“広がる対話”“深まる対話”高校実践事例 Case2 北海道登別明日中等教育学校(北海道・道立)

CASE 2 【探求】

自分ごとの探究を通じて
多様な大人と語り合い、
明日を創る主体性を育む

北海道登別明日あけび中等教育学校 (北海道・道立)

地域で深める課題探究で
未来を創るリーダーを育成
「明日を創る」を開校の精神に掲げる北海道登別明日中等教育学校は、従来のグローバル課題をテーマとした探究活動を発展させ、2019年度より、地域との協働による新たな課題探究を実施している。
「目指すのは、未来を〝創り出す〞力をもつグローカルリーダーの育成。当たり前を疑い、周囲を巻き込み課題解決にあたるリーダーになってほしい」(太田稔先生※以下同)

主体性を発揮して課題探究に取り組めるよう、最も重視しているのは、生徒一人ひとりの「これをやりたい」という内発的動機だ。4回生(高校1年)前半にグループでひととおりの探究プロセスを経験したあとは、自分が本当に「やりたい」と思うテーマを自由に設定 し、個人探究に取り組む。各自のペース で、設定した仮説をフィールドワーク(以下FW)で検証するという探究プロセスを繰り返す。
「失敗してもまた挑戦すればいいし、期限内に完結させなくてもいい。立派な成果物を仕上げることより、探究を深めることに存分に力を注いでほしい」

目指す探究は、〇〇がわかっただけの〝調べ学習〞や、解決策の提案までの〝他人ごと探究〞を超え、課題解決のための行動を自ら起こす〝自分ごと探究〞だ。
「出来上がっている企画に参加するだけでは、面白みが薄く、自分ごととして取り組みにくい。企画段階から参加する、さらには、生徒自身が主導する企画に大人を巻き込むぐらいのアクションを期待しています」

生徒が主体となり
目的をもって対話を重ねる
同校の課題探究には、学校内外の多様な他者との対話の機会が活かされている。教員との関わりも、その重要な機会だ。教員は、生徒の主体的な探究を側面から支援する〝伴走者〞。生徒が探究内容の報告に来たら、まずは傾聴し、「へー」「ふーん」「すごいね!」など、太田先生いわく〝便利な呪文〞を繰り返す。相談の場合も、まず生徒の考えを聞くことから始め、教員が正解を与えることは極力控える。
「生徒は話すことで自ら思考を整理していく。さらに、教員が時折『で、どうしたいの?』『なぜ?』などの問いかけを挟むと、生徒は自ら問題点に気づき、次の一歩を見つける。教員が特に助言をしなくても、たいてい生徒は満足顔で帰っていきます」

また、地域の大人たちとも対話的な関わり方ができるよう、まずは大人との心理的な壁を取り払う場づくりをする。初めてのFWに先立ち、地域の大人を招いて「校内探究ヒアリング」を開催。少人数に分かれ、生徒が話の主導権を握り、自分たちの探究計画を話題に〝雑談〞する。
「こうした知らない大人と話す経験の有無で、FWへの踏み出しやすさや深まりに大きな差が出るようです」

その後、生徒自身のやりたいことに合うFW先を探して直接依頼。何を検証しに行くのかを明確にして話を聞きに行く。
「自分が興味関心をもてる相手に、目的を明確にして話をしに行くことで、自然と対話が生まれていると思います」 次第に多彩なFWが展開されるように。「学校づくり」をテーマにした生徒は、多様な地域・校種の教員へのインタビューや、大学生とのディスカッションなどを行った。「森が人に与える良い影響」に取り組んだ生徒は、自然団体と連携して森林体験イベントでの活動を重ね、参加者とオンライントークセッションを行ってその影響度を調査した。

また、外部の方が授業見学や視察のために来校する際も、生徒が多様な大人と対話するチャンス。希望生徒は自分の探究内容を来校者にぶつける。「自分の考えを聞いてもらうことが、自己肯定感につながる。やりたいことを突き進めればいいと、背中を押される効果が大きいですね」

こうして各自が進めてきた探究活動の節目には、中間発表会・成果発表会を開催する。ここで重視しているのは、丸暗記したことを上手に発表することではなく、他者から問いをもらい探究をさらに深めることだ。少人数に分かれて互いに発表を行い︑同じだけ対話の時間を設ける︒地域の大人も招き︑指摘・批判するのではなく、次の思考や行動につながる問い掛けをしてもらう。「発表会を『〇〇さんの意見を聞くチャンス』と楽しみにする生徒もいます。探究を通して、対話は楽しく実りのあるものだという意識になっているからではないでしょうか」

生徒が考えたテーマ で地域の大人と討論。「めっちゃ楽しかった。けど、すっげー頭使った。使いすぎて頭痛がする」とコメントする生徒も。

5回生(高校2年)の荒井さん・石塚さん(コラム参照)は、学ぶ目的について対話するワークショップを企画し、NPOと協働で開催。コロナ禍で当初の計画は中止となったが、数カ月後オンライン開催にこぎつけた。

6回生(高校3年)の舛田さん・石山さん(コラム参照)は「部活」を切り口に校内でワークショップを数回開催。解決策や結論を出すことを目的とせず、話し合うプロセスに重点を置いたという。

話すことで思考を深める
プロセスを楽しむように
多様な立場の人が意見を交わすことの面白さや価値を知った生徒たちのなかには、「この経験をほかの明日生にも」と、生徒同士が語り合うワークショップを自ら企画し、課外で開催する生徒も出てきた(写真参照)。地域の大人を巻き込んで実施する例も少なくない。「『やりたくてしょうがない』というスイッチが入ると、コロナ禍でも諦めず工夫し、たくましく取り組んでいます」

こうした行動に現れなくても、〝頭の良さ〞につながっている手応えが教員にはあるという。
「対話を重ねてきた生徒は、話すとわかります。頭をフル回転させながら話し、レスポンスが速く、受け答えも深い。私たちが育てたいのは、こういう頭の良さではないでしょうか」

また、授業中、グループで問題を解く活動をしていると、生徒から「まだ答えを言わないで!」と声が上がるようになった。
「早く正解にたどり着こうとするのではなく、対話しながら思考を深めていくプロセスを楽しむようになってきた。やはり生身の人間との対話は面白い。それで自分の思考が深まると気づいた生徒は、学びの仕方が変わります」

さらには将来像にも違いが出るようだ。「地域と対話し探究が深まった生徒は、これから自分がどのように生きていくかというイメージの中に、ちゃんと他者や社会がある。すると、進学先での学びや活動の質も変わる。社会と接続した生き方になっていくように感じます」

AKB Future Project推進委員会の太田 稔先生

生徒インタビュー

自分の考えを
言葉にすることが大事

専門家の話を聞けば新しい知見を得ることが できる。でもその前に、自分の考えを言葉にすることが大事なのかもしれません。人に話せば話すほど、自分の考えがまとまっていくし、あちこちに矢印が飛んでいくみたいに新しい発想 が出てくるからです。探究に取り組み、物事をいろんな方向で見る力や、人と話すなかで思いついたアイデアを「実行しよう」と前向きなエンジンが身についたかなと思います。(5回生・石塚 柊羽しゅうさん)

「やりたい」だけでなく「誰かのために」

4回生のとき、学生と社会人が語り合う外部イ ベントに参加。自分の考えが整理でき、将来に 向けてがんばろうという気持ちに。「学校のみんなにも経験してほしい」と、学ぶ目的を考えるワークショップを企画し、NPOを巻き込んでオンラインで実施しました。私のモットーは「自分の チャンスは自分で見つける「」自分で決めたことは全力で楽しみつくす」。これからも、自分の「やりたい」だけでなく「誰かのためにできること」も考え、いろんな分野に目を向けて活動していきたいと思います。(5回生・荒井 せいさん)

人と話すことが
自分を見つけるヒントに

5回生の春、部活動をやる意味を見失い、退部。自分が空っぽに感じたことから、「人が成 長するには」を探究テーマに。校内外で人と話すなかで、「成長の仕方は人それぞれだけれど、いろんな人と話すことが自分を見つけるヒントになるのでは」と考えるようになり、校内 で対話のワークショップを始めました。卒業後は社会心理学を学び、集団の中での人の成 長などを追究します。(6回生・舛田 翔陽しょうようさん)

問題の根底に何があるか
対話で探っていきたい

社会を変えるような新しいものを生むのは、天才的な発想じゃない。その前段階にある、現状誰がどう困っているのかを把握し尽くすことではないか。探究を通じて、そう考えるようになりました。卒業後は大学の国際系学部で文化相対論を研究する予定です。いろんな国の人とお互いの文化の違いについて話し合いを重ね、国際問題が発生する根底に何があるのか正しく見極めていきたいと思います。(6回生・石山 勇太郎さん)

※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のものになります

学校データ:2007年設立/普通科/生徒数454人(男子187人・女子267人)/2019年度より文部科学省「地域との協働による高等学校教育改革推進事業(グローカル型)」の指定校。

取材・文/藤崎雅子