Opening Message オードリー・タン (台湾デジタル担当政務委員)

対立を乗り越え、新たな価値を創造する

「対話」

テクノロジーの進化やグローバル化など社会が大きく変化するなか、生活は便利になる一方で、世界中で分断や対立が進み、それにコロナ禍が追い打ちをかけているように見えます。だからこそ次の世代を担う子どもたちには、多様な意見や価値観をもつ人々と協働し、納得できる答えを求めながら自分たちの手で社会を創っていく力を育みたい。その礎となるのが「対話」であり、「主体的・対話的で深い学び」に「対話」が入っている意味もそこにあるのではないでしょうか。  形式ではない本質的な「対話」の意味とは何か、そのような学びの場はどうすれば創ることができるのか…。探りながらつくった本特集が、これからの学びを設計するヒントになれば幸いです。 林 知里(本誌 デスク)

対話を通して個性が融合するとき、真の創造性が生まれる
多様な人々がいる状況で、分断や対立を乗り越えより良い未来を生み出すためには、共通の価値観・オープンイノベーション・実証できるインパクトの3つが重要です。最も大事なのが、共通の価値観に焦点を当てること。みんなで目指すべき世界を描くことができれば、立場や動機が異なっても、分野や領域を超えた、さらには文化をも超えた対話が可能になります。そして、対話を通してそれぞれの個性が調和・融合するとき、真の創造性が生まれるのです。対話により新たな合意が生まれるプロセスは、まさに魔法です。

2つ目は、発明者だけでなく誰もが発明の価値を共有できるようにするという、オープンイノベーションの浸透。つまり、早い者勝ちの排他的な社会ではなく、誰も取り残さない包括的な社会を創ることです。 そしてつ目は、実証できるインパクトの必要性。使命や目的、共通の価値観、構築したメカニズムが優良でも、公共の価値を生み出していなければ意味がありません。政府が国民に対して説明責任を負うように、すべてのステークホルダーにとって価値あるものになっているかを実証していく必要があるのです。

これからは、他者と学び合いながら新しいものを創り出していく時代です。ですから、日本の高校の先生方には、ぜひ、リテラシー(読み書きの能力)だけでなくコンピテンシー(創造的な資質・能力)が身につく教育を行っていただきたいと思います。リテラシーだけでは、価値を享受する消費者にしかなり得ません。自ら価値を生み出す生産者になるためには、コンピテンシーを手にする必要があるのです。共に、未来の創り手を育てていきましょう。

台湾デジタル担当政務委員を務めるオードリー・タン氏。国民が政策を提案・議論できるプラットフォームを構築するなど、台湾のデジタル民主主義を牽引する存在です。多様な価値観や個性の「対話」と「協働」でより良い社会を創ろうとされているタン氏にお話を伺いました。

構成/笹原風花 翻訳協力/エリソン安子 写真提供/オードリー・タン氏