけでは真の力にはなりません」

数年前は、授業中に先生が発問し、3分間協議させ、その後、できた生徒を指名して考えを発表させていたが、それではほかの生徒は「誰かできる人が答えてくれる」と思い、自分ごとにならない。そこで、着眼点に対して生徒同士の「学び合い」で解決したり、生徒を主体にし、グループごとに発表して議論し合ったりする今の形にした。

対話型の授業を行うことによって何が変わったのか。「先生が一方的に教える授業は、生徒が50分間ずっと集中できているわけではなく、ぼんやり考え事などをして、最後に板書をメモして終わることも。しかし、生徒主体で話し合い考えを深める授業なら、分間フルに頭を使わなければなりません。発表し、対話をすることで、そういう考え方もあるのかと気づいたり、自分の弱点に気づくこともある。それが次の学びのモチベーションになる」

対話の時間は、主導権は生徒にあり、先生は見守るだけ。しかし、事前準備には時間をかける。「生徒の対話が生まれやすい問いをどう作るかが、一番頭を悩ませるところですね」

英語では、長文とそれに対する設問がプリントされた予習用ワークシートを配付。授業では予習した内容について、なぜそう思うかグループで対話を行う。「予習では、なるべく意見が分かれる設問を出します。英語力の差はありますが、教え合い学び合うことで、英語が苦手な生徒は理解が深まり、得意な生徒も教えることによって知識が確かなものになります。また、自分の足りないところに気づいたり、自分とは異なる考え方を知ることが生徒の学びにつながっている」と、英語科の塩原壮先生。

1つの課題に3時間かけるとしたら、そのうち1時間は対話の時間にあてる。対話を取り入れることで授業の進度が落ちるのではと思うが、「グループで発言しなければならないので、生徒は真剣に予習せざるを得ません。長文もしっかり読み込んでくるので、教員が冒頭から順番に解説するよりも授業はむしろ速く進みます。ただ、知識として教えなければならない内容もあるので、時間配分は常に考えますね」

公民の髙橋律夫先生の授業では、授業にディベートを取り入れているが、対話的な効果も生まれている。
「自分の意見と違うからと相手を拒絶するのではなく、相手の主張を聞いて受け止めることができるようになっています。自分と意見は違うけれど、根拠がしっかりしている、論理に破綻がないなど、客観的に、相手の主張を評価できる力もついています。物事を多面的に見る柔軟な思考力が育っていると感じます」

(左)グループの代表が解法を解説する。(右)グループで疑問点や別解などについて話し合い理解を深める。

  

積極的な対話が学びを深め表現力、リーダーシップも育成
対話型の授業は、先生から正解を聞くのではなく、まずは自分たちでなぜそうなるかを話し合う。その過程で人の意見が聞け、自分の弱点にも気づける。結果的に、一人で学ぶよりも多くのことを得られる。そして何より、みんなと学ぶことが楽しい。

 実際、生徒たちからよく聞いたのは「話し合うことで理解が深まった」「話し合いの時間の方が断然面白い」という声だ。先生方も、「対話の時間は、生徒の食いつきがいい」と口を揃える。そのような授業ができるのは、男子校ならではの団結力や、もともと学び合い教え合いの風土があることに加え「先生方の対話に対する意識や授業での工夫も大きい」と大山教頭。「対話力は、リーダーの資質を育てるためにも不可欠であり、思考力や表現力を問う、新しい大学入試にも合致している。今後も進めていきたい」と意欲を燃やす。

対話型の授業を成立させるためには先生にも負担はかかる。しかし、それを補って余りある効果があるようだ。

右から、大山貞雄教頭(4月から、国立研究開発法人科学技術振興機構)、齋藤教雄先生(数学)、塩原 壮先生(英語)、髙橋律夫先生(公民)

生徒インタビュー

物事を多面的に見られるようになった

先生が一方的に教える授業よりも、今のように、みんなで話し合う授業の方が断然いいです。自分ひとりで考えていては気づけない論理の矛盾を友達から指摘されたり、「こういう考え方もあ る」と言われて驚かされたり、より考えが深まります。また、いろいろな人の意見を聞き、物事を多面的に考えられるようになりました。私は直感的に問題を解くタイプなので、改めて「なぜそうなる の?」と聞かれて答えることで、考えを言葉にする訓練にもなりました。(2年生・ちょう こうきさん)

公式に頼るのではなく本質を理解するように

中学校では、公式を覚えてなんとなく問題を解 いていました。でも高校に入ると、なぜそうなるか意味を理解していないと解けない問題が出 てきて、自分は本質を理解していなかったと気づきました。高1のときは苦しみましたが、授業 中の対話を通して定義さえわかっていれば、飛躍的に速く簡単に解けることを教えられまし た。定義から定理を求めて、その定理から自分で公式を導き出して書くということを対話のな かで繰り返し、だんだん数学がわかるようになっていきました。(2年生・小曾根こそね あゆむ さん)

※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のものになります

学校データ:1895年開校/男子校/全日制・定時制/普通科/全校生徒1084人/本年度、東大46名、一橋19名、東工大14名、東北大37名ほか、国公立・難関私大に多くの合格者を出す名門校。

取材・文/石井栄子