Part② 入学者選抜改革、新学習指導要領 … 教育改革にどう取り組む? 【実践事例】 授業改善 …泉陽高校(大阪・府立)/探究…札幌藻岩高校(北海道・市立)

▼入学者選抜改革・新学習指導要領への対応

新入試と新カリキュラムへの対応がつながり、
本質的な教育の転換へ

  

「大学入学共通テスト」への対応は
外部検定・模試の受験促進から
授業、定期考査、評価の見直しへ
2020年度の実施が初回となった「大学入学共通テスト」に向けた対応についてたずねた(図6)。「これまで取り組んできたこと」では「英語の外部検定試験の受験を促進」48%が最も高く、以下「『主体的・対話的で深い学び』の視点による授業改善の推進」40%、「思考力・判断力・表現力を高めるための授業デザイン」38%、「外部模試の受験を促進」37%、「定期考査問題の見直し(思考力・判断力・表現力を問う問題を増やす等)」36%が僅差で続く。  

一方、「次年度以降取り組みたいこと」(※20年度調査のため21年度以降)では「思考力・判断力・表現力を高めるための授業デザイン」49%が最も高く、以下「定期考査問題の見直し」45%、「評価の在り方の検討(観点別評価、パフォーマンス評価等)」43%、「活用場面を意識した取組、資料やデータの活用等、大学入学共通テストの実施方針を踏まえた授業の実践」41%が上位であった。
「これまで」と「次年度以降」の差で比較すると、「評価の在り方の検討」と「教科横断型の授業の実践」がそれぞれ+24ポイント、+22ポイントとスコアを大きく伸ばし、「英語の外部検定試験の受験を促進」と「外部模試の受験を促進」がそれぞれ▲18ポイント、▲12ポイントと大きく減っている。英語資格・検定試験の活用見送りや、初年度実施後に出題傾向が見えてきたことなどもあり、表層的な対策からより本質的な取組に変化していることが見て取れる。

新カリキュラムに向けては「ICT活用」をベースに
「授業改善」、「カリマネ「」評価見直し」を推進
一方2022年度からの「新学習指導要領」の実施に向けて特に重視していることについてたずねたところ(図7)、1位は「ICTの活用」68%であった。2位は「『主体的・対話的で深い学び』の視点による授業改善」61%、 3位は「カリキュラム・マネジメントの検討・推進」52%。以下僅差で「評価の見直し(観点別評価、ルーブリック等)」49%、「『総合的な探究(学習)の時間』の見直し」45%、「育みたい資質・能力の明確化」43%まで4割以上で続く。  

フリーコメント3の具体的な取組を見ると、「主体的・対話的で深い学び」の観点からの授業改善や総合的な探究の時間の見直し、それらを有機的に連携させていきたいというコメントが多い。

またフリーコメントからは、「ICTの活用」はさまざまな目的を推進する〝手段〞として重視されていることがわ かるが、それを除き図7の上位項目は、 前述の「大学入学共通テスト」に向けて「次年度以降取り組みたいこと(図6)」との重なりも多い。高大接続改革の流れを受けた入学者選抜改革と、新しい学習指導要領に則って進める教育改革は表裏一体であり、ここへきてその方向性がつながり、高校現場が本質的な教育の転換に向けて進みつつある兆しが現れた結果ではないだろうか。

【フリーコメント3】
新学習指導要領実施に向けて注力したい取組のイメージ

大短進学率95%以上

  • ①シラバスにおいて、「育みたい資質・能力」を明確に示し、教科・科目としての指導目標をよりしっかりと伝え実践していきたい。②総合的な探究の時間を通じて、主体的に学び考え表現する力を高めたい。特にアウトプット力の向上を重視したい。又、地域や大学など外部リソースを効果的に活用したい(群馬県/県立/普通科)
  • 教科間連携によるクロスカリキュラムの構築やICTを活用した「主体的・対話的で深い学び」の実践研究を行っていきたい(埼玉県/県立/普通科と他学科併設)
  • PBL授業を用いた主体的、対話的で深い学びに力を入れていく。全教科実施を目標にしている(東京都/私立/普通科)
  • 探究的な学習の時間をさらに広げて、教科横断、文理融合の教育を進めていきたい(東京都/都立/その他)
  • カリキュラム・マネジメントを回し、教育活動の改善が確実に図られること。具体的には、探究活動の推進、授業改善と観点別評価の一体化を、職員全体でどのように進めていくか、そこにICTをどう絡めるか。(宮城県/県立/普通科)

大短進学率70~95%未満

  • 次年度からの受験対策を見据え、キャリア教育を強化することで多様な選択肢を持った生徒の教育を行う(千葉県/私立/普通科)
  • 大学入試に関する変革が顕著なことから、それらに対応すべくカリキュラムの変更に着手している(神奈川県/県立/普通科)
  • 探究学習を中心としたキャリア教育の推進(神奈川県/市立/普通科)
  • 課題研究などを通して、生徒が社会の中で生きていくためにどのような力を身につけさせたいのか、そのための振り返り、どこに問題があるのか考え、解決していく力を身につけさせたい(東京都/都立/普通科)
  • 1人1台タブレット貸与となるため、個別最適化の学びと協働的な学びを推進する(石川県/市立/普通科)
  • 学校で実施しているすべての取組に対して、育みたい資質・能力を明確化し、カリキュラム・マネジメントを実施して可視化する。(愛知県/私立/普通科)
  • 進路指導の強化。1年次よりキャリア・パスポートを作成し、将来のビジョンを構築させる(奈良県/県立/普通科と他学科併設)
  • 観点別評価を取り入れた授業計画に取り組み、授業方法や評価の提示など、教科・科目ごとの設計を進める(大阪府/府立/総合学科)
  • 「総合的な探究の時間」の3年間のプログラム構築(普通科として)。観点別評価の構築と「学びに向かう力」の評価方法の研究。一人一台の端末導入の有効活用(大阪府/府立/普通科)
  • 外部リソースを活用して「総合的な探究の時間」に「地域学」に取り組む。一人一台端末を活用し、思考力・表現力を育てる授業改善に取り組む(岡山県/県立/普通科と他学科併設)
  • SSH事業推進を核とした探究的な学びの実践→知る学びと創る学びのサイクルをまわすことで、探究的な学びの実践場面をすべての教科に取り入れ、生徒の主体的・対話的に学びに向かう姿勢を伸ばし、読解力・探究力を身につけさせる(島根県/県立/普通科と他学科併設)
  • 調査書の形式が変わるため各教科で評価の見直しが必要(イメージはまだ未定)(佐賀県/県立/普通科と他学科併設)

大短進学率40~70%未満

  • 総合的な探究の時間を見直し、生徒が主体的に学ぶことができる総合の時間を計画する(北海道/私立/普通科)
  • 観点別評価方法の研究を中心とした授業改善が行われる予定(北海道/都立/総合学科)
  • ①探究に関してキャリア教育の一環として行えるよう見直しをしている。②ホームルームや特別活動についても、キャリアの観点からどうあるべきか構想中である(岩手県/県立/普通科と他学科併設)
  • 観点別評価の運用と評定平均に関わる大学推薦基準の見直し(宮城県/県立/普通科)
  • カリキュラム・マネジメントの観点から、教科間連携をしながら本校の目指す生徒像に向かいたい。教員の意識改革が重要なので講師を呼んで講演会等を行いたい(富山県/県立/普通科と他学科併設)
  • 授業改善、「総合的な探究の時間」の活動、キャリア教育などを深化させるためのICTの活用の在り方について検討していきたい(秋田県/県立/普通科)
  • ①生徒に求める将来像を明確にした上で、それを基にした教育課程を作り直す。②総合的な探究の時間で積極的にICTを活用し、作業の効率化を図るとともに、浮いた時間に活動や地域との連携を意識したプログラムを加えていく。③進路指導と総合的な探究が上手く絡み合うような授業計画を立てる(兵庫県/県立/総合学科)

大短進学率40%未満

  • 総合的な探究を通して、地域を知る→体験する→提言する、すなわち過去-現在-未来につながる取り組みへと発展させたい。(北海道/道立/普通科)
  • 新学習指導要領に基づき、評価システムを確立していく準備の年度にしたいと考えている(山梨県/県立/普通科と他学科併設)
  • 探究学習においては、学年を越えて縦のつながりの授業を実施する。上級学年が後輩たちに教えていくといった授業を展開していきたい(部活動のイメージ)。ICTの活用で基礎学力向上と学習習慣の定着を期待している(愛知県/私立/普通科と他学科併設)
  • キャリア教育の充実が、進路意識→学習意欲の向上→学力向上に繋っていくよう、計画している(兵庫県/県立/普通科)
  • ICT(プロジェクタやタブレット)を活用した授業改善を図り、生徒の主体性を向上させたい。また、新しい評価に取り組み、その良さや改善点を検証していきたい(島根県/私立/普通科と他学科併設)
  • 主体的・対話的で深い学びを実践する教師からの発問の強化。生徒には何に取り組んで、何ができるようになったか具体的な成果を求め、教員には何を教え、その結果何ができるようになるかを明確化させる(沖縄県/県立/その他)

▼授業改善

教員の授業設計力や授業観の変化を経て、
今後はさらなる生徒の力の向上へ

  

組織的な対応が割へ伸長、
学校全体での取組も割へ
「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング、以下AL)の視点による授業改善の取組体制」についてたずねたところ(図8)、「学校全体で組織的に取り組んでいる」38%、「学年や課程・学科・コース単位で取り組んでいる」 6%、「教科単位で取り組んでいる」
18%と、組織として対応している学校は61%。この割合は調査を重ねるごとに増え、2014年の21%から約3倍となった。

注力の優先順位の上位は
すべて「生徒の変化」へ
図9では授業改善に取り組む学校にそれによる変化の状況をたずねた。「今年度までの変化」は【教員】「教材開発や授業設計力の向上」39%が最も高く、以下、【生徒】「学びに向かう姿勢・意欲の向上」37%、【教員】「教員の授業観の変化」36%、【生徒】「主体性・多様性・協働性の向上」34%と続く。1つでも選択した割合は85%で、多くの学校で授業改善による変化が実感されている。
「次年度以降強化・注力したいこと」では上位を【生徒】の項目が占める。「思考力・判断力・表現力の向上」59%を筆頭に、「学びに向かう姿勢・意欲の向上」49%、「主体性・多様性・協働性の向上」47%、「基礎的な学力(知識および技能)の向上」45%と続く。


【実践事例】授業改善

授業見学、生徒評価、テスト分析から
教員が気づきを得て、生徒の深い学びへ

泉陽高校(大阪・府立)

授業を多角的に振り返り
生徒がより深く学べるように
泉陽高校では、2019年度に武田校長が2つのプロジェクトを立ち上げた。  

ひとつは「授業力向上プロジェクト」。当時の校内には、先生によっては「従来型の講義でも生徒はついてくる」という意識がまだ多少あったそうで、「現状に甘んじず、生徒の深い学びの実現を目指しましょう」という方針を強く打ち出すためだった。  

もうひとつは「高大接続プロジェクト」。入試改革に合わせて「生徒や保護者に早く正確に情報を届ける」のが目的だった。  

この2つのプロジェクトで、授業のあり方を先生たち自身で多角的に検証したことが、生徒の総合的な学力の向上につながっていく。その経緯を紹介したい。
「授業力向上プロジェクト」では、主体的・対話的で深い学びや自学自習の促進をテ ーマに、相互の授業見学や研修を行った。  

また、生徒による授業評価も活用した。大阪府では、生徒や教員による学校教育自己診断を毎年行っている。その診断結果を分析し、自校の課題を次のように明確にしたのだ。「(2018年度の診断では)『授業で自分の考えをまとめたり発表する機会が多い』に対する肯定的回答は、教員84 %、生徒59%と、25%の差があった。生徒の捉え方を把握し、深い学びにつながる授業について全体で取り組む必要がある」と。  

その課題感を、教員および学校運営協議会の識者と共有。以降も「自分の考えをまとめたり発表する機会が多い」に対する生徒の肯定的回答率向上を指標のひとつにしている(2020年度には65%まで上昇)。  

さらに学校ホームぺージ内の「校長ブログ」で、武田校長自らが各教科の先生の授業を見学して発信。その数は赴任4年目に80 本を超えた。学校広報の一環だが、「個々の先生の授業の工夫をほかの先生 にも知ってほしい」「見学した先生に良かった点を伝えてモチベーションを高めたい」という思いもあって、継続しているという。
「高大接続プロジェクト」では、主担当の野口先生が、5教科17科目それぞれの先生にこんな依頼をした。「これから始まる共通テストの傾向を分析し、1科目1ページにまとめて生徒に発信してほしい」と。  

また、各学年が年4回行っていた模試について「忙しくこなすだけになっている」と判断し、年3回に削減。代わりにここでも「毎回模試結果を分析し、生徒たちの傾向をつかんで進路ニュースで発信してほしい」と各教科の先生にお願いした。さらに「その分析結果を授業に反映してほしい」とも。「プロジェクトのメンバーが共通テストや模試を分析して上から提示するより、各教科のプロである先生方を信じて、みんなで分析と発信をしたほうが、一人ひとりの意識が変わり、授業改善も進むと思ったのです。例えば模試の分析からは、本校の生徒の傾向として、教科書の難しい単語は暗記しているが、社会の一般常識は弱いことなどが見えてきました。そこをおのおのが認識するだけでも、授業の力点は変わりますよね」

各教科の先生が発信する進路ニュース。
生徒への情報提供と、先生たちの授業改善促進の両面を兼ねている。

厳選した発問と資料で
生徒の思考力や応用力を育む
地歴・公民科の出原いずはら先生は、一連の取組で「自分の授業が変わった」と感じている一人だ。以前までは「社会科の授業は講義中心でないと難しい」と感じていたが、相互の授業見学で、他教科の先生がペアワ ークやグループワークを気軽に取り入れているのを肌で感じ、対話型の授業に思い切 って挑戦するようになった。

共通テストや模試の分析を通して、「資料を多面的に読み取る力を育みたい」とも思うようになる。授業で図表や文献を示し、「気づいたことを教えて」と、答えがひとつではないことを生徒に問うようになった。
「気をつけているのは『対話させる』こと自体を授業の目的にしないことです。その対話をいかにして深い学びにつなげるのか。生徒の思考を深めるにはどのタイミングで何を問いかけ、どんな資料を提供すればいいだろう、と模索し、『発問』と『資料』を厳選するようになってきました」

その授業改善は生徒の姿勢も変えた。「発言の自由度が上がったことで、授業に参加する意欲がより高まったのです。生徒たちはこれまで、教科書に太字で書かれた語句はよく覚えていても、その背景の説明はやや苦手としていたのですが、ひとつの事柄から重層的で広がりのある知識をつむいでいけるようになりました」

武田校長も生徒の変化を実感している。「授業見学で校内を回ると、以前は静かな教室が多かったのですが、今では生徒の活発な声が聞こえてくるんですよ。黙って受け身で学んでいた生徒たちが、自分たちで意見を出し合って学ぶようになりました」  

しかも、学校全体で主体的・対話的な学びに舵を切ったあとも、進学実績は下がらなかったという。むしろ上がった。国公立大学の現役合格は例年33%前後だったが、 2020年度には40%を超えた。共通テスト以上に2次試験の結果が良かったそうで、「一問一答ではない、思考力や応用力が問われるところで生徒が力を発揮できたのではないか」と先生たちは感じている。

左から、進路指導主事の野口清隆先生、校長の武田温代先生、地歴・公民科の出原小百合先生。

取材・文/松井大助


▼総合的な探究の時間

組織的な取組に移行させつつ、
具体的な資質・能力の育成︑進路との接続へ

  

学校全体での取組は37%
今年度6割が中核へ位置づけ
総合的な探究の時間は、93%の学校で取組が進み、「学校全体で組織的に取り組んだ」37%、「進路指導部等、分掌が主導で取り組んだ」37%、「学年や課程・学科・コース単位で取り組んだ」 16%と、組織的対応・計も85%にのぼっている(図10)。設置者別では国公立で組織的対応が9割近くと高く、さらに、うち割が「学校全体」での取組であった。大短進学率別では進学率の高い層ほど「学校全体」での組織的取組が進んでおり、95%以上の進学校では%を占める。

また、新学習指導要領で求められる「総合的な探究の時間をカリキュラム・マネジメントの中核に位置づけること」についてたずねたところ(図11)、「既にカリキュラムの中核に位置づけている」は31%「、次年度(21年度)以降、中核に位置づけようと考えている」は28%で、今年度までに「位置づけている・計」の割合は合わせて58%と、前回の2018年調査の35%から大きく増えている。

探究による向上は
「主体性・多様性・協働性」が7割
「基礎的な学力」は3割
既に探究に取り組んでいる学校に4つの力を提示し取組による生徒の変化をたずねた(図12)。変化(向上)を感じている割合は「主体性・多様性・協働性」70%、「思考力・判断力・表現力」62%、「学びに向かう姿勢・意欲」58%で、これら3つの力は半数以上で実感されている。一方「基礎的な学力(知識および技能)」は29%と、探究と基礎的な学力をどうつなげていくかは模索中の学校が多いようだ。ほかにも、フリーコメント4からは、学び合いの姿勢や自己肯定感の向上など、さまざまな生徒の変化が感じられている。「総合的な探究の時間」取組状況別に比較すると、いずれの力も「学校全体で組織的に」取り組んでいる学校ほど「そう思う」という割合が全体に比べて5ポイント以上高い。取組の狙いや育成したい力を教員間で共有し連携することで相乗効果を生み、良い流れが作られていると思われる。

【フリーコメント4】
探究で感じる具体的な生徒の変化

  • 授業で学んだ内容を、放課後に残って理解できていない生徒へ伝える、学び合いの姿勢が育った(北海道/道立/普通科)
  • なぜ学んでいるのかということを自分自身へ問いかける機会となっている。自分ごとの課題に向かう学びのスイッチが入る生徒が出現した。その生徒たちの影響がまた周囲の生徒に波及していく。何サイクルか回ると、集団の学びに向かう力が劇的に変わる可能性を感じる(宮城県/県立/普通科)
  • 仮説を立てる上で、分析力や想像力を働かせることができるようになった。情報収集力がついた。自分の意見を持ち、その意見を発表することができる(福島県/県立/総合学科)
  • 考えをまとめ、発表する経験がここ数年で急激に増えたことで、多少の失敗を受け止められるたくましさや度胸が育った(千葉県/私立/普通科と他学科併設)
  • 自己肯定感が高まり積極的に物事に取り組む生徒が増えた(宮崎県/県立/普通科と他学科併設)

進路選択への影響トップは
「前向きな進路選択の醸成」と
「地域や社会への興味・関心」

では探究活動は、生徒の進路選択にどのようにつながっているのだろうか(図13)。98%が「進路実現につながる」と感じており、具体的には「前向きな進路選択の態度の醸成につながる」61%、「地域や社会への興味・関心が高まる」60%が拮抗して高く、2大効果と言える。  

大短進学率別に比較すると特徴が見られる。進学率の高い層では「志望校や志望分野選びにつながる」が高く、 95%以上の進学校、70〜95%未満校共に6割と全体に比べてポイント以上高い。また70〜95%未満校では「総合型選抜等、入学者選抜に活用できる」も全体に比べて15ポイント高く、進路選択への直接の影響が強く想定されている。70%未満の層では「地域や社会への興味・関心が高まる」が高い。地元への貢献意欲や就職につながることが想定されている。なお、「前向きな進路選択の態度の醸成につながる」は大短進学率に関係なく6割前後と高く、探究活動を通じて自らの生き方を考えるキャリア教育的な効果は、進学・就職を問わず進路にも影響を与えると考えられていることがわかる。  

次では、探究を通して生徒の学習意欲を高め、進路選択にも接続しようとしている事例をご紹介したい。


【実践事例】探究

計画的な学びと偶発的な学びの
両面から生徒が成長できるように

札幌藻岩高校(北海道・市立)

探究を通して学習意欲を高め
自分らしい進路も見出す
市立札幌藻岩高校は、都市部の進学校ながら、地域連携の探究をカリキュラムの中核に据え、学校全体で取り組んでいる。  

1年次は「実体験を通して社会に目を向ける」として、多様な分野の人と出会い、見る・聴く・質問することを体験。  2年次は「社会の一員として地域の課題解決に向けたアイデアを共創する」として、同校のある南区でフィールドワークを行い、 “地域を笑顔に、持続可能にする”ための 課題発見や解決策の提案・実行に挑む。

3年次は「持続可能な社会と、それを担う自己の未来を描き、行動する」として、社会や自分の今後を想像しながらフィールドワークや進路実現に向けた取組を。  

教員はその探究活動に寄り添うなかで、各生徒の志向を理解し、知りたいことや学びたいことにマッチする大学や民間団体、行政の部署なども一緒に探し、いわば「活動を通した進路相談」にものっていく。  

2021年度からは、4月に各年次が「学び」と向き合う講座もスタート。「探究や各教科を学ぶ意義は何か」をみんなで考える取組で、主体的に学ぶことや、知識・技能を身につけることに対して、生徒の意欲を一層喚起することを目指している。  

こうしたカリキュラムの原点となったのは、 2018年度より2年次の総合的な学習の時間で、地域連携の活動を始めたことだ。同校の千葉先生が、同僚と一緒に地域に飛び込み、自ら連携先を開拓した。
「学校で言われたことだけを学ぶのではなく、『生徒が外にも出て、自分で歩むなかで学ぶ』ようにしたかったのです」  

その学年団の取組に、学校改革のプロジ ェクトチームにいた長井先生が着目、学校全体に広げようと提案、周囲に働きかけた。「探究中心のカリキュラムという“型”を作ろ うとしたわけではないんです。未来が見えない時代には『リアルな体験から実感のこも った問いを見出し、自ら学ぶことが大事だ』と思い、そうした場を追い求めた結果、探究を軸とした学びになりました」

計画に乗せるのではなく
自走する生徒と一緒に考える
重視するのは偶発的・自発的な学びだ。「生徒が外に出て、普段は接しないような人や出来事にふれるなかで『今まで思いもしなかった生き方や社会の課題』を知り、そこからやりたいことを見出してほしい。その思いを進路にもつなげていけるよう、教員も支援したいのです。生徒がやることを決めて活動するので、こちらの計画通りにいかず大変な面もありますが(笑)、『何が起きるかわからない状況を僕らも一緒に考えて楽しもう』と話しています」(千葉先生)

「4月の学びの講座でも、計画的なことも偶発的なこともすべて自分の学びにしていこうと投げかけています。探究と各教科の関連も、教員主導のプログラムでつなげるというより、生徒が自ら結びつけていけるよう、その思考を促すために何ができるか話し合っているところです」(長井先生)  

その促しの一つが、教科の授業でも、外部との関わりや、社会や地域の旬の話題を盛り込んでいくことだ。4月の講座を経ることで、生徒たちはそうした教科書外の学びにも前向きに取り組んでいるという。  

生徒の変容も感じている。地域探究開始時は「それよりも勉強を」との声もあったが、南区を自分たちで見聞きし、地域を笑顔にしようと食べ歩き文化づくりなどを構想、実行するなかで熱が高まった。取組から自分がこの先やりたいことを見出し、活動実績を進学に結びつける生徒も出てきた。  

その先輩を見てきた次の代からは一層変化があった。将来目指したいことのある生徒が森林資源の活用プランを自ら提案、鉄道好きの生徒も線路跡地の再利用を発案するなど、促さずとも動き出した。「言われたことを素直にやる」傾向のあった生徒が、自分の進路や強みを見すえて「やりたいことを意思表示する」ようになったのだ。

長井先生はこの地域探究をさらに広げ、「子どもたちが札幌というまちで24時間自由に学べるようにしたい」と考えている。同校の取組以外に、市立高校連携で各校の生徒が横断で参加できるプログラム ― 例えば地域の中学生や大学生、大人と共にまちづくりを考えて実際に動く取組なども始まった。千葉先生は「その探究によって、生徒が変わるだけでなく、地域も本当に変わっていくようにしたい」と思い描く。だからこそ、地域の人や団体、行政とも、さらなる連携のための協議を重ねている。

4月の講座で示す「学びの4象限」。長井先生と外部講師の嶋本勇介さんの合作。
嶋本さんは北海道を拠点に、「あしたの寺子屋」と名づけた、繋がる・学べる・会える場の提供を全国横断で展開している。

  

左から、総合的な探究の時間担当の千葉建二先生、1年次主任(前 総合的な探究の時間担当)の長井 翔先生。

取材・文/松井大助