Part① コロナ禍で鍛えた「変化対応力」を、“これから”に活かす 【実践事例】 ICT活用 …佼成学園中学校・高校(東京・私立)/海部高校(徳島・県立)

▼進路指導への影響

大きく減少した進路検討・体験の機会を
オンラインも含めた工夫で取り戻す

  

集合型、経験型の指導の遅れを、
どう取り戻すかが今後の課題に
新入試元年にコロナ禍が襲った2020年度。進路指導の現場にどれだけの影響があったかをまずたずねた(図1)。全体では「特にない」は1%に満たず、ほぼすべての高校で何らかの影響が生じていた。「進路ガイダンス・進路相談等の行事の中止・延期」が82%と最も高く、以下「オープンキャンパス指導が十分にできなかった」77%、「保護者向け進路ガイダンス等の中止・延期」51%、「インターンシップが十分に実施できなかった」49%と、対面・集合型、経験型の指導を中心に縮小を余儀なくされたことがわかる。大短進学率別に見ると、進学率が70%以上の層では「外部模試の受験回数が減った」が高く、特に進学率95%以上の学校では39%にのぼった。また進学率70%未満の層では「インターンシップが十分に実施できなかった」が6割前後となっている。いずれも全体に比べて5ポイント以上高く、進学校と多様校で進路指導への影響に違いが見られる。

フリーコメント1からは、生徒が学校や職場の雰囲気を経験する機会が失われたことや、コロナ対応による変更やオンラインなど初めての問題への対応も迫られ、さまざまな困難や影響があったことがうかがえる。また、家庭の経済状況の悪化による志望校変更や、オープンキャンパスや職場見学が十分にできなかった3年生の進路選択のミスマッチによる退学や離職の懸念、1〜2年生の進路検討の遅れが課題として挙げられており、各学校では、オンラインなども活用した進路指導の工夫が続けられている。

【フリーコメント1】
新型コロナウイルス感染症拡大の影響<進路指導>

  • 例年より総合型選抜入試や就職開始時期が1ヶ月ほど遅れたが三者面談などの時間が十分にとれなかった。新しい入試制度でもあり、学年・進路部ともに生徒・保護者に対して十分な説明をすることが難しかった(青森県/県立/普通科)
  • オープンキャンパスの中止やオンライン対応が相次ぎ、生徒が大学の雰囲気を肌感覚で感じることができず、第一志望以外のアドバイスが難しかった(千葉県/私立/普通科)
  • 家庭の経済状況の悪化で、地元以外の進学が厳しくなり、志望校の変更が複数存在した(愛知県/県立/普通科)
  • 進学はオープンキャンパス、就職は職場見学等の機会が減り、web上や紙面での検討が多くミスマッチ(離学、離職)が増えないか心配(岡山県/県立/専門学科)
  • 3年生は今までの蓄積があるので、指導が十分行き届かないところもカバーできたが、 1・2年については不安が残る。また、コロナ対応によって様々な変更があり対応が難しかった(千葉県/県立/普通科)
  • オンライン上での進路指導形態の検討・推進を進めたい(神奈川/市立/総合学科)

▼学校運営への影響

変更・縮小の嵐の中、ICTの活用が進展。
見直しを、「改革の機会」とする学校も

  

「特別活動」縮小または中止が82%
対面前提の取組に大きな影響
コロナ禍は「学校運営の取組」全般にも大きな影響を及ぼした(図2)。「縮小または中止した・計」で見ると、「特別活動の取組」が最も高く、82%もの学校で学校行事などの計画に打撃を受けたことがうかがえる。加えて「進路指導・キャリア教育の取組」69%、「『主体的・対話的で深い学び』の視点による授業改善の推進」56%「、総合的な探究(学習)の時間」の取組」55%までの4項目は、半数以上の学校で縮小・中止を余儀なくされ、影響が大きかった。

「ICTの活用」をトップに
カリマネ、教員同士の対話が進捗
その一方で、「計画以上・計画通りに進んだ・計」の結果から、コロナ禍で促進されたと見ることができる取組もある。「ICTの活用」と、「教員同士の対話の促進・意識改革」、「カリキュラム・マネジメントの検討・推進」だ。休校中の生徒の学びを止めないために急遽オンライン学習を導入するなど多くの高校でICT活用が促進されたこと︑危機下にあって教員同士の協力が進んだことなどが見て取れる。なかでも「ICTの活用」は、GIGAスクール構想の前倒しで補正予算が組まれたことなどもあり、「計画以上に進んだ」割合が%と圧倒的に高く、急速に活用が進んでいる。

また、2020年度に初回を迎えた「大学入学共通テスト」など「入試改 革・受験準備に向けた対応」(52%)は、「縮小または中止した・計」の割合も高いものの、半数の学校で計画に沿って推進されており、生徒への影響を最小限にとどめようとしたことがうかがえる。 試行錯誤から工夫が生まれ、危機が「改革の機会」へ

フリーコメント2は、「コロナの影響」について感じたことを自由に書いてもらったものだ。一斉休校の措置や3密を避けた学校運営の影響で多大なる計画変更を余儀なくされ苦労したというコメントが多く見受けられた。
と同時に、この危機を機会として前向きに捉え、「大切なことは何なのか」という原点を意識しつつ、〝例年通り〞ではない業務の見直しや改革を進めることができたとの声も多く寄せられている。また今回の自身の経験から「生徒に未知の状況にも対応できる力をつける必要性を感じた」など、生徒のこれからに思いをはせた声もあった。

ICT活用に関しては、オンライン授業などを経験したうえでの賛否、ICTのメリット・デメリット、アナログの良さも理解したうえでどう効果的に進めていくかを考えたいという冷静な意見、また校内でのICT環境について、整備・導入は進んだが活用は今後の課題という声が見受けられた。

【フリーコメント2】
新型コロナウイルス感染症拡大の影響<学校運営>

  • 計画を立てても中止になり心が折れそうになる(北海道/道立/普通科)
  • このような状況になって、より一層、生徒に「未知の状況にも対応できる力」をつける必要性を感じた(静岡県/県立/普通科)
  • 例年に倣って実施していたものの要・不要が明らかになった(静岡県/県立/専門学科)
  • 例年通りにできなかった行事もあったが、オンラインや形を変えるなどの工夫が生まれ、全体としては影響が少なくなったように感じる。むしろ「大切なことは何なのか」という原点を意識するきっかけとなった(愛媛県/県立/普通科)
  • 休校期間中の取組で学校の旧態依然の教育活動での限界を感じた。校内での通信環境や教員の生徒に対する様々な教育の形を考える機会となった(熊本県/県立/普通科)
  • ICTシステムを使った授業への対応がこの数年なかなか進まなかったところに、今回の影響で先生、生徒とも一気に習熟が進みました(長野県/私立/普通科)
  • 校内のICT化は進んだが各家庭のコンピュータの充実が不十分でオンライン学習の障壁となったことから、家庭内で生徒一人に一台学習に使えるパソコンの必要性を感じた(新潟県/市立/普通科と他学科併設)
  • ICT活用拡大のきっかけとなった。メリットも大きいが、実体験、対面、アナログの良さもあるので、一辺倒にならないように気をつけたい(宮崎県/県立/普通科と他学科併設)

▼ICT活用

幅広い教育活動で使ってみながら、
生徒の意欲喚起、個別最適化学習へつなげていく

  

今後の活用意向は、「宿題配信」、
「授業での活用」「コミュニケーション」
今回のコロナ禍をきっかけに導入が進んだICTについて、さらに掘り下げて見ていきたい。活用状況で言うと、既に97%とほぼすべての高校において、授業・ホームルーム・探究などの教育活動にICTが活用されている(図表は割愛)。

では、今後さらにどのような活用を想定しているのだろうか(図3)。複数回答でたずねたところ「宿題・課題等をオンラインで配布」68%が1位。カテゴリー別では【授業での活用】の項目が高く、「オンラインによる双方向型授業・学習支援」56%、「対面とオンラインのハイブリッド型授業」45%、「動画配信によるオンデマンド型授業」40%で、いずれか1つでも選択した「授業での活用・計」の割合は%にのぼった。家庭との連絡やオンラインホームルームなどの「コミュニケーション」に使いたいという高校も50%を占める。  

設置者別に比較すると「外部との連携強化」のカテゴリーを除き、いずれも「私立」が高い。学校法人として独自の選択ができ、導入が先行していた学校が多い背景から、今後の活用についても具体的にイメージし、検討ができているようだ。

狙う効果は、「生徒の興味喚起」「個別最適化」「学習時間の伸長」
では「ICTの活用によって狙いたい効果・変化」として何が期待されているのか(図4)。「生徒の興味を喚起し、学習へのモチベーションを上げる」64が%と最も高く、「生徒一人ひとりが自分に合った方法や進度で学習できる」、「授業外の家庭学習(課題)等も含め、 生徒の学習時間の伸長」(共に50%)、「先生方の負担軽減・校務の効率化」48%と続く。9項目中7項目で4割を超え、生徒への効果だけでなくさまざまな効果が期待されている。  

大短進学率別に特徴を見ると、95%以上の進学校では「多様なリソースにアクセスできることによる生徒の学びの深まり」が59%と突出している。教室内での学習や日常の生活圏では触れることのできない情報源に触れ、刺激を受けて学びを深めていくことができると期待されているようだ。

活用推進のための方策のトップは
「先生方の研修の強化」
計画が前倒しされたGIGAスクール構想の進捗を踏まえ、ICT活用推進のために現在行われている取組や、今後実施予定の取組についてたずねた(図5)。1位は「先生方の研修の強化(校内・校外)」で63%と突出して高い。 以下「検討/推進プロジェクトの立ち上げ・任命」33%、「推進計画の立案と教員間での共有」31%が割台で続く。まだ検討の緒に就いたばかりの学校が多く、校内の取組から着手している段階かと思われる。  

設置者別で見ると、導入が先行している私立では国公立に比べてさまざまな取組が進んでおり、現状では多くの項目で国公立を10〜20ポイント程度上回っている。  

また大短進学率別では、進学率の高い学校ほど取組が進んでいることがわかる。また、進学率70%以上の層では「デジタル教科書・教材の活用」や「生徒の巻き込み」なども高い傾向が見られ、教員研修やプロジェクトの立ち上げなどの〝準備段階〞から、生徒に向けての〝活用や実践〞へ先行して動き始めている兆しが見られる。

コロナ禍は学校運営にさまざまな影響を与え、経験したことがない判断や対応を迫ることになった。調査結果からは、3年生の進路実現のために手を尽くし、カリキュラム・マネジメントを何度もやり直し、学びを止めないよう試行錯誤してきた学校現場の奮闘が伝わってくる。まさに高校の「変化対応力」が問われ、それを鍛え続けてきた1年だったのではないだろうか。  

次では、それぞれの課題感を基にICTも活用しながら新たなチャレンジを開始している2校の事例をご紹介したい。

構成・文/平林夏生


【実践事例】ICT活用

生徒自身が実現する
個別最適な学び

佼成学園中学校・高校(東京・私立)

ICTは手段の一つ。大事なのは
最適な学びを自ら選び取れるようになること
コロナ禍前よりICT活用を推進してきた佼成学園高校だが、「導入当初は教員に有効活用するスキルがなく、賛否両論あっ た」と井上先生は振り返る。その後、スタディサプリの映像授業を導入するも、教員からの指示で試聴する程度で、生徒にはなかなか浸透しなかった。「幅広い学力層に合うコンテンツが多数あ っても、生徒はそのなかから自分に最適なものを選ぶことができない」という課題を解決したいと考えた井上先生は、生徒が自分で選べる“仕組み”づくりに着手。当時の2年の冬休みの課題用に、英語の到達度別に具体的な課題内容と対応する映像授業を紐づけた「英語 到達度ルーブリック」を作成した(下図)。  

英語の5つの分野別に1~6までの到達度を設定し、各レベルの生徒が取り組むべき「課題内容」を具体的に記載。
さらに、課題内容に対応した映像授業や参考書・問題集に紐づけている。

  

当初は映像授業だけだったが、映像よりも参考書や問題集を使った学習の方が向いているという生徒が一定数いたことから、生徒の多様性に合わせて対応する参考書・問題集も追加した。「目的はICTを活用することではなく、生徒が自分に最適な学び方や教材を自ら選び取り、主体的に学んでいくこと」と 井上先生は強調する。

現在、井上先生・水深みずふか先生が担当する学年では、長期休暇前に「英語 到達度ルーブリック」を生徒に配布し、学習計画を作成させている。生徒は「いつまでに、何を、どれだけ、どのようにやるか」を具体的に設定し、提出。先生が確認してコメントを戻し、それを受けて生徒は再調整する。「最初は課題が漠然としてい たり分量やレベルが適切ではなかったりする生徒が多いが、次第に課題設定も計画も精度が上がってくる」と水深先生。休暇明けには振り返りの機会を設け、次の学習計画のブラ ッシュアップにつなげている。  

英語から始まったルーブリックを使った個別最適・自主自立の学びの取組は、今では数学や国語にも広がっている。「今後は他学年でもこの取組を参考にしてくれる先生が出てくると嬉しい」と2人は締めくくった。

左から、3年学年主任・英語科教諭の井上 哲先生、英語科主任の水深 壮先生。


学外と協働し、立地によらない
魅力ある学びを実現

海部高校(徳島・県立)

高校・大学とつないだ遠隔授業で、
生徒の学びの機会を確保・発展させる
海部高校が遠隔授業に取り組み始めたのは2015年。県内でも特に少子高齢化が進む地域にあり、将来的に教員不足により開講できない科目が出る恐れがあったことから、教育委員会 とともに対策に着手した。同年に国の実証研究事業※を受託。外部と連携した遠隔授業の仕組みを構築していった。柱となるのが、他校との遠隔授業と大学教授による特別講座だ。  

県立徳島中央高校の教員による通年の遠隔授業では、これまでに「数学B」を開講。海部高校の生徒は遠隔授業専用の教室にて、一人一台のダブレット端末を使って受講する。授業支援アプリで画面共有することで、「教員が教室で机間巡視を行うように生徒の学習状況を確認できる」(井利元いりもと教頭)という。教室には授業補助者として海部高校の教員が付き、評価にも携わる。「遠隔では生徒の意欲や態度がみえにくいので、その評価を授業補助者が補う」(藤田氏)といい、双方の教員は授業前後に密にコミュニケーションをとっている。「スムーズに遠隔授業を行うコツは、使う機器も授業の進め方もできるだけシンプルにすること。試行錯誤するなかで、余計なものは省 いてきた」と井利元教頭は述べる。  

また、海部高校の周辺には高等教育機関がなく、研究者による出張講義が容易でないという課題もあった。そこで始めたのが、徳島文理大学の古田 昇教授による地理の特別講座だ。

昨年度は「事前指導(遠隔)・フィールドワーク(実地)・事後指導(遠隔)」の3回構成で実施。「事後学習があったことでやりっぱなしにならず、生徒の理解がより深まったようだ」と井利元教頭。遠隔と実地を組み合わせた指導の成果も出ている。
「遠隔授業が浸透すれば、田舎だから不利という制約を取っ払 い、学校の魅力や特色にもつなげていけると期待している」と 中﨑校長。教育委員会は今後、遠隔授業の実証で得られたICT活用のノウハウを県全体に広げていきたい考えだ。

地理の特別講座の事後指導の様子。
教室にはモニターが2台あり、1台には授業をする教員が、もう1台には教材や問題が映し出される。

左から、海部高校研修情報課長の福田泰斗先生、進路指導主事・進学課長の大西昌文先生、中﨑 誠校長、井利元裕哉教頭、徳島県教育委員会教育創生課指導主事(高校魅力化担当)の藤田康平氏。

※文部科学省「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業(遠隔教育システムの効果的な活用に関する実証)」

取材・文/笹原風花