Case 生徒の“学び”と“成長”をつなぐ、高大連携事例①北稜高校&京都光華大学

生徒の探究支援でつなぐ

生徒自らの活動を大学と共に支援。
学ぶ意欲と自信を引き出す

・北稜高校(京都・府立)
・京都光華女子大学(京都・私立)

  

探究や協同へのイメージが
マイナスからプラスに変化
北稜高校の地域活性化プロジェクト(PJ)に取り組む生徒へのアンケート結果に、興味深いデータがある。年生では、「探究学習」や「他者との協同」に対してマイナスイメージが強く、コミュニケーションスキルなどの能力に対する自己評価も低めだ。しかし、3年生では一転、探究学習や協同のイメージが大きくプラスに転じ、能力に対する自己評価向上の可能性もうかがえる(図)。  

なぜ学年進行でこのようにプラス方向に変化するのか。その理由を、実践の主導者である同校の松原久先生と、同校との高大連携に取り組み、アンケート結果を論文(地域連携教育研究・2021)にまとめた京都光華女子大学・高野拓樹教授に伺った。

「高大連携型教育を用いた探究学習に関する実践的研究 -探究学習に対する生徒のイメージやスキルに影響を及ぼす要因-」(地域連携教育研究,2021)のデータを使用し、編集部にて図作成。上図のほか、「他者と協同して活動することに対する生徒のイメージ」についての質問でも、2年生平均値3.83点に対し3年生平均値3.08点と学年進行でプラスに変化(7件法で調査/数値が小さいほどプラスイメージ)。また、「考えや意見、タイプの異なる周囲の人とも協力しようと努力できるか」の質問については選択肢1(そう思う)の割合が2年生より3年生が多く、論文では、コミュニケーションスキルに対する自己評価が学年進行によって向上している可能性が指摘されている。


主権者としての力を
地域や大学と共に育てたい
北稜高校の総合的な探究の時間では、1学年は表現スキルの学習を中心に行い、コース別カリキュラムに分かれる2学年から、各コースの特徴を活かした探究プログラムに取り組む。そのなかで文理コース文系選択者(※)が行うのが、地域活性化PJだ。「主権者として本当に地域のためになる政策かどうかを見極める力を育てたい」と、松原先生が5年前に立ち上げた。地域の課題を自分たちで調べてみようという気負わない取組からスタートさせたが、毎年「先輩を超える活動をしよう」と生徒を後押しするうちに、地元企業・団体のほか、近隣の大学を幅広く巻き込んで進めていく活動へと発展してきた。

例えば、「地元の食ツーリズム推進」チームは、地域の伝統食の復元・活用について京都光華女子大学教員にアドバイスをもらい、大阪府立大学教員の指導を受けて雑煮の分布図を作成し、現代風にアレンジした伝統食を提案した。また「、地元無人駅のプロモーション」チームは、京都光華女子大学教員からプロジェクションマッピングについて学び、鉄道会社と連携して冬に投影イベントを開催する計画だ。そのほかにもさまざまな大学や企業などの指導・協力を得て探究を進めている。

教員の役割は、
外に出たがらない生徒の背中を押すこと
同校の生徒は穏やかで落ち着きがあるが、「良くも悪くも目立つことなく無難に過ごし、行動面には物足りなさもある」という。そんな彼らにとって、学校外に出ての活動は簡単なことではない。最初は「できない」「しんどい」「やる意味がわからない」と否定的な声が上がる。

そこで「教員が手足を動かさないと、生徒も動かさなくなる」と、活動の先鞭をつけるのは教員だ︒松原先生は暇さえあればインターネットで論文をチェック。生徒の活動と関連がありそうなテーマを見つけたら研究者に連絡をとるなどし、日常的に相談ができる大学教員を増やしてきた。  

そうして培ったネットワークや知見を基に、生徒たちのやりたいことや課題に応じて大学の研究やその教員などをアドバイスするが、実際のコミュニケーションは生徒に委ねる。自らアポイントを取って大学を訪問するよう促し、さらに壁にぶつかったり煮詰まったりしている生徒がいたら「もっと大学の先生に聞いてみては」と背中を押す。  

尻込みしていた生徒たちだが、思い切って一歩踏み出すと変化し始める。「高校の教員とは違う立場からのアドバイスが生徒に響く」のか、次第に松原先生が知らない間にも大学を訪問するようになる。大学教員に相談するなかで別の教員を紹介してもらうなど、生徒自身で関係性を広げるといったケースも出てきた。
「大学の先生方に知的好奇心を揺さぶられ、もっと知りたいという気持ちが行動力につながっているのではないか」(松原先生、以下同)  

年度末に開催する地域活性化PJ発表会には、「ご指導による生徒の成長の姿をきちんと返していくことが大切」と、PJに協力した大学教員も招待する(2020年度は発表を動画配信)。その前日準備では教員が帰宅を促しても生徒は「もう少し」と粘り、当日も直前まで調整を続ける。
「これまで思い切った挑戦や自ら困難を乗り越える経験が少なかった生徒たちにとって、PJをここまでやりきったという成功体験は大きな自信になる。だからこそ、マイナスイメージの強かった探究や協同にも前向きな気持ちが引き出されるのだと思います」  

3学年ではそれぞれ新たな探究学習に取り組む。引き続き地域課題に関わる生徒も多い。また、大学との接点のなかで「この研究室で学びたい」と進路目標を見つける生徒もいる。
「大学での学びがイメージできるようになることが大きい。こんなふうに学ぶために今から勉強をがんばろう、という進学意欲や学習意欲になるのでしょう」

生徒が自ら広げる
高大連携に成長のカギがある  
同校の地域活性化PJにおける高大連携は、学校側で作り込まず、生徒の主体性に重点を置いている点が特徴だ。教員が手をかけるのは、生徒が大学に足を運ぶきっかけを作るまで。あとは、生徒自身が大学教員のアドバイスを受け、大学のリソースを使って自らの探究を深めていく。生徒にとってのハードルは高いが、「そこに成長のカギがある」というのが、高野教授の見立てだ。  

同校では、他コースにおいても高大連携を取り入れた探究学習を推進している。今後、地域活性化PJの実践例も参考に、学校全体の探究学習の一層の充実に取り組んでいく方針だ。そのなかで松原先生が進めていきたいのは、一定時間を大学教員に預けるだけの単発の連携ではない、高校と大学がwin-winとなる〝攻めの連携〞だという。
「大学の先生方からは、高校生を知ることが大学の教育改善に役立つという話も聞かれます。お互いに身構えるのでなく、『一緒にこんな生徒を育てよう』と語り合い、それぞれの良さを活かす連携をしていけたらと思います」

※2021年度入学者より「英語人文」「環境理数」「総合探究」の3コースに改編

京都光華女子大学 学長特別補佐 教授
京都大学 特任教授
高野拓樹先生

北稜高校 地域活性化プロジェクト担当 教諭
松原 久先生


大学の視点

高校の先生方と共に
“自分で考えて行動する人”を
育てていきたい

京都光華女子大学 高野教授

かつては、単発の出張講義という形で高校に行くことが大半でした。手っ取り早い “高大連携”ですが、「それは単なる“体験” ではないか。もっと高校生の“学び”に携われないものか」という思いがありました。

そんななか、2011年に大学コンソーシアム京都の活動の一環で、高校の探究学習にカリキュラム設計から参加し、連続的に講座をもつ機会を得ました。どのように高校生を育んでいくか、高校の先生方と共に何度も打ち合わせを行って進めていったのですが、そこで高校側の担当者として出会ったのが松原先生です。  

その後、松原先生の北稜高校異動後も交流は続き、「探究で何か面白いことを始めたい。協力してもらえないか」と相談されたことから、北稜高校の地域活性化PJでの連携も始まりました。毎年、夏休み明けに、専門である環境問題を切り口にして、探究学習の取り組み方についての講座を開いています。また、随時、高校生からの相談に対応し、そのなかで他学科の教員を紹介することもあります。  

こうした高校生との関わりのなかで私が重視しているのは、「知識を与える」のではなく「生徒に考えさせる」こと。自分で考えて行動する人に育ってほしいからです。目指すところは高校の先生方も同じだと思います。探究というフレームを活用して連携を深めれば、そんな共通の目標に共に取り組めるのではないでしょうか。  

大学にとって、高校生の探究への深い関わりは、高校生の成長の様子を自らの教育に活かすことのできる貴重な機会です。カリキュラムレベルでの高大連携に向けて一歩踏み出そうという高校に、大学は広く門戸を開いています。

取材・文/藤崎雅子