教えて!「日本の教育のICT活用はどう進むの?」

 新型コロナウイルス感染症の第4波で、オンライン授業の対応を迫られた高校も少なくないことでしょう。新年度から政府の「GIGAスクール構想」で小中学校には1人1台環境が整備されたものの、高校は高速通信ネットワークだけ。国は教育分野のICT(情報通信技術)活用を、どう考えているのでしょうか。

教えて!「日本の教育のICT活用はどう進むの?」

 まず確認しておきたいのは、既に新学習指導要領で、情報活用能力が「学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられていることです。普段の教科・科目等の授業で、端末を「普段使い」することが想定されています。

 背景には、既に社会でICT機器を使いこなすことが当たり前になっていることがあります。さらにコロナ禍で、学校だけでなく、仕事でも一気にテレワークが当たり前になりました。これからの社会に出ていく生徒には、オンラインと対面のハイブリッドな環境に慣れておくことは、必須だと言ってもいいでしょう。

 加えて、社会全体でICTの導入による「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が求められていることにも、注意が必要です。DXとは、デジタル技術の導入によって、社会のあらゆる分野で変革が起きることです。

 教育も例外ではありません。それを象徴するのが、1月の中央教育審議会答申で協調された「個別最適な学び」です。答申では、これを「『個に応じた指導』を学習者視点から整理した概念」だと説明した上で、社会全体のDXが加速化する中で「これからの学校教育を支える基盤的なツールとして、ICTはもはや必要不可欠なものである」と強調しています。

 GIGAスクール構想では、クラウドが前提になっていることも見過ごせません。教育界では、今でも教育センターなどのサーバーを通さないといけないような旧態依然のネットワークが残っているところも少なくありませんが、もうそんな時代ではありません。学習系ネットワークと校務系ネットワークを合わせた「統合型校務支援システム」も、クラウドが想定されています。

 ICT活用に伴って蓄積される、教育データの利活用も課題です。もちろん児童生徒の教育データは第一義的に個人情報であり、本人や学校のために使われることが最優先ですが、匿名化した上でビッグデータとして利活用すれば、教材開発や効果的な指導方法の研究など、さまざまな知見を得られる可能性も出てきます。そうした教材や指導が個人にフィードバックされれば、まさに「個別最適な学び」に貢献できる可能性が高まります。

 そして、昔ながらの日本型学校教育の強みを生かした「協働的な学び」とセットにすれば、コロナ禍に代表されるようなVUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)時代にも怖くない……というのが、国の描くバラ色の未来です。
 
 ただし、そんな教育を実際の授業に落とし込むのは、学校現場に委ねられています。もちろん「GIGAスクールサポーター」の配置促進なども行われますが、外部人材が現場教員に取って代わることなどできません。目の前の児童生徒の実態に合わせて、「個別最適」な授業を工夫しなければならないことは、これからも変わらないでしょう。国や教育委員会などは現場の尻をたたくだけでなく、いっそう手厚い支援を行うことが望まれます。

 GIGAスクール構想にしても、高校の端末整備が設置者任せというのは、いかがなものでしょう。社会や上級学校への準備段階である高校にこそ本来、ハイスペックな端末の整備が必要なはずです。せっかく小中学校でタブレットなどを普段使いしても、高校はBYOD(個人が所有する端末の活用)で結局は多くの生徒が持つスマートフォン(スマホ)頼りというのでは、ますます職場や大学などとのギャップが広がるばかりではないでしょうか。


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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/