Part③ 社会も教育も変わる今、進路指導・キャリア教育に求められる次の進化とは 【実践事例】 キャリア・パスポート…岩槻高校(埼玉・県立)/進路指導・キャリア教育 …四條畷学園高校(大阪・私立)/ 諫早高校(長崎・県立)/青翔開智中学校・高校(鳥取・私立)

▼ポートフォリオ

入試との接続、負担増を懸念しながらも、
生徒の成長促進を主目的に導入が進む

  

導入率は78%。
導入理由「生徒に振り返りや見通しを考えさせる」が8割  
ここからは進路指導やキャリア教育の変化について見ていく。  

まず、ポートフォリオについては、「学校全体、もしくは一部で導入・活用している」学校が78%と前回調査(2018年、データは割愛)の71%からさらに伸びた(図14)。設置者別では大きな差はなく、大短進学率別では40%未満の学校で71%と最も低い。

導入・活用の理由を見ると(図15)、「生徒に振り返りや見通しを考えさせるため」82%が突出して高く、「生徒が自らの成長を確認できるようにするため」59%、「教員が生徒の学習や活動を把握するため」37%と続く。「入学者選抜の合否判定に活用されるため」は2割にとどまった。フリーコメント5からは、入試での活用が不透明ななか、そこに照準を合わせた指導の難しさや教員や生徒の負担増などの課題が指摘されているが、先生方は、生徒が自身で振り返るという行為によって、「進路を深く考えるようになった」などのプラスの効果を感じている様子もうかがえる。

なおデータは割愛するが、今後の活用意向を見ると、未導入校でもそのうち51%が「今後は導入・活用したい」と答えており、全体では8割以上となっている。「JAPAN e-Portfolio(JeP)」の運用許可の取り消しや現場運用の課題はあるものの、「自ら学習を振り返って、主体的に学びに向かう力を育成する」という本質的な意義は、多くの高校で認識され、取り組まれていると言えるのではないだろうか。

【フリーコメント5】
ポートフォリオ活用について

  • 大学入試においてどのように活用されるのかが不明確で指導が困難(北海道/私立/普通科)
  • これまでを振り返り、今後を展望する生徒が増えた一方で、生徒、教員の負担増が心配(東京都/私立/普通科)
  • 学校行事、定期考査や模試等について振り返りをさせ次の活動にどう活かしていくかを考えさせているので、ポートフォリオにしっかり取り組んでいる生徒は自分の進路について深く考えるようになっている(奈良県/私立/普通科)

▼キャリア・パスポート

生徒が自分のキャリアについて小中高と
考え続けられるよう、整備が求められる

  

昨年開始のはずが、コロナ禍や
多くの改革のなかで実施は道半ば 
文部科学省主導で2020年度より小中高で一斉実施とされている「キャリア・パスポート」の取組状況を見た(図16)。「学校全体で取組を始めている」34%、「一部の学年、学科・コースで取組を始めている」10%で「取組を始めている・計」は44%。一方、「認識しているが取り組んでいない/取り組めていない」34%、「認識しているが、実施する予定はない」7%で、その合計は41%であった。認識している層の中での導入・未導入の割合は拮抗している。昨年度からのスタートであったにもかかわらず、コロナ禍やさまざまな改革への対応が相まって、まだ導入しきれていないというのが現状ではないだろうか。  

キャリア・パスポート導入校の実施理由は(図17)、「生徒に今の学びと自分の将来とのつながりを考えさせるため」63%、「生徒が主体的に進路を選択できるようにするため」49%、「生徒に自分の在り方生き方を考え、設計する力をつけさせるため」42%がトップ3で、学びと人生をつなぐ本質的な理由が高い。大短進学率別では、進学率の低い層でより導入が進んでいる状況があるが、進学率40%未満の学校で「生徒に自分の在り方生き方を考え、設計する力をつけさせるため」「社会人として必要とされる資質・能力を身に付けさせる等のキャリア教育を充実させるため」が高く、この意義・目的への共感が導入の鍵になっている可能性がある。

フリーコメントでは(掲載は割愛)、位置づけや負荷に対しての懸念も挙がっているが、「ポートフォリオに蓄積した情報を定期的に『キャリア・パスポート』へまとめさせ、活用し自己肯定感を育む取組として、担任団から評価を得ている」とポートフォリオと連動させて取り組んでいる学校もある。  

調査からは、本格導入はまだこれからといった状況も見受けられるが、今後、中学校で「キャリア・パスポート」に取り組んできた生徒がそれを持って順次入学してくる。生徒のキャリア検討を途絶えさせないためにも、高校でどのように活用していくかの検討が期待されている。


【実践事例】キャリア・パスポート

書くことで自分と向き合う機会を創出。
面談と組み合わせ、生徒の可能性を広げる

岩槻高校(埼玉・県立)

生徒の自己理解と教員の
生徒理解を図る「面談シート」
岩槻高校では、3年間を通して生徒が自己理解を深めて意志ある進路選択ができるよう、今年度よりファイル形式の「キャリア・パスポート」の活用を進めている。軸となるのが、生徒と担任の二者面談時に使用する「面談シート」(下図)だ。年度初めに行われる面談に先立ち生徒自身が記入するもので、すべての生徒・担任が使用している。面談シートならびに二者面談導入の背景には、大きく3つの課題があった。
「埼玉県では小中高を通したキャリア・パスポート『わたしの志ノート』の活用が始まっていますが、中学校での実践状況にはまだバラつきがあり、生徒の情報の引き継ぎや入学時点での足並みに課題がありました。また、本校はいわゆる進路多様校ですが、進路を考える段階で、志望動機や目指したい方向性についてしっかりと語れない生徒が少なくないという課題もありました。主体的なキャリア形成のためには、早い段階から自己理解を深めることが重要です。そのためには、学び・活動の蓄積や自分の意志を書くことを通して可視化する必要があると考えました。さらに、進路指導が進路指導部頼みになりがちななか、軸足をクラス担任に置き換えたいという教員間の課題もありました。これらのことから、入学直後を含む年度初めに二者面談を行うことを決定。担任の負担や指導のバラつきを軽減するためにも共通のフォーマットや資料があるといいだろうと、教務部や学年担当と協議して面談シ ートの導入に至りました」(大勝校長)  

面談シートは、これまでの活動・学びや自分自身についての振り返り、どんな年にするかという決意表明・目標、現時点での進路志望、進路実現のために必要なこと・課題、保護者からのコメントなどを軸に、各学年の特性に合わせた項目からなる。入学直後の1年生には高校生活に際しての心配ごとなど、中だるみしやすい2年生には日々の生活リズムなど、最終的な進路決定をする3年生には進路決定において心配なこと・先生に知っておいてほしいことなど、生徒が自分自身への理解を深めるため、そして、教員が生徒を知るために重要な要素が盛り込まれている。記入した面談シートは、3年間を通してオリジナルの「キャリア・パスポートファイル」(写真)にファイリング。その他の進路関係の資料とともに、学び・活動履歴の振り返りや面談のほか、進学先や就職先に提出する書類作成の際などにも活用していく予定だ。

3年生用の面談シート。
前学年の振り返りの項目は2年生用と統一し、比較することで生徒が自身の変化や成長を見て取れるようにしている。

先行き不透明な時代だからこそ
意志ある進路選択を支えたい
「生徒がどこまで真剣に取り組んでくれるのか、実際に面談に役立つのか、不安もあ った」と言う松田先生だが、4~5月にかけて行われた二者面談の後には、教員から感謝の声が寄せられた。
「年度が切り替わる多忙な時期に面談用の資料などを準備するのは大きな負担だったので、面談シートができてとてもありがたい、面談時に取りこぼしがちだった生徒の情報をしっかりと把握できるようになった…といった声をたくさんもらいました。何よりも、生徒が予想以上にしっかりと書いてくれていて。何度も書き直した形跡や保護者の方からのコメントを見ると、いろいろと考えながら一生懸命に取り組んでくれたんだな、家庭で進路について話すきっかけになったようだなと、本当に嬉しく思いました」(松田先生)  

今年度から本格始動したキャリア・パスポートの取組に、大勝校長は「大いに期待している」と言う。 「本校では学校推薦型選抜で進学する生徒が多いのですが、最初からその枠で考えると選択肢が狭くなってしまいます。自分が本当に行きたい大学や専門学校、学びたい学問領域や職業について考える機会が早くからあれば、総合型選抜や一般選抜にも幅を広げることができる。特に総合型選抜は早期の準備と意欲・目的意識が決め手になるので、キャリア・パスポートの取組が生徒の意識を高め、可能性を広げることに期待しています。そして、岩槻高校の文化としてこれをしっかりと定着させ、今年度策定予定のスクール・ポリシーにもつなげたいと考えています」(大勝校長)  

「未来へのパスポートとなるように」との願いを込めて、同校の前・美術教諭がデザインしたキャリア・パスポートファイル。
学年ごとに色が異なり、3年間を通して使用する。

面談シートは完成形ではなく、今後さらに進化させていきたいという松田先生。最後はこう締めくくった。 「変化が激しく先行きが不透明ななか、生徒は進路選択において難しい状況に置かれています。だからこそ、自分がどういう人間で何がやりたいのかについて考えを深め、自分の手で明るい未来を掴んでほしい。キ ャリア・パスポートは、そのための有効なツールだと確信しています」(松田先生)

左から、進路指導主事の松田広大先生、大勝浩司校長。

取材・文/笹原風花


▼社会で必要となる力/現在持っている力

必要な力の上位は経年で伸びているが、
現状と必要性の間にはまだGAPあり

  

「主体性」「課題発見力」に加え、
「創造力」が必要な力の上位に
図18は経済産業省で定義されている「社会人基礎力」のの要素のうち、社会で働くにあたって【特に必要とされる能力】と【生徒が現在持っていると思う能力】をそれぞれ3つまで選んでもらったものである。
【特に必要とされる能力】の上位を見ると、1位は「主体性」55%、2位は「課題発見力」42%、3位は「創造力」33%であった。3位にランクインした「創造力」は、前回2018年調査の23%から+10ポイントと大きくスコアを伸ばして「実行力」(30%)を上回り、順位が逆転している。また、「働きかけ力」も順位はまだ8位だが、2016年調査以降毎回スコアが伸びている。

持っている力の上位は変わらず。
「主体性」「課題発見力」が伸長も
「必要度」のスコアには届かない
一方、【生徒が現在持っていると思う能力】の上位は、1位が「規律性」で、そのスコアは58%と群を抜いて高い。以下、2位は「傾聴力」35%、3位は「柔軟性」22%で上位の顔ぶれに変化はない。これら上位の「規律性」「傾聴力」とともに、「主体性」「課題発見力」「実行力」「発信力」などが経年で徐々にスコアを伸ばしてきている。なかでも「主体性」(17%)は、「状況把握力」(15%)を抜いて、今回調査では4位に浮上した。これらの能力の伸長は、主体性育成を目指して各学校が取り組んできたことや、コロナ禍のなかで生徒自身が普段と異なることに挑戦する姿から先生方が少しずつ手ごたえを感じている兆しではないだろうか。

しかし、「主体性」「課題発見力」「創造力」など【特に必要とされる能力】の上位項目のスコアと【生徒が現在持っていると思う能力】との差を見ると、まだまだGAPが大きい。  

生徒に必要とされる能力は広範にわたり、教育現場への要求は年々高まっている状況ではあるが、このGAPを受け止め、学校として特に伸ばしたい力を明確にし、日々の教育活動で具体的にどう伸ばしていくのかを話し合うきっかけにしていただければと思う。


▼進路指導における課題

社会や働くことへの価値観の変化を受け、
進路指導も大きく転換する時期

「教員の時間不足」「生徒の決定力不足」「入試の多様化」に加え、
社会変化への対応が増加傾向
最後に、本誌が経年で追い続けている「進路指導上の課題」を見てみよう(図19)。1位【学校】「教員が進路指導を行うための時間の不足」57%、2位【生徒】「進路選択・決定能力の不足」52%、 3位【進路環境】「入学者選抜の多様化」49%、4位【生徒】「学習意欲の低下」45%であった。上位の顔ぶれは2018年調査と変わらないが︑いずれもスコアは経年で下がっている。

逆に伸びている課題は、【進路環境】「産業・労働・雇用環境の変化」(年比+9ポイント)、「仕事や働くことに対する価値観の変化」(同+6ポイント)、【学校】「旧態依然とした教員の価値観」(同+6ポイント)。急激な社会の変化を今回のコロナ禍がさらに加速させているなか、先生たちの価値観も含め、進路指導の変化がそれに追いついていないという学校の危機感が垣間見える。

前段で見てきたように、学校運営や教育そのものが、コロナ禍やICT、入学者選抜改革や新学習指導要領といった外部変化にも促され、本質的な変化を起こそうとしている今、進路指導も、社会環境の変化を受け止めて進化する転換点にあるのかもしれない。  

次からは、社会や生徒の変化を捉え、偏差値という価値観に変わる新たな軸で進路指導をバージョンアップしようと試みる3校の取組をご紹介したい。学校の外との接続、探究をコアにした進路支援、先生方の意識変革など、それぞれの課題感やビジョンに基づいた三者三様のアプローチになっている。


【実践事例】進路指導・キャリア教育

“なんとなく進学”を打破し、やりたいことを軸に
進路指導・キャリア教育

四條畷学園高校(大阪・私立)

“外部連携”と“対話”を重視した
新コースの挑戦を突破口に
普通科に「総合キャリア」「発展キャリア」「特進文理」「保育」「6年一貫」の5コースを設置する四條畷学園高校。職業を知る講座や大学・専門学校の授業体験などを組み込んだ3年間の計画的な進路指導を行い、卒業後は約9割が大学・短大・専門学校に進学している。進路指導部長の持永先生は、このプログラムにより進路決定時期が早まっている効果を感じる一方で、生徒の視野の狭さに問題意識をもつ。

「進路を早く決めて安心したい気持ちから、指定校推薦のなかから選ぼうとする生徒が多い。誰かから与えられるのではなく、生徒自身がやりたいことをしっかり考え、自分で進路を決めることが大切ではないか」(持永先生)  

それに対する突破口を開きつつあるのが、2019年開設の発展キャリアコースで始めた新しい取組だ。  

その特徴の一つは、多様な外部機関・講師と協働し、社会でどう生きていくかを考えさせる活動の充実にある。教員は日頃からアンテナを立てて連携先を模索しており、これまでNPO法人、ミネルバ大学生、生命保険会社のライフプランナーなどとの協働による多彩な講座やワークショップを実施し、生徒の興味関心を最大限に引き出してきた。20年度は新たに、学生と社会人が当たり前に関わる社会づくりを目指す団体ANOTHER TEACHERと共に1週間の交流イベントに挑戦。団体と議論を重ねて内容を練り、コロナ禍で軌道修正を図りながら、多様な職業のキャリアをもつ社会人16人の生き方についての講義と、社会人7人が生徒の悩みにアドバイスするワークショップをオンラインで開催し、好評を得た。

ANOTHER TEACHER企画講義例
  • パイロットについて
  • 海外で働くということ
  • 起業までの道のり
  • これから求められる IT 人材
  • 大学は何の為に行くの?
  • これから求められる社会人としての素質
  • 夢の見つけ方

…など

「教師だけの狭い世界観に生徒たちをとどめないよう常に意識。イベントのほか、新聞を活用した時事問題ワークの導入などで、生徒の社会への関心はずいぶん高まってきています」(発展キャリアコース・岡本先生)  

しかし、「社会に触れるだけでは、生徒自身の目標を見つけるには不十分」と岡本先生。「海外に興味があるから通訳」のように短絡的に考える生徒も多いなか、自らの興味関心を掘り下げて多様な進路の可能性を拓くため、「対話」を重視した支援にも取り組んでいる。それが同コースの進路指導のもう一つの特徴である。  

教員も日頃から生徒一人ひとりへの声かけを心掛けているが、加えて、3学年では国際教養大学の学生団体と連携した新しい取組を開始。探究活動を深めるサポート役として生徒に一人ずつ大学生が付き、 Slack(メッセージングアプリ)やZoomで生徒からの質問や相談に対応している。

「教員志望の学生たちということもあって問いかけがうまく、丁寧に生徒の思考を広げてくれる。対話の内容は探究テーマにとどまらず、生徒は進路の相談をすることも。年齢の近い学生の協力によって、生徒の想いに寄り添ったアドバイスを組織的に行 っていければと考えています」(岡本先生)  

Slackのチャンネルには担任も参加し、対話履歴は文書にまとめてGoogle上で共有。また、教員側と学生側のリーダーは定期的に連絡を取り合い、足並みを揃えている。「促す・紹介する・見守る・褒める、を進め、『教師』の定義を組織的なファシリテーターに変えていきたい」と岡本先生。 

こうした新しい取組のなか、生徒の進路選択にこれまでにない傾向が見られるようになった。今年度3学年になった同コース一期生には、難易度にとらわれず、自分の興味関心を軸にした多彩な進路希望をもつ生徒が多い。
「生徒の中に、自分の興味関心を大切に進路について考えようという意識が育っています。だから、ちょっとしたきっかけで『これだ!』と思った瞬間、ものすごいスピードで変わっていく。この子こんなに意欲的やったんや、と新たな一面を見せてくれる生徒もいます」(岡本先生)

高卒就職にも光を当て
支援体制を整備
発展キャリアコースでの取組を参考に、今後は他コースの進路指導も見直しを図り、より多くの生徒の可能性を広げていく計画だ。そのなかで、現在はごく少数である高卒就職という選択肢にも光を当てる。 「きっかけは単純に、うちの学校はなぜこんなに就職者が少ないんだろう?と思ったことです。やりたいことが明確にあるなら、進学せずに就職する選択もあるはずが、現状は『なんとなく進学』が多い。本当にやりたいことに向かって何が最も良いのか、就職も含めてもっとフラットに考えてもいいのではないでしょうか」(持永先生)

第一段階として、20年度から就職支援企業(株)アッテミーと協働した求人開拓や就職指導を開始。教員の指導スキル向上とノウハウの蓄積を図り、生徒が自分の将来を切り拓いてやりたいことを実現できる“進学でも就職でも頼れる学校”を目指している。 「生徒の進路選択を狭めているのは、実は教員の固定観念が大きいのかもしれません。まずは教員が進路指導に関する視野を広げることから始め、自分でしっかり考えて進路を決められる生徒を育てていきたいと思います」(持永先生)

  

左から、発展キャリアコース第3学年(1期生)担任・岡本創太先生、進路指導部長・持永大輔先生。


成績で決める進路指導を脱し
生徒を多面的に伸ばす学校へ

諫早高校(長崎・県立)

“偏差値の話NG”のキャリア検討会を軸に
学校の文化を変える
成績に基づく受験校決定のための進路検討会を行う学校は多いが、諫早高校はそれに加え3年前より、生徒のキャリア支援のため、偏差値や成績の話を一切しない「キャリア検討会」を実施している。  

同校は国立大学進学実績を誇る地域トップクラスの進学校だ。「生徒はひたすら勉強にエネルギーを注ぎ、自分が何者かを うしろだ考える暇もなかった」と前進路指導主事の後田先生。もっと生徒がもつ多様な力を伸ばそうと、課外学習や課題を減らして生徒に時間を預けるとともに、外部講演会の企画・運営を任せるなど生徒の主体的な活動の場を創出。そこから火が点き、自ら学校行事の企画や海外ボランティアなどに挑戦する生徒が出るようになった。そんななか、「生徒がどんな活動をして、どう成長しているか、多くの先生方に知ってほしい。模試結果だけでなく志望理由を語る面談につなげてほしい」(後田先生)と始めた のがキャリア検討会だ。  

同会は学年団と進路指導部が参加し、1学年12月、2学年10月、3学年5月に実施。志望大学や活動内容などが記入され た生徒個人票から、特に多様な活動で伸びそうな生徒を選んで取り上げ、学校ができる支援をみんなで考えていく。例えば1学年であれは、関心の方向性が近い生徒同士や外部イベントを紹介して活動を広げる「人つなぎ・場つなぎ」。2学年ではこれから参加できるコンテストなどへの挑戦促進。今年度から導入した3学年では、多様な入試方法を見据えた準備につなげる。  

こうして背中を押されて活発化する生徒たちを核に、さまざまな活動をしながらキャリア形成していくことの価値が校内に浸透してきた。「先生方は日常的に『こんな活動している子がいるよ』と話すなど、生徒を多面的に見ている」と園田先生。今春は初めて海外大学進学者も出るなど、後田先生が言う「とがっ た進学先」を狙う生徒たちが増加。出口が変わると入口も変わ り、「この学校でこんなことがやりたい」と多彩な生徒が入学してくる。「学習に力を注ぐ生徒もいれば、校内外の活動を重視する生徒もいて、お互いにリスペクトし合い、教員はそのどちらも支援する。多様な個性を認め合う文化ができてきた」と後田先生。そんな進学校の変革に、キャリア検討会の果たした役割は大きいという。

左から、教務主任・後田康蔵先生、進路指導主事・園田浩二先生。

探究と進路を一体的に設計し
生徒の進路実現に伴走

青翔開智中学校・高校(鳥取・私立)

進学先と「探究のテーマ」を
セットで発表
青翔開智高校は、卒業生の大学等合格実績を、各生徒が在学中に取り組んだ探究テーマとセットで発表している(図1)。 2014年の創立以来、建学の精神にも掲げる「探究」を軸に、新しい学校づくりに取り組んできた同校。探究と進路を一体的に設計する教育方針が、こうした発表方法にも一気通貫している。  

探究と進路のいずれでも、目指すのは、生徒一人ひとりの中にある「興味」「能力」「価値観」、そして「社会」の4点が重なり合う、自分の核を見つけることだ(図2)。これを基に6年間の探究プログラムを構築。探究スキルの習得とともに、企業や世界のさまざまな課題解決などに取り組み、集大成として高2で自分の核に基づく個人テーマを設定し、探究を深めて論文にまとめている。  

図1 卒業生の合格一覧。左2項目が進学した学校と学部学科名、右が探究論文のテーマ。

図2 偏差値だけではない多様な価値観をゲームを通じて学ぶなどし、4つの円が重なる部分を探究と進路につなげていく。

個人探究の支援には教員全員であたる。最初は多くの教員との対話を通じて多様な考え方に触れさせ、テーマが定まってき たところで担当教員を決め探究を個別に支援。そしてその教員が、そのまま進路決定プロセスにも伴走するのだという。生徒の活動状況はデータで蓄積し、担任を含む教員間で共有。職員室では教員同士が絶えず生徒を話題に話し合う。「共有システムや会議以上に、日常的な話の積み重ねが生徒支援の力になる」と森川先生。  

探究でホスピスのあり方に取り組んだ生徒は医学部へ、食品のアレルギー表示に取り組んだ生徒は農業系学部へ進学するなど、多くの卒業生が探究のテーマや経験を軸に進路を決定。 「生徒が自分で考え、自分で学力を上げ、自分で進路実現する。そのために我々はどのような支援をすれば良いかを常に考え、自己調整学習など新しい取組も導入していきたい」(織田澤おたざわ校長)

左から、織田澤博樹校長、進路支援主任・森川真吾先生。

取材・文/藤崎雅子